『世界思想』巻頭言シリーズ07:2021年5月号


 私がこれまでに平和大使協議会の機関誌『世界思想』に執筆した巻頭言をシリーズでアップしています。巻頭言は私の思想や世界観を表現するものであると同時に、そのときに関心を持っていた事柄が現れており、時代の息吹を感じさせるものでもあります。第七回の今回は、2021年5月号の巻頭言です。

国連を舞台とする米中の動向と日本

 UPFは国連経済社会理事会の総合協議資格を持つNGOであるため、国連の動向に対しては関心を持たざるを得ません。最近の国連において最も懸念すべき問題は、中国の影響力の増大と米国の国連離れです。

 もともと国連は、第二次大戦後の世界における平和維持のシステムとして構想されました。それはルーズベルトの米国、チャーチルの英国、蒋介石の中国、スターリンのソ連の四カ国が「世界の警察官」の役割を果たすことによって平和と安全を維持しようという、「四人の警察官構想」として出発しました。そこにヤルタ会談でフランスが加えられ、五カ国が安保理常任理事国となったのです。

 国連発足当時は現在の中華人民共和国ではなく、台湾に政府を移していた中華民国が代表権を持っていました。しかし東西冷戦が深刻化する中で中国代表権問題が激しい対立点となり、ついに1971年の国連総会で中華人民共和国政府に代表権が変更され、台湾追放が採決されました。このとき以来、中華人民共和国は安保理の常任理事国ともなり、世界の大国の一つと位置づけられることとなります。

 中国は長年にわたって組織的な外交攻勢を仕掛け、国際機関の制度を自国に優位な方向へ誘導しようとしてきました。そしていまや、国連組織で影響力を握ることで、中国は国内外における自らの言動について、国際社会の追及を阻止することが可能になったのです。

 例えば、現在15個の国連専門機関のうち、4つで中国人がトップを務めています。複数の機関トップを輩出している国は他にありません。国連経済社会局は事務局長に中国の劉振民氏を迎え、いまや中国の「一帯一路」計画の推進とその宣伝活動を行う部署になったと言われています。中国が香港への政治的弾圧をどんなに強めても、国連人権理事会では中国政府の動きを懸念する文書よりも、称讃する文書の方がより多くの支持を集めるというのが現実なのです。

 国連創設当時は、米国は国連本部の自国への誘致を決定するなど、国連に対して積極的な姿勢を示していました。しかし、米ソ冷戦が顕在化する中で、安保理は機能不全となり、米国の国連離れが始まります。1960年代に独立した旧植民地諸国が国連に加盟すると、ソ連はこれらの開発途上国をまとめて反米の方向に誘導しました。

 こうして国連が米国の国益に反する場所になっていく一方で、国際社会の現実としては、政治、経済、軍事、情報、すべての分野で米国の国力は突出し、別格的存在となっていきます。たとえ米国が国連憲章を無視し、国際法に違反しても、国連にはそれを阻止する力はありません。トランプ政権下では、米国はUNESCO、人権理事会、パリ協定からの脱退を表明し、米国の国連離れが加速しました。

 日本の外交方針は、日米同盟と国連中心主義という二つの原則を表明しています。これは米国と国連の関係がうまくいっていれば矛盾しませんが、米国と国連が離反する場合には、どうしても日米同盟が本音で、国連中心主義は建て前になってしまいます。バイデン政権に対しては、中国に対する厳しい姿勢を維持しつつも、国際協調を重視する政策を期待します。

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