第五章 国内の「マインド・コントロール」の犯罪


国内の強制的改宗活動家たち

 

前章では、米国における新宗教運動の信者の強制改宗の実態を、CANの問題を中心として取り上げました。しかしすでに第一章から第四章にかけて説明したように、シンガー博士など反カルトの側に立つ心理学者のマインド・コントロール理論が、米国心理学会(APA)と米国キリスト教協議会(NCC)がそれぞれ提出した「法廷助言書」によって否定されたために、反カルトの立場に立つ心理学者は法廷で証言に立てなくなってしまい、これが反カルト運動の鎮静化へとつながりました。

 

これら二つの法廷助言書は、米国憲法修正第一条で保障された宗教の自由と、政教分離の原則に基づいてマインド・コントロール理論を批判したものです。

 

日本国憲法においても、第二〇条において信教の自由と政教分離が謳われているわけですから、この二つの助言書は日本においても有効なものであると考えられます。しかし日本においてはこうした米国の良識ある学者たちの見解は理解されていないばかりか、信教の自由や人権問題に対する意識があまり高くないために、拉致・監禁による強制改宗事件がいまだに跡を絶ちません。

 

山崎浩子さんの拉致・監禁、脱会事件以降、統一教会に反対する活動家による統一教会信者への「拉致・監禁事件」は年間三百件以上起こっているにもかかわらず、それらは全くといっていいほど事件として扱われてきませんでした。

 

これらの「拉致・監禁事件」は、相手の自由意思を踏みにじったうえ、しかも身体的な自由を奪っての説得であり、絶対に許されるものではありません。しかし反対活動家は拘束の事実を認めたうえで、本来刑事および民事事件として扱われるべき事件の本質を、親子問題にすり替えることによって拉致・監禁を正当化してきました。

 

現在の主要な強制改宗活動家としては、

 

浅見定雄氏(東北学院大学教授)

 

川崎経子牧師(日本基督教団、谷村教会)

 

船田武雄牧師(日本イエス・キリスト教団、京都聖徒教会)

 

松永堡智牧師(日本同盟キリスト教団、新津福音キリスト教会)

 

村上密牧師(日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団、七条キリスト教会)

 

森山諭牧師(日本イエス・キリスト教団顧問、荻窪栄光教会)

 

本間テル子氏(全国原理運動被害者父母の会)

 

横溝洋三牧師(日本基督教団事務局長、水戸中央教会)

 

和賀真也牧師(セブンスデー・アドベンチスト教会「エクレシア会」代表)

 

などが挙げられます。

 

これらの日本の活動家たちは、強制的改宗活動をいわば職業的に行っており、信者の父兄に働きかけて拉致・監禁の作戦と方法を細かく指導し、それによって多額の金銭を父兄から受け取っています。

 

彼らは両親や親族などを使って信者を暴力的に拉致しますが、そのとき彼らは絶対に直接手を出しません。反対牧師たちは「拉致・監禁」に対して、決まって異口同音に「自分たちは拉致・監禁を命じた覚えはない。あれは父兄たちが勝手にやっているのだ」と強弁しています。これは自らの手は汚さない、極めて「卑劣なやり方」であるといえますが、明らかに刑法第二二〇条「逮捕・監禁罪」の「教唆犯」(同六一条)に当たるものです。

 

 

 

拉致・監禁による強制的暴力改宗活動の実態

 

「反対牧師」が親や親族を操作して行っている拉致・監禁は、CANの活動と同様に非常に強制的・暴力的なものであり、明らかに犯罪性が認められることは多くの証言によって明らかになっています。

 

一九九一年四月七日に、職業的な「脱会屋」である宮村峻氏らによって拉致・監禁され、八カ月にわたって拘束されながらも、奇跡的に脱出した鳥海豊さんの著書『監禁250日証言「脱会屋」の全て』(光言社)には、強制的な拉致の様子がはっきりと書かれています。

 

 

「どうしてもダメか」

 

「どうしてもダメですよ。……」

 

「どうしても駄目なら、力ずくでも連れていく」

 

「……帰らせていただきます」

 

と言って出ようとした。そうしたら、

 

「そうはいかない」

 

と、突然そこにいた男性が、ダーと十人ぐらい来て、押さえつけてきた。こちらも暴れるけれども組み伏せられてしまう。折り重なってきて、体の自由がきかない。(『「脱会屋」の全て』16-17頁)

 

みんなあっちこっちから手をかけて、私は羽交い締めにされ、ワゴン車に押し込められた。(同書18-19頁)

 

 

さらに『週刊文春』(一九九三年四月二十九日号)に掲載された山崎浩子さんの手記にも、彼女が強制的に連れさられたことが書かれています。

 

 

「『しまった、やられた』私のこわばった頬を、とめどなくあふれ出る涙が伝う」「みんなの視線が、私に突き刺さっている。逃げることはできない。いや、逃げてはいけないと思った」「姉達が拉致・監禁をするなんて――」

 

「私を真ん中にはさむようにして、姉と叔母がシートに身を沈める」「車はどこにむかって走っているのか、全然分からない。これからどうなるのか、それもまた、全く見当がつかなかった」

 

 

元統一教会員で、現在は反対活動を行っている田口民也氏の『統一協会からの救出』(いのちのことば社)には、彼の指示によって両親から拉致・監禁されたN君の手記が載っていますが、そこには到底逃げ出せないような環境に無理やり連れて行かれた様子が描写されています。

 

 

そのうちに、あるアパートまで連れて行かれた。それが、逃げられないように頑丈にしてあるのを見て初めて、私はここまで来た意味がわかった。………こうして数か月間のアパート生活が始まったのである。

 

 

この本にはN君を拉致した父親の手記も載っていますが、そこには息子を拉致するためにロープやガムテープなどを用意したという生々しい記述があります。

 

 

親戚に初めて息子の状態を伝え、協力を願う。十名の協力を得ることができた。連絡があってから、一週間が過ぎる。移動用ジャンボタクシー、身につけるロープ、ガムテープなどそろえる。

 

 

これらは父兄が主体的に思いついてやるのではなく、明らかに牧師が事細かに指示してやらせているのです。

 

田口氏は著書の中ではっきりと、

 

 

「まず、体を集団ナルチシズム(集団生活および彼らの監視)から隔離する必要がある」

 

「救出は、その組織から、体を引き離すことはもちろんであるが、体だけを統一協会からだしても、それで安心してはいけない。体だけではなく、心や霊までも解放しなければ本当の救出にはならない」

 

 

と書いており、信者の改宗にはまず物理的な隔離が必要だとの主張をしています。そしてこの本には「第三章:救出のためのテキスト」と称して、牧師が親に出している具体的な指示が述べられており、これは改宗のためのプログラムが牧師によって作られたマニュアルに従って行われていることを示唆しています。

 

信者は監禁された状態のまま、反対牧師による長期間の棄教の強要と説得を脱会するまで受け続けます。長い場合は数カ月に及ぶこともあります。そしてまず現状では本人が拉致・監禁された場合の救出、あるいはそこからの脱出は不可能な状態なのです。

 

鳥海豊氏も、

 

 

「お前はもうここから出られない。ここから出るためには、落ちるしかない」(『「脱会屋」の全て』21~22頁)

 

 

と宮村氏に言われています。もし脱会の意思を表明すれば、直ちに半ば強制的に「統一教会脱会宣言書」なるものを書かされます。もし書かない場合は、書くまで何十日でも監禁状態を続けるのです。本来「脱会届」なるものは本人の自由意思によって書くものでありますが、反対牧師はそれをいわば改宗の「踏み絵」として利用しているのです。

 

 

刑事上の犯罪性と多額の金銭受け取り

 

そしてテッド・パトリック氏やスティーヴン・ハッサン氏が依頼者から多額の金銭を受け取っていたのと同様に、日本の「活動家」も信者の父兄から実費以上の多額の金銭を受け取っています。山崎浩子さんの脱会工作にかかわった杉本誠牧師は、著書『統一協会信者を救え』(緑風出版)において、横溝牧師、森哲牧師(日本基督教団小牧教会)、平良夏芽牧師(日本基督教団桑名教会)らが一回信者と面会するたびに、おのおの十万円ずつ受け取っていた事実を認めたうえで、

 

 

「私の経験からいけばそれぐらいのお金は当然掛かると思いますね。………私もやはりそれぐらいの形のものは親御さんから車代ということで頂いていますよ」

 

 

と言っています。

 

このように拉致・監禁による強制改宗の流れと手順を見てくるとき、そこには牧師が関与しており、教唆による拉致・監禁、身体拘束という刑事上の犯罪性が認められるということが分かります。しかし彼らは「カルト教団にマインド・コントロールされた子供を親が救出している」という理由を振りかざして事件の本質をすり替えることにより、自らの行為を正当化してきたのです。

 

事実、一九八八年に統一教会員の吉村正氏が監禁された事件で、教会側は裁判所に人身保護請求を出し、これが当然下りるものと信じて関係者一人が行っただけでしたが、共産党系の弁護士が百九十八人も名を連ねて反対し、この事件をうやむやにしてしまうということが起こりました。

 

彼らは人身保護請求が出ている裁判所に圧力をかけ、法を曲げ、事実を曲げて統一教会の主張を退けるようにし、このため本来一週間以内に下ろされなければならない人身保護令が大幅に遅れました。このようにして時間を延長させ、強制説得による棄教のための時間を稼ぐことにより、もしその間に被害者(統一教会員)が棄教し、脱会すれば、反対グループの行為が正当化できるからでした。そしてそうすれば親をはじめ元教会員を被害者に仕立て、法廷で証言させることにより、統一教会のイメージダウンを図り、世論を味方につけることができると考えたためなのです。

 

 

日本における世界にもまれな人権侵害の実態

 

このように日本の「反対牧師」による統一教会信者の強制改宗は、世界的にもまれに見る宗教迫害であり、深刻な人権侵害であるといわざるを得ません。

 

本書は、日本に真の民主主義と信教の自由が確立されることを願い、このような拉致・監禁事件が一日も早く根絶されることを願って出版されました。そのためにはこのような強制改宗の犯罪性を正当化するための理論である「マインド・コントロール理論」の欺瞞性が明らかにされなければなりません。

 

本書の後編においては、この問題に関する最も権威ある専門家の見解として、米国心理学会と米国キリスト教協議会がそれぞれ提出した「法廷助言書」の翻訳を資料として全文掲載しました。これを機会に、一日も早く日本においてマインド・コントロール理論の非科学性が厳密に論議される日が来ることを願ってやみません。