「マインド・コントロール」と「洗脳」


第2章:「マインド・コントロール理論」の非科学性

 次に、「マインド・コントロール理論」の概要とその批判について説明します。現在、社会の中に「統一教会はマインド・コントロールを行なっている」といった批判があることは事実です。さらには、大学当局によるオリエンテーションや、普段の授業の中で「マインド・コントロール」について堂々と語られている現状があります。すなわち、この「マインド・コントロール」というものを批判、論破しないことには、学内で活動を行うことができません。しかし、この「マインド・コントロール」を理解するためには、前段階として「洗脳」について正しく理解する必要があります。

 
 昔は、「原理研究会は洗脳している」とよく言われていました。つまり、「洗脳」の方が古い言葉なのです。最近はあまり使われなくなりましたが、それは「マインド・コントロール」の方が、より一般的になったためです。この「洗脳」という言葉は、アメリカで「ブレインウォッシング」という概念が紹介された後に、一般的に言われるようになりました。

 
 では、このアメリカにおける「ブレインウォッシング」の概念はどのような経緯で出来たのか調べますと、実は「共産主義者の思想改造」が出発点だったのです。朝鮮戦争の時の話ですが、中国共産党は捕虜にしたアメリカ兵に対して思想改造を行っていました。それについてCIAは、「アメリカ軍の兵士が共産主義者になった。どのような思想改造が行なわれたのか」という報告書を書きましたが、これがきっかけで「洗脳」が話題になりました。そして、この問題に関心をもって取材したのがエドワード・ハンターというジャーナリストです。彼は中国共産党の洗脳テクニックを著書で紹介しました。それ以来、思想改造というものが一般に知られるようになり、「洗脳」が実際に存在するという神話が生まれたのです。

 
 続いて、実際に洗脳は可能なのか、心理学者や精神科医がこれを専門的に調べようということで、『思想改造の心理』という有名な著書が、R・J・リフトンによって書かれました。この本は、精神科医のリフトンが収容所から帰還してきた米兵に対して行なった詳細な聞き取り調査に基づいてまとめられており、洗脳テクニックなどについても詳細に書かれた大著です。洗脳理論の古典としても知られており、ほとんどの「マインド・コントロール」論者は、最初に「過去の業績としてこのような先駆的な研究があった」というところから説き始めるという、定番になっている研究です。
 リフトンは洗脳のテクニックとして、「環境コントロール」「密かな操作」「純粋性の要求」「告白の儀式」「聖なる科学」「特殊用語の詰め込み」「教義の優先」「存在権の配分」の8つの要素をまとめ、これによって洗脳がなされるとしました。そして、これらのテクニックを用いることで、いとも簡単に人の心を操れるという神話が生まれ、敵に対する非難や冗談に「洗脳」という言葉が使われるようになったのです。

 
 しかし、リフトンは中国共産党が使用したテクニックを描写はしましたが、実はこれらのテクニックによって人の心が簡単に操れるとは言っておりません。リフトンは「洗脳」の最終的な効果について、「彼らを説得して、共産主義の世界観へ彼らを変えさせるという観点からすると、そのプログラムは確かに失敗だったと判断されなければならない」と、結論を出しています。どういうことかご説明しますと、捕虜になった兵士たちは「共産主義者になれ」と、強制収容所で教育を受けます。つまり、身柄を拘束され、銃で脅されたり拷問を受けたりするので、みんな表面上は服従し、共産主義者になります。しかし、その拘禁から解放されると、すぐに元の自分に戻ってしまうのです。ごく一部ですが、永続的に共産主義者になった人もいたそうです。しかし、それはもともと反権力的、左翼的な考えを持っていた人でした。そういった人は共産主義の思想に共鳴して共産主義者になりましたが、大半は外面的な服従のみで、心から共産主義者になってはいなかったのです。

 
 研究の結果としてこれらのことが分かったため、リフトンは「拷問や監禁などの手段を用いても、人を共産主義の世界観に変えることは出来ない」という結論を出しました。しかし、洗脳や「マインド・コントロール理論」を唱える論者の大半は、「マインド・コントロール理論」の先駆的な業績としてリフトンの研究を参照しているにもかかわらず、洗脳の有効性を否定するリフトンの結論までは言及していません。それは、この結論によって洗脳を行う難しさが明らかになり、「マインド・コントロール理論」を主張できなくなってしまうため、あえてこの結論を避けているのです。これからも分かるように、リフトンの研究は、マインド・コントロール論者をサポートする内容ではありません。

カテゴリー: 「カルト」および「マインド・コントロール」に関する批判的考察 パーマリンク