解散命令請求訴訟に提出した意見書01


 2023年10月13日、文部科学省は世界平和統一家庭連合に対する解散命令を東京地裁に請求した。2024年2月22日午後、この解散命令請求を巡り、国側と教団側双方から話を聞く第一回目の「審問」が東京地裁で開かれた。今後この裁判は教団内外の注目の的となることが予想されるが、実は私は家庭連合の顧問弁護士である福本修也氏を通して、東京地裁に「意見書」を提出している。意見書はさまざまな専門家や有識者から出されているが、私の専門分野は「マインド・コントロール論」と「ディプログラミング」であるため、このテーマに絞った意見書を執筆した。A4で30枚、約36,000字の長い意見書になったが、本日よりシリーズでこの意見書の内容をアップしたい。なお、裁判所に提出した意見書本文には実名で記載されているが、ネット上で公開するにあたってはプライバシーの保護のためにイニシャルに記載を変換した場合があることを最初にお断りしておく。それでは早速意見書の内容に入りたい。

意見書
令和5年12月22日
魚谷俊輔

1.意見書の主旨
 盛山正仁文部科学大臣は、2023年10月13日に世界平和統一家庭連合(以下、「家庭連合」もしくは旧称である「統一教会」という)に対する解散命令を東京地裁に請求した際に記者会見を行い、解散命令請求の理由として以下のような趣旨の内容を述べた。

 「教団は遅くとも昭和55年頃から、長期間にわたって多数の方々に対し、自由に制限を加え正常な判断が妨げられる状況で多額の損害を被らせ、生活の平穏を妨げた。多くの人に多額の被害を被らせ、その親族を含む生活の平穏を害する行為をし、教団の財産的利得を目的として、献金の獲得や物品販売にあたり、多くの人を不安または困惑に陥れ、その親族を含め財産的、精神的犠牲を余儀なくさせ、生活の平穏を害する行為をした。こうした行為が、宗教法人法第81条1項1号および2号前段の解散命令事由に該当するものと判断した。」

 ここでいう「自由に制限を加え正常な判断が妨げられる状況」とはいわゆる「マインド・コントロール」を指し、家庭連合が「マインド・コントロール」により信者を獲得し、それによって多くの被害者を生み出してきたことが解散命令事由に該当すると言っているわけである。一方、文部科学省が提出した陳述書において「被害」を訴えている者の中には、拉致監禁を伴う強制棄教によって教会を離れ、後に民事訴訟の原告となって教会を訴えた者たちが含まれている。こうした拉致監禁を伴う強制棄教のことを、英語圏では「ディプログラミング」と呼んでいる。家庭連合から被害を受けたと訴える人が多数存在する理由の一つが、信者の親族とキリスト教の牧師や職業的な脱会屋が結託して「ディプログラミング」を行うことにより、「被害者」を作り出してきたからである。さらに彼らを原告として、教会を相手取って損害賠償請求訴訟を起こさせる活動が組織的に行われてきた。
そもそも「マインド・コントロール言説」とディプログラミングはセットであり、切っても切れない関係にある。それは「マインド・コントロールされている人は自由意思を奪われており、自分の力ではカルトから脱会することはできない。そこで一時的には本人の意思に反してでも身体を拘束し、マインド・コントロールを解いてあげなければならない。それが最終的には本人を救うことになるのだ」という信念に基づいて、新宗教運動の信者に対するディプログラミングが行われてきたからである。一言でいえば、「マインド・コントロール言説」によってディプログラミングが正当化されてきたということになる。したがって、「マインド・コントロール言説」が間違いであることが明らかになれば、ディプログラミングの正当性は否定されることになる。よって本意見書では以下の6つの観点から、この主張が誤りであることを論証する。
 ①アメリカにおける「洗脳・マインド・コントロール言説」の終焉
 ②アメリカにおけるディプログラミングの終焉
 ③日本における「マインド・コントロール言説」と強制改宗
 ④日本における「マインド・コントロール言説」に関する判決
 ⑤なぜ「マインド・コントロール言説」を信じる人がいるのか?
 ⑥ディプログラミングがもたらす被害の深刻さについて

2.私の経歴と「マインド・コントロール理論」に関する知識について
 私は1964年に千葉県に生まれ、1987年に東京工業大学工学部化学工学科を卒業した。在学中に原理研究会を通して家庭連合の信仰を持つようになった。現在も家庭連合の信徒である。1995年に米国統一神学大学院神学課程(Unification Theological Seminary Divinity Course)を卒業し、2000年に天宙平和連合(UPF)の前身である世界平和超宗教超国家連合(IIFWP)が日本に創設されるにともない、事務次長に就任した。2017年8月より、UPF日本事務総長を務めている。IIFWPとUPFはどちらも、文鮮明師夫妻が提唱する世界平和実現のための運動(統一運動)の一環として創設された団体である。IIFWPは1999年に韓国で創設され、2004年7月に国連経済社会理事会の特殊協議資格を持つNGOとして登録されている。IIFWPの創設目的は、世界的な宗教指導者たちの和解と協力を促進し、国連の中に宗教の壁を越えた平和のための協議会である「超宗教議会」を設立することにあった。UPFは2005年にその前身であるIIFWPが名称変更したことによって誕生したため、基本的な目的は同じである。

 UPFは、「One Family Under God(神の下の一家族世界)」をビジョンとして掲げ、平和と人間開発、相互依存、相互繁栄のためのネットワークづくりを推進している。2018年にはUPFは国連経済社会理事会(ECOSOC)において総合協議資格を取得しており(2021年現在、国連NGOは5450団体が登録されているが、総合協議資格を有するのは140団体である。)、その活動の公益性は、国際的に評価されている。

 UPF-Japanはニューヨーク州テリータウンに本部を置くUPFインターナショナルの日本支部である。UPF-Japanは、1)平和国連のモデル形成、2)日米韓を基軸としたアジア太平洋文明圏の形成への貢献、3)平和家庭理想を基盤とした為に生きる「奉仕文化」の定着を目標として、以下の事業に取り組んでいる。①国際交流、親睦、連帯のための諸活動、②国際会議、シンポジウム、セミナー、研究会など、③諸団体との連携および地域社会活動、④機関紙の発行およびその他の広報活動、⑤平和大使の任命と平和大使協議会による諸活動、⑥その他、上記の目的を達成するために必要な事業。UPF-Japanの事務総長の職責は、議長を補佐し、各部局の活動全般を統括することである。

 またこれまで私は、「マインド・コントロール理論」に対する批判的な研究者としての立場から、増田善彦著『「マインド・コントロール理論」その虚構の正体』(1996、光言社)の編集協力、及び『統一教会の検証』(1999、光言社)の執筆を行い、2023年3月には『間違いだらけの「マインド・コントロール」論』(賢仁舎)という著書を出版した。また、『「洗脳」「マインド・コントロール」の虚構を暴く』と題する個人ブログ(http://suotani.com/)では、このテーマに関する膨大な量の論考を発表している。

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