序章 学界や宗教界では相手にされない「理論」


「マインド・コントロール」という「理論」は、もともとアメリカで宗教運動から信者を強制的にやめさせるための犯罪的行為を正当化するための理論として出現したものです。

 

日本国内でのマインド・コントロールという言葉は、アメリカの世界基督教統一神霊協会(以下、統一教会)の元信者だったスティーヴン・ハッサン氏と、彼の著書『マインド・コントロールの恐怖』(恆友社)によって広められましたが、この本において彼が主張する理論は、非科学的であり、明らかに反宗教的なイデオロギーに基づいた「空論」であることは、まだ国内では認識されていません。

 

 

スティーヴン・ハッサン氏の虚偽の経歴

 

まず、日本でハッサン氏の著書が影響力をもつようになった理由の一つとして、彼の経歴が「アメリカ統一教会全国本部の元・副教会長」と虚偽に誇張されて紹介されたことにもあるようです。したがって、まずアメリカ統一教会時代の彼の隠された経歴を明らかにすることから始めることにしましょう。

 

筆者は、一九七三年夏に国際指導者セミナーのスタッフとして渡米し、一九九四年春に韓国鮮文大学から神学部の教授として招請されて訪韓するまでの約二十一年間、アメリカで活動しました。渡米後、一九七五年にニューヨーク州の統一神学校に入学するまで、ニューヨーク教区の統一教会で活動したので、個人的にもハッサン氏のことをよく知っているのです。

 

彼が統一教会に入会したのは、ニューヨーク市立クイーンズ大学の学生の時で、初めニューヨーク市クイーンズ区フラッシング町にある統一教会センターに入会しました。

 

彼が実際に「副教会長」になったのは、アメリカ全国の教会本部の副教会長ではなく、ニューヨーク州の州全体の副教会長でもなく、ニューヨーク市全体の副教会長でもなく、ニューヨーク市を構成する五つの区の一つであるマンハッタン地区の統一教会の副教会長を、ほんの短期間経験したに過ぎません。

 

離教前、彼はファンドレイジング・チームのキャプテンをしていました。キャプテンとしてチームのマイクロバスを毎日運転していましたが、交通事故を引き起こし、その後治療静養中に離教したのです。

 

それなのに、ハッサン氏の著書『マインド・コントロールの恐怖』の邦訳者、浅見定雄教授や日本のマスコミが、彼がアメリカ全国の統一教会の副教会長の立場にあったというような虚偽の報道をして、マインド・コントロール理論の日本における宣伝やハク付けに利用してきたので、彼の統一教会員時代の本当の経歴を、まず明らかにしました。

 

 

 

訳者、浅見定雄教授の犯罪的行為

 

次に、訳者の浅見教授について言及しましょう。自分の専門の旧約聖書神学とは無関係の『マインド・コントロールの恐怖』のような本を、翻訳、出版し、アメリカの専門学者の学会誌では見向きもされなかったエセ科学的な本に、一種の「権威」を与えたことに対して、浅見教授は責任を負わねばなりません。このような無責任な翻訳出版活動は、彼が宗教心理学や宗教社会学を専門的に正式に学ばなかったことに起因しているように見受けられます。

 

もしも、彼が国際的な宗教心理学や宗教社会学の学会誌に目を通している専門の学者ならば、ハッサン氏のマインド・コントロール理論、あるいは、その背景にあるマーガレット・シンガー博士の理論が、非科学的理論として科学的学会では完全に否定されている空論であることを知り得たはずです。

 

そしてまた、もし万一マインド・コントロール理論およびその根拠となっているシンガー博士の理論が、エセ科学理論として欧米の権威ある科学者たちの学会で、科学的論理的に完全に否認されている事実を知りながら翻訳出版したのだとするならば、浅見教授の行動は、学者の名に値しない犯罪的行為であるといえます。

 

 

米国の強制改宗事件がなくなった背景

 

犯罪的行動という言葉を用いたので、話を実際の犯罪的行動に移しましょう。自分が反対する宗教団体の信者を拉致、監禁して強制的に改宗を迫る「強制改宗」「監禁改宗」こそは、真に犯罪的行為です。

 

「強制改宗」と「マインド・コントロール・洗脳理論」とは密接に関連しています。マインド・コントロール理論は、強制改宗を正当化する意図的内容をもっているのです。アメリカでは、マインド・コントロール理論が、科学的論理的に、権威ある科学者たちの学会で否定されたことにも関連して、強制改宗、監禁改宗も、法的、人道的に支持を完全に失いました。

 

信者を監禁して改宗を迫る強制改宗は、現在アメリカでは、明確な犯罪行為として、法的にはもちろんのこと、米国キリスト教協議会(NCC)を先頭にして、全宗教界から非難されています。そのようなアメリカの事情を知ってか知らずか、浅見教授たちがエセ科学理論であるマインド・コントロール理論を伝播して、犯罪的強制改宗の実践に力を与えてきたことに対し、義憤を感じます。

 

アメリカのキリスト教会の牧師たちは、教派を問わず、自分と信条の異なる宗教グループに所属する信者の身体を監禁拘束して改宗を迫る監禁改宗、強制改宗に対して、基本的人権擁護の立場から全面的に反対してきました。個人の権利を重視するアメリカ社会では、親の立場を利用して、成人である子供を拉致、監禁して改宗を迫ることは、十年以上も前から「犯罪行為」と、はっきりと認定されています。監禁強制改宗を実践、あるいは、支援する日本のキリスト教界の牧師たちは、このようなアメリカにおける事実を知っているのでしょうか?

 

参考までに、アメリカの宗教社会学者ブロムリー教授の論文に紹介されている、アメリカ統一教会員の監禁強制改宗事件の一九七三年から一九八六年までの発生数は、監禁拘束されても離教しなかった場合をも含めて、左表のとおりです。

 

この統計を見ても分かるように、強制改宗事件の発生件数から見ると、一九七六年がアメリカにおける統一教会迫害のピークでした。共産主義者ジム・ジョーンズの人民寺院事件の後、その余波と、国際祝福結婚に反対する親の反対等で、一時、監禁改宗事件は多少、増加しましたが、一九八〇年代には、一九八一年をピークに年々犯罪的監禁改宗のための拉致事件は、急速に減少を続け、一九八〇年代半ばには、発生件数ゼロに至りました。一九九〇年代には、アメリカでは、文鮮明師を尊敬し、統一教会の活動を歓迎する有識者の数が急速に増加し、統一教会員を拉致監禁して改宗を強制するような事件は、全く起こらなくなっています。

 

また、強制改宗を弁護するために用いられてきた「洗脳理論」「強制的説得理論」「マインド・コントロール理論」なども、主観的、非科学的虚構理論として、科学的学会からは完全に否認されています。

 

 

憲法違反のエセ科学理論

 

ハッサン氏の書いた『マインド・コントロールの恐怖』の「推薦のことば」が、マーガレット・シンガー博士によるものであることからも分かるように、その理論的支柱は、反カルト運動に専念する心理学者、シンガー博士等の研究でした。しかし、彼女の主張は、モルコとリールという二人の元統一教会員たちが、マインド・コントロールを受けたとして統一教会を相手取って起こした裁判上、一九八七年に「米国心理学会(APA)」およびバーカー博士など、世界的に著名な宗教社会学者等がカリフォルニア州最高裁判所に提出した「法廷助言書」によって完全に否定されているのです(本書後編参照)。この法廷助言書を提出した米国心理学会というのは、一八九二年に設立され、六万人の会員を擁する権威ある学会です。

 

この米国心理学会の法廷助言書によれば、シンガー博士の主張する「強制的説得理論」は、「科学的概念としては意味を持たず」、その方法論は「科学的学会では否認されている」ものであるために、「科学を装った一つの否定的価値判断」であると判断し、したがって、このような理論を認めることは、信教の自由を保障する「憲法修正第一条に違反する」としているのです。

 

 

 

「すべての宗教活動への脅威」と、法廷から排除

 

さらに、三十二のアメリカのプロテスタント教会と東方正教会によって構成され、四千万人の教会員を傘下にもつ「米国キリスト教協議会(NCC)」が、同じく一九八七年にカリフォルニア州最高裁判所に、他の四つの大きな宗教団体とともに提出した法廷助言書では、「シンガー博士は統一教会における『宗教的回心』を『心理学的病理』に置き換えていますが、それは統一教会のみに当てはまるのではなく、すべての宗教に当てはまることである」としています。つまり、この法廷助言書では、統一教会の伝道方法や回心の過程が、他の多くの宗教が行っているものと基本的に同じであることを認め、そのうえで統一教会が「マインド・コントロールや洗脳をおこなう」などという非難は、アメリカのすべての宗教活動に対する脅威であると主張したのです。

 

また、一九七五年九月、アメリカの首都ワシントンDCの裁判所も、「統一教会が回心させるために行っている技術は、他の宗教団体と異なっていることはない」と判決の中で述べています。

 

一九九〇年にも、「米国対フィッシュマン」裁判で連邦裁判官ローウェル・ジェンセン氏は、新宗教による「洗脳」や「マインド・コントロール」問題を詳細に考察し、「洗脳、マインド・コントロール理論は心理学や社会学の学問的分野で十分に受け入れられていないので、連邦裁判所の法廷で専門家証言として認めることはできない」という結論を明確に下し、「洗脳理論」や「マインド・コントロール理論」の信頼性の欠陥と非科学性を再認識しています(US v.  Fishman, 743 F. Supp. 713[N. D. Cal. 1990])(「FIRST THINGS」 一九九五年十月号、5~6頁、ディーン・ケリー博士による論述参照)。

 

このようにして、シンガー博士が主張するような洗脳理論やマインド・コントロール理論に基づく専門家証言は、米国の裁判では一九九〇年代には完全に法廷から排除されるようになり問題にもされなくなりました。

 

このように、アメリカではマインド・コントロール理論なるものは、主だった心理学者、宗教社会学者、宗教指導者たちからは完全に否定され、裁判官からも不信されているのです。

 

このことで、「反カルト」の立場に立つ心理学者シンガー博士は、専門家としての権威を失い、法廷での証言に立てなくなってしまいました。このこともあって、アメリカでは反カルト運動は沈静化してしまいました。

 

 

科学的宗教研究会(SSSR)の判断

 

さらに、権威ある宗教社会学者および宗教心理学者たちのほぼ全員が会員として参加している「科学的宗教研究学会(Society for the Scientific Study of Religion:略称SSSR)」は、一九九〇年十一月の協議会で、マインド・コントロール理論の非科学性を再確認する決議案を、満場一致で採択しています。

 

筆者は、バークレー神学大学院連合(GTU)の修士課程で神学を勉強し、南カリフォルニア大学の博士課程に移り、宗教社会学および神学倫理学を専門的に研究しました。そういう訳で、一九八一年から、この科学的宗教研究学会の正会員となっています。毎年開催されるこの定例学会会議にも、在米中は、ほぼ毎年参加してきました。学会論文も一九八八年、一九九〇年、一九九三年の三回にわたって正式に発表しています。ですから本書で紹介する「法廷助言書」に名を連ねている学者の多くは私の知り合いであり、友人たちです。南カリフォルニア大学のドナルド・ミラー教授は、私の博士論文の指導教授でした。なお本文中の学者の肩書きは、歴史的文献である法廷助言書提出時のまま残したので、現在の役職と違う場合もあることを記しておきます。

 

筆者の知る限りでは、この権威ある科学的宗教研究学会の会員の中で、「洗脳理論」「強制的説得理論」「マインド・コントロール理論」等を支持するような宗教心理学者、社会学者は、ただの一人もいません。またSSSRの学会誌『JSSR』(Journal for the Scientific Study of Religion  の略)では、そのような理論の非科学性を論じる論文は何回も掲載されましたが、支持する論文は一度たりとも掲載されたことはありません。

 

ただし、宗教心理学者に限らず、心理学者全体に枠を広げた場合、極めて少数ではありますが、シンガー博士のような「洗脳理論」「強制的説得理論」「マインド・コントロール理論」等を支持する心理学者が存在することは事実です。しかし、シンガー理論を支持する心理学者たちは、ほとんどが、無神論的、左翼的、反宗教的心理学者です。

 

 

 

反宗教的心理学者のプロパガンダ用語

 

ニューヨーク大学の心理学部の教授で、キリスト教徒として深い信仰をもつヴィッツ教授が、彼の著書『宗教としての心理学』(Paul C. Vitz, メPsycholgy As Religion : The Cult of Self-Worshipモ Eerdmans, 1997)の中で鋭く批判したように、これらの一部の心理学者たちは、宗教の教える「自己否定、自己抑制、自己犠牲」を一方的に非難して、「自己実現、自己肯定、自己欲望充足」を一方的に賛美してきました。それゆえ、ヴィッツ教授は「自己を肯定し絶対化する学派では心理学自体が、宗教と対抗し、その代身の立場に立ち、一種の宗教的機能を果たそうとしている」と批判しています。

 

フロイト以来、心理学の流れには、極端に反宗教的な学派が存在しています。この学派の心理学者たちは、宗教の教える自己否定、自己抑制、自己犠牲の態度を「心理学的病理症状」と規定してきました。つまり、自分を犠牲にして他のために尽くすというような利他的愛の精神を、心の病気だというのです。このような反宗教的心理学者たちが、自己否定、自己抑制、自己犠牲を教える新宗教を、「破壊的カルト」などと呼んで非難するのです。そして、破壊的カルトが実践する伝道教育活動を、彼らは「洗脳」「強制的説得」「マインド・コントロール」などと呼んできたのです。

 

いわゆる反カルト運動を支持する学者たちがカルトと呼ぶ「新宗教グループ」と、熱心な信仰をもつ「伝統的宗教グループ」とは、本質的に、その教育、生活システム、伝道方法などにおいて差異のないことは、客観的に観察すれば明らかです。アメリカの宗教社会学者、ブロムリー、シュープ両教授が、いわゆるカルトと伝統的教会の類似性を指摘するために、カトリック教会の修道院(Convent)の伝道方法、教育、生活内容を、「TNEVNOCカルト」(David Bromley and Anson D.Shupe,メ The Tnevnoc Cultモ , Sociological Analysis 40,4:361-366  参照)という偽名を使って紹介した有名な論文があります。換言すれば、修道院(CONVENT)の伝道方法、生活内容を、「TNEVNOC(院道修)カルト」という別名のラベルをつけて、客観的に紹介した場合、読者は、それがカトリック修道院の紹介であると、すぐに見分けることはできないということです(TNEVNOCを逆に読めば、CONVENT)。

 

即ち、ブロムリー、シュープ両教授が指摘しているのは、いわゆるカルトと熱心に活動する伝統的宗教団体の教育、生活システムおよび伝道方法に、大差はないということです。マインド・コントロール理論の支持者たちは、「破壊的カルト」のラベルを貼りつけたグループの教育伝道活動を、「マインド・コントロール」「洗脳」「強制的説得」などと呼んで非難しています。しかし、既成教団の「福音宣教活動」や「教育伝道活動」と方法論的には、本質的に差異はないのです。

 

いちばん重要な教義の内容には触れず、自分の嫌いなグループの伝道活動だけ、「洗脳」「マインド・コントロール」「強制的説得」などと呼んで非難中傷し、自分の好むグループの全く同様な伝道活動に対しては、別の言葉を使うというのは、主観的であり非科学的です。

 

ですから、マインド・コントロール理論の支持者の中には、熱心に宗教活動をするグループをすべてカルトと見なしたり、カルトという言葉を使わないとしても、新旧問わずすべてのグループの献身的宗教活動には徹底して反対する、反宗教的人物も少なくありません。例えば、スティーヴン・ハッサン氏は、ローマカトリック教会を「最大のカルト」と呼んだと伝えられています。反宗教的心理学者たちにとって、熱心に伝道に従事し、自己否定的、自己犠牲的、献身的宗教生活をしている信者は、皆、マインド・コントロールを受けているという論理になるのです。

 

前述の米国キリスト教協議会(NCC)を先頭として、多くの宗教団体、宗教界の指導者たちが、マインド・コントロール理論に断固反対する理由の一つは、マインド・コントロール理論で非難されている伝道方法や回心過程は、多少の程度の差はあれ、本質的には既成の宗教団体が実践している内容と同じでもあるからです。

 

以上見てきたように、マインド・コントロールという言葉は、何ら科学的根拠を持たない、反宗教のプロパガンダ用語であることが、アメリカにおいては、既に明白になっているのです。

 

 

日本の学者とマスコミは「井の中の蛙」

 

 

日本には国際的学会の事情に通じた宗教心理学者、宗教社会学者の数が非常に少ないので、マインド・コントロール理論の非科学性や、欧米の科学的学会では全く相手にされないことを指摘する学者が、今日まで出てこなかったことは非常に残念なことです。

 

筆者は一九九四年春以来、韓国の鮮文大学で教えていますが、韓国では昨年秋より政府が、「世界化(韓国語発言=セーゲーファ)」を積極的に推進するようになり、現在、官民ともに「世界化」のブームを呈しています。韓国の大学街も世界化ブームの波が押し寄せ、競って外国人教授を採用し始めています。私の奉職する鮮文大学も、十年以内に全教授陣の三分の一は、外国人教授を採用するというビジョンを発表しているくらいです。

 

世界中の権威ある科学者の学会および学者たち、ならびに世界のキリスト教界の指導者たちによって、完全に非科学的な空論として論破されているマインド・コントロール理論を、自分の専門外の領域に首を突っ込んで支持推進する浅見教授のような人物が出現し、また、マインド・コントロール理論をキチンと批判する専門の心理学者、社会学者が現れてこないのを見れば、日本の大学界は、特にマインド・コントロール理論、強制改宗の是非等に関しては、世界の中で全く「井の中の蛙」の観を呈しています。

 

日本の大学界こそ、日本のキリスト教界と共に、真の世界化、国際化が必要であると嘆息せざるを得ません。

 

何よりも、学会の国際的事情に通じている宗教心理学者、宗教社会学者の数が、日本人学者の中に本当に少ないことが問題です。日本の心理学会、社会学会が、戦後、左翼的、無神論的なマルクス主義思想の支配、影響を受けてきたことが、日本に宗教心理学者、宗教社会学者が少ないことの一つの要因ですが、日本の有識者およびマスコミは、世界の科学的学会、ならびに世界のキリスト教界における、これらマインド・コントロール理論やそれと関連する強制改宗に関する見解を、はっきりと正確にもってほしいものです。

 

振り返って見ると、数年前、ハッサン氏の『マインド・コントロールの恐怖』日本語訳版が出版された時、翻訳者の浅見教授と論争を展開していた友人から、日本社会への影響を心配して、ニューヨークに住んでいた私の所に電話があり、相談を受けたことがあります。その時、私は「著者ハッサン氏にしても、彼の著書にしても、アメリカの専門の学会においては全く話題にもなっていないし、アメリカにおいては何の影響力もない人物であり、著書なので問題ないでしょう」と答えて、一笑に付したことがあります。

 

ところが意外にも、彼の邦訳書が日本のマスコミに影響力を広めていった理由は、日本のマスコミが、世界の権威ある科学的学会と世界の権威あるキリスト教界の見解に対して、全く無知であったからです。日本のマスコミの「井の中の蛙」的現実、外国語能力の不足によって、世界の権威ある心理学会やキリスト教界指導者たちの見解を読みこなす能力の劣悪なことに対して、自分は全く認識不足であったと、最近になって反省していました。そういう訳で、この分野における英語文献の日本語訳の必要性を痛感していました。

 

本書の目的は、アメリカの心理学会、および世界的に著名な宗教社会学者たちとキリスト教界の中心的教団や指導者たちが、「新宗教運動に対して偏見を持った専門家が、社会科学の専門知識を法廷で悪用することを危惧し、この問題に対する冷静で客観的な見解を示すため」に提出した二つの法廷助言書を日本語に翻訳して紹介することによって、日本におけるマインド・コントロール理論に対する誤った信仰を正すことにあります。マインド・コントロール理論を非科学的な理論として完全に否認している、権威ある科学的学会(宗教心理学者、社会学者たち)および、アメリカのキリスト教界の主要教団とその指導者たちの論旨は、これら二つの法廷助言書を読むことによって十分に理解していただけることと思います。

 

なお、米国心理学会(APA)が提出した法廷助言書は、世界的に著名な宗教社会学者たちも二十名以上が個人の資格で助言者として参加しているので、正式には「米国心理学会を代表とする法廷助言書」と訳されるべきですが、本書では簡略化して、「米国心理学会等による法廷助言書」としています。

 

同様に、米国キリスト教協議会(NCC)が提出した法廷助言書も、全部で四つの団体が助言者として参加しているので、正式には全部の四団体名を表記するか、「米国キリスト教協議会を代表とする法廷助言書」と表記すべきですが、本書では簡略化して、「米国キリスト教協議会等による法廷助言書」としていることを明らかにしておきます。