ジェームズ・グレイス「統一運動における性と結婚」日本語訳25


第4章 性的役割分担(2)

 文夫人の「天宙の母」という高貴な地位は、現在進行形の運動の生活において実際に彼女が果たしている役割とは、むしろ著しい対照をなしている。彼女の夫はその時間とエネルギーのほとんどをメシヤとしての使命に捧げているのに対して、彼女はほとんど背景にとどまっており、主人の家を管理し、12名の子供たちの世話をしているのである。(注9)その点において、彼女は妻と母親の適切な役割に関する文自身の教えを反映しているのである。運動の母親たちとの会合において、彼は以下のように説明している。
「原理によれば、男性を堕落させた責任はエバにあったので、母親は子女たちの正しい教育に対して責任を持たなければなりません。・・・ですから、母親の役割に革命を起こさなければなりません。第一に、彼女たちは子供たちをよく育てなければならず、第二に彼女たちは夫によく仕えなければなりません。」(注10)

 さらに、「教会に対する母親の責任に関して言えば、彼女は自分の夫に仕える以上に教会の指導者たちに仕えなければなりません。なぜなら、彼らは神の位置に立っているからです。」(注11)子供たちと夫と運動に奉仕することにおいて、文夫人はこれらの理想を具現化しており、また一部の女性メンバーにとっては役割モデルとなっている。

 文夫人の役割は現在変化の過程にあると信じるに足るいくつかの理由がある。1977年以降、彼女は運動の生活においてより積極的な役割を担うようになり始めた。「子羊の婚姻」の17周年記念式典の場において彼女は最初の「公的な」証しをしたが、その短い話の中で彼女は再臨主の花嫁として選ばれたことの霊的な意味について話した。彼女は、神の道に従う立派な信仰者となるための自身の葛藤について語ったとき、翻訳者のコメントによれば、しばしば感極まって涙を流したという。(注12)彼女のスピーチが終わると、文夫人がアメリカを代表する5組の祝福家庭に対して、さまざまな用途に使える銀の洋食器のセットを授けるというアナウンスがなされた。司会の朴普煕は、この贈り物は二つのことを象徴しており、一つは祝福家庭の「定着」に対する真の父母の願いであり、もう一つは「教会におけるお母様の公的役割の増大」(注13)であると説明した。この新しい役割の性格はまだ明らかになっていないが、文夫人の子供たちが成長するにしたがって、彼女が家の外での活動により多くの時間を投入することができるであろうと理解することはできる。著者が対話したアメリカのメンバーたちは、彼女がグループのより多くのメンバーたちと接するようになり、また運動の外部の人々にもより広く認知されるようになってほしいという強い希望を表明した。

 性的役割分担に対する文師の態度は、彼がアメリカの文化に徐々に明るくなっていった結果として変化しているという一般的な感覚を、多くのメンバーが抱いている。彼と彼の家族は1971年に米国に来て、永住ビザで留まっている。その時以来、彼は運動における女性の役割に関してはより「リベラル」になったきたと著者は告げられた。彼がどのように変わったのかを尋ねられると、情報提供者は具体的な例を二つだけ挙げた:
1.彼は女性が高等教育を受けるという考えを是認した。統一教会のメンバーの36%が女性であるという事実に照らしてみると、神学校に行ったり大卒の仕事をしている全メンバーの約三分の一が女性であるというのは興味深い。また、真の父母の長女は、東部の一流の小規模な大学の教養課程で学んでいる。
2.文師はいま、夫人から長年にわたって受けてきた足のマッサージを、お返しに夫人にしてあげているが、これは韓国の慣習に反することである。

 女性に対する高等教育を支持するということは、何世紀にもわたって女性に家の中の仕事だけを命じてきた文化に深く根差した一人の男にとっては、大きな変化であるように見える。しかしながら、「お父様」はそれでも本質的に神を中心とする男性優位の文化を確立しようとしていることを、大部分の証拠は示唆している。1965年3月から1979年5月までの日付のついた文の説教とスピーチを著者が調査した結果、文の女性観が変わったという主張を確証することはできなかった。彼の基本的な視点は、この14年間一貫しており、以下に示す1974年の説教の引用の中に見出すことができる。
「西洋の女性たちは東洋のやり方を学ばなければなりません。もし皆さんの夫が西に行けば、皆さんも西に向かわなければなりません。彼が北に向かえば、彼に従っていかなければなりません。[#傍線]これは東洋のやり方ではなく、天のやり方なのです[#傍線終わり]。」(注14)

 一年後の別の説教では、文は性的役割分担における「天のやり方」に対する神学的で準経験的な議論を展開している。彼の見解では、「愛の根源はもちろん神様であり、神様からそれは男性を通して降りてきて、女性に至るのです。」「愛の秩序」の「証明」は三つの現象の中に発見することができる:(1)男性は天を象徴し、女性は地を象徴する;(2)性行為において男性は女性を見下ろし、女性は男性を見上げる;(3)人体の構造において、男性は肩幅が広く、女性はおしりが大きくなっている。(注15)

 女性の役割に関する文の見解が大きく変わっていないことは、この国に住居を定めて以降、彼が運動におけるリーダシップの大きな変更に対して主要な責任を負っているという事実に示唆されているとみることができる。1971年以前は、アメリカのリーダーは主として女性であり、その中でも注目すべきは金永雲であった。米国の運動の初期において女性のリーダーシップが優勢であったというロフランドの参考文献(注16)は、「古い」メンバーへのインタビューによって繰り返し確認されたが、彼らはみな1970年代におきた男性優位のヒエラルキーへの変化は、この国に文師がいたことが原因であるとした。(注17)文師はアメリカ人の男性がリーダーになることを学ぶ必要があると信じているのだと彼らは説明した。「神の御旨に対する代価」という1974年の説教の中で、文自身が以下のように説明している。
「創造原理によれば、男性は主体の位置にいるのです。あなたがたの国はレディーファーストの国なので、アメリカ人の男性はそれに慣れているのです。誰が主体ですか? 男性です。男性たち、答えてみなさい。」(注18)

 著者はこの問題に対する直接的な証拠を持たないが、男性に指導者への道を開いたことが、現時点で運動には女性のメンバーより男性のメンバーの方が相当多いことを説明するかもしれないと仮定するのは合理的である。この説明が正しいかどうかは別として、文師が女性に対する高等教育を是認したこと以外は、性的役割分担に関する彼の立場が伝統的な儒教およびキリスト教の男性優位の視点を反映していることは、実証によって明らかである。

(注9)運動の文献、とりわけ一般大衆に向けられた出版物において文夫人が目立つようになったのは、ほんのここ数年のことである。
(注10)文鮮明師「母親たちとの会合」朴普煕による通訳と一部要約、『季刊祝福』(第2巻、1号、1978年冬)
(注11)前掲書、p.30。
(注12)「お母様の証し」『季刊祝福』(第1巻、2号、1977年夏)、pp. 18-22。
(注13)「真の父母の日記念」『季刊祝福』(第1巻、2号、1977年夏)、p.68。
(注14)文鮮明師「道」、『マスター・スピークス』(MS-423, 1974年5月30日)、p.7、(下線は著者による)。
(注15)文鮮明師「家庭生活の真のパターン」『マスター・スピークス』(MS-459, 1975年3月7日)、p.4。
(注16)ジョン・ロフランド「終末論を解くカルト」, pp. 212-216。
(注17)10チームのI.O.W.C. (国際統一世界十字軍)が伝道活動のために1972年から1974年にかけて編成された。指揮官は全員が男性であり、これらのチームに任命された56名のうち女性は3名だけであった。デビッドS.C.キム (編)「希望の日レビュー」 (ニューヨーク:統一教会、1977年):p.404-409。
(注18)『マスター・スピークス』(MS-452), p. 10。

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