国連を舞台とする米中の動向と日本05


 「国連を舞台とする米中の動向と日本」と題するシリーズの第5回目です。私が事務総長を務めるUPFは、国連経済社会理事会の総合協議資格を持つNGOであるため、国連の動向に対しては関心を持たざるを得ません。最近の国連において最も懸念すべき問題は、中国の影響力の増大と米国の国連離れです。このシリーズでは、国連の成り立ちから始まって、米中が国連を舞台にどのような抗争を繰り広げているのかを解説します。その中で日本の立ち位置も考えてみたいと思います。

 前回は中国の「海洋進出」と歴史認識、「一帯一路」構想、中国によるWHO支配などについて説明しました。

挿入画像11=国連を舞台とする米中の動向と日本

 実はWHOだけではなく、国連の15ある専門機関のうち、上記のように4つで中国人がトップを務めています。一目瞭然ではありますが、複数の機関でトップを輩出している国は中国の他にはありません。日本は各機関への拠出額では2位とか3位なのですが、1つのポストも得ていないということになります。それだけではなくて、中国は昨年3月の世界知的所有権機関の事務局長選挙にも候補者を擁立しました。もしここが中国に取られたら大変なことになります。なぜかというと知的財産権侵害の常習犯が中国だからです。前評判では中国出身のワン・ビンインという女性が優勢だったのですが、さすがにそれはまずいだろうということで、日・欧・米が結託してシンガポールのダレン・ダン氏を推して当選させたわけですが、国際機関への中国の進出はめざましく、既に「時遅し」という状況になっております。

 国連において中国は「外交的勝利」というような状況を既に構築しています。例えば中国が昨年の夏、香港への政治的弾圧を強めると、国連人権理事会(UNHRC)では真っ向から対立する2つの文書が加盟国の間で出回りました。1つはキューバが策定した中国政府の動きを称賛するもので、53カ国が支持をしています。もう1つは懸念を表明したイギリス策定の文書なのですが、こちらは27カ国の支持にとどまりました。ですから香港であれだけひどいことが起きていながら、国連の中では中国の味方をする国の方が多いという現実があるのです。昨年3月には、「人権侵害に関する国連の特別報告者」というポストがあるのですが、それを選出するパネルで中国が委員の座を確保しました。この特別報告者はかつて、新疆ウイグル自治区における中国の人権問題を強烈に批判してきたポストなのですが、その選出にも中国が関われるようになってしまったということです。

 国際機関の制度を自国に優位な方向へと誘導しようと、いま中国は各国への働きかけを強めています。長年にわたって組織的な外交攻勢を仕掛けていた中国が、その最大の受益者として台頭しているのです。国連組織で影響力を握ることによって、中国は国内外における自らの言行について、国際社会の追求を阻止することが可能になってしまいました。一方のアメリカは2018年に国連人権理事会を脱退しており、人権問題については発言権を持ちません。ですからいまや、中国が国際機関を利用してアメリカに対抗する時代になってしまったのです。

 それでは、アメリカと国連の関係はどうなっているのでしょうか。もともと国連の創設が決まった1945年にアメリカ合衆国議会は、国連本部の自国への誘致を決定しました。ですから、この頃のアメリカは国連に対して大変積極的だったということです。ロックフェラー2世から850万ドルの寄付もあり、ニューヨーク市マンハッタンに国連本部が入るビル群ができました。ですから、いまでも国連といえばニューヨークです。この頃まではアメリカは国連に対して積極的な姿勢を示していました。国連発足当時は、「安全保障理事会中心の集団安全保障」という国連の理念を、アメリカもまだ信じていたということです。しかし、米ソの対立が顕在化する中で、安保理が機能不全になり、アメリカの「国連離れ」が始まっていったのです。

 そして1960年代には旧植民地諸国の独立が相次いで、国連に加盟して構成国が急増しました。ここでソ連は多くの開発途上国と友好関係を築き上げて、彼らをまとめて反米の方向に誘導したわけです。そうすると国連が反米活動の場になってしまったので、国連はアメリカにとって非常に居心地の悪い場所になってしまったのです。加盟国が増加すると、一国一票なので、どんなに人口の小さな国でも一票持っているということで、小国の発言力が増して、相対的に安全保障理事会に対する総会の位置づけが強まりました。そしてベトナム戦争のときにはアメリカは多くの非難を受けて、国連はアメリカの国益に反する場所になっていったのです。

 しかし一方で、国際社会の現実としては、政治、経済、軍事、情報、全ての分野でアメリカの国力は突出しており、いわば「別格」的存在になっています。ですから、たとえアメリカが国連憲章を無視して国際法に違反したとしても、国連にはそれを阻止する力はありません。ですから結局アメリカは当初の「四人の警察官」構想から「一人の警察官」へと方向転換し、単独行動主義的な行動を取るようになってしまったのです。そしてアメリカと同盟関係にある先進国のグループは、サミットや有志連合のような形で物事を決めて実行していくようになり、国連の枠外で共同行動を取る傾向が強くなっていったのです。すなわち、国連軽視という方向に向かっていったということになります。

 しかし、一人で警察官をやるといってもそれは大変です。アメリカも国力が下がってくると、だんだんそれができなくなってきます。そして2013年にオバマ大統領がテレビ演説の中で「アメリカはもはや世界の警察官ではない」という話をしてしまいます。これが世界に対して、「問題を起こしても米軍は介入しない」という、抑止力の不在というメッセージとして受けとめられたので、中国で、ロシアで、イスラム国でさまざま問題が勃発するようになりました。

 このオバマ大統領の後任がトランプ大統領です。トランプ大統領は「私達の計画はアメリカ第一主義だ。グローバリズムではなく、アメリカニズムを信条とする」と言いました。あくまでアメリカが第一なのだということですから、国際的には孤立する方向に向かっていかざるを得ません。国際協調を重要視しないわけですから、国連も重要視しないということになります。

 トランプ政権下において、アメリカの国連離れは加速します。2017年の10月にはUNESCOを脱退します。2018年の7月には国連人権理事会(UNHRC)を脱退します。2019年11月には地球温暖化を防止するための「パリ協定」からの脱退を表明します。そしてさらにWTO、国際貿易機構に対しても、「これは中国を守っているだけだ」と批判しましたし、さらにコロナの問題でWHOからも脱退に着手するということで、どんどん国連機関から外れていこうとしたのです。アメリカがこういう状況だと、日本はどうしたらいいのだということになります。

カテゴリー: 国連を舞台とする米中の動向と日本 パーマリンク