書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』33


櫻井義秀氏と中西尋子氏の共著である『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)の書評の第33回目である。

「第Ⅰ部 統一教会の宣教戦略 第4章 統一教会の事業戦略と組織構造」の続き

櫻井氏は本章で、日本の宗教市場における統一教会の競争力を分析している。先回は櫻井氏の以下の記述に対する批判を行ったが、今回はその続きである。
「他方、日本では韓国ほどキリスト教圏に競合相手はいなかった。しかし、人口の一パーセントのキリスト教徒人口で伸び悩んでいる日本において、統一教会という特異なキリスト教が提供する教説はさほどの誘因にはならない。しかも、多種多様な新宗教が勢力を競っている宗教市場において、現世利益を信者に保証せず、献身のみを求める宗教が日本人を惹きつけることはありえない。そこで、原理研究会や青年層の世界改革志向を利用した社会運動を装う宣教戦略からスタートし、救済宗教というよりは反共的な政治運動として展開することになったのである。社会変革運動であれば、信者への報酬はユートピアの実現を約束すればよく、日常的な御利益、ありがたみ、癒し等を提供しなくても済むからである。」(p.135-6)

統一教会は文化庁に対して、信徒数約60万人と報告しているという話を聞いたことがあるが、より実数に近い在籍信徒数は7万数千人(18歳未満は含まず)と言われている。これらの数字を日本の伝統的仏教、新宗教、キリスト教と比較すると、どのようなことが言えるだろうか? 宗教マーケットを論じる以上、純粋な数の問題を論じるのは基本であると考えられるので、比較的信頼できるデータに基づいて分析してみよう。

まず、日本の仏教の信者数を平成26年版『宗教年鑑』(平成25年12月31日現在)に基づいて、宗派別に整理すると以下のようになる。
1. 浄土系:1712万人
2. 日蓮系:1326万人
3. 真言系:922万人
4. 禅系:315万人
5. 天台系:312万人
6. 奈良系:71万人

トップ争いが1000万名単位であるのに対し、統一教会は公称でも数十万であり、二ケタ違うのであるから最初から勝負にならない。伝統仏教に比べて統一教会がマイノリティであり、宗教マーケットにおけるシェアが低いのは疑いのない事実である。

次に、代表的な新宗教と信者数を比較してみよう。インターネットで「信者数の多い新興宗教」を検索すると、『宗教年鑑平成25年版』を出典として以下のようなランキングが出てくる。しかし幸福の科学の信者の実数が1100万人で1位というのは信じがたく、こうした「公称信者数」はあまりあてにならないことが多い。
1. 幸福の科学:1100万人
2. 創価学会:827万世帯
3. 立正佼成会:311万1644人
4. 顕正会:167万人
5. 霊友会:139万0248人
6. 佛所護念会教団:124万0689人
7. 天理教:120万9421人
8. パーフェクトリバティー教団:93万4489人
9. 真如苑:90万9603人
10. 世界救世教:83万5756人
11. 崇教真光:80万人
12. 妙智会教団:65万4046
13. 世界基督教統一神霊協会:60万人
14. 生長の家:58万6973
15. 円応教:45万6902人
出典はネイバーまとめ:【雑学】新興宗教の信者数最新ランキング
http://matome.naver.jp/odai/2142059930751453201

幸福の科学の信者数は、選挙における幸福実現党の得票数からは20万人程度ではないかと推察される。同じく、選挙における公明党の得票数からも、創価学会のコアな信者は250万人くらいではないかという説がある。立正佼成会は平成6年の648万人から平成24年の311万人と約半分に減っているが、これは次代会長の庭野光祥氏が自分の代で信者が激減したと思われたくないので、今の代で幽霊会員を削除して信者の実数を明らかにしてほしいと要請したためだと言われている。したがって、最近の数字はかなり信じられるかもしれない。公称信者数が最も実数に近いと評価されているのは真如苑である。

公称信者数をベースに考えると、統一教会は日本の新宗教の中では第13位に入る、かなり競争力のある宗教であることが分かる。ただし、これらの公称信者数がどれほど実数に近いかに関しては教団ごとのバラつきが大きいので、日本の新宗教市場における統一教会の位置は、正確には分からない。創価学会や立正佼成会に比べればはるかに小さいが、それほど小さいわけでもない中規模の新宗教であるとは言えるだろう。

次に、「正統的」なキリスト教会と信者数を比較してみよう。以下の表は、「キリスト教年鑑2015」に基づく、信徒数の多い「正統的」キリスト教会の順位表である。キリスト教会の信徒数は信者の実数に近いと想定して、統一教会の在籍数7万数千名と比べることにする。

信者数の多い「正統的」教会

カトリックが40数万の信徒を抱えて第1位であるが、礼拝参加数はその4分の1の約10万人に過ぎない。第2位は日本基督教団で、信徒数は約17万名である。しかし礼拝参加者数は5万数千名である。第3位は日本聖公会だが、信徒数が約5万人であるのに対して礼拝参加者数は8千名に満たないという異常に低い数字になっている。こうした数字を見ると「信徒数」がどのくらい現役の信者の「実数」を表しているのか疑わしく思えてくる。4位以下はいかなる数字においても統一教会よりも明らかに小さい教団である。信徒数1万名ほどで10位に入ってしまうというあたりが、日本のキリスト教会の弱小ぶりを表しており、数値の出ているすべての教団が前年比マイナス成長となっている点も、日本のキリスト教会が全体的に衰退していることを示している。

これに「異端的」教団を入れると順位は大きく変動する。平成26年版『宗教年鑑』よれば、末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)の信者数は約12万7千人で、日本基督教団の11万9千人よりも多いことになっている。「キリスト教年鑑」では日本基督教団の信徒数は約17万名になっているので、どちらが大きいかは資料によって異なるという状況だ。実はこれら二つを上回るのがエホバの証人で、その信者数は2014年時点で約21万人と言われており、もしプロテスタントの仲間に入れれば日本基督教団やモルモン教を抜いて堂々の第一位ということになる。日本においては「正統派」を自認する日本基督教団が、自分よりも大きなエホバの証人をつかまえて「異端」と呼んでいるという、まるで笑い話のような状況になっているのである。

この中に統一教会を位置付けるとどうなるであろうか? まず、正統と異端を分ける・分けないにかかわらず、日本で最も大きなキリスト教会がカトリックであることは疑いがない。「正統的な教団」だけの中に位置づければ、カトリックに次ぐ第二位は日本基督教団で、統一教会は第三位ということになる。次に、「異端」と言われている教団も含めれば、第二位はエホバの証人であり、第三位と第四位はモルモン教または日本基督教団となり、第五位が統一教会となる。こうして見ると、統一教会は日本のキリスト教の中にあってかなり大きな存在であることが分かる。より実数に近い信徒数を把握するために日本基督教団では「現住陪餐会員」の数をカウントしており、その定義は「教会籍を置いている教会に定期的に出席している教会員」となっている。その数は2013年の時点で86,131名である。これは統一教会における現役信者の実数と言われている「在籍信徒数」の7万数千名とさほど変わらない。そういう意味で、信徒数という意味では日本基督教団と統一教会はほぼ互角と言ってもいいかも知れない。そして反対牧師を擁し、統一教会を異端視している福音派教会の多くは、実は統一教会よりもはるかに小さな教団なのである。

これらを総合すれば、日本の統一教会は伝統仏教に比較すればその競争力は取るに足らないほど小さく、新宗教全体の中に位置付ければ中堅クラスの宗教であるということになり、キリスト教の中に位置付ければかなり大きな団体であるということになる。もともと日本のキリスト教市場は1%以下と非常に狭い。その狭いマーケットに、エホバの証人、モルモン教、統一教会という巨大な「異端教団」が成長著しいということになれば、市場を奪われまいとする既成キリスト教会がこれらの教団を激しく攻撃するというのは、実に分かりやすい構図である。統一教会に対する反対運動が、主にキリスト教主導で行われてきたことは、こうした市場原理から分析すれば逆にすっきりと説明できるのではないかと思う。日本では統一教会が直接クリスチャンたちを改宗した例は少ないと思われるが、同じキリスト教を称して教勢を拡大する統一教会は、キリスト教会から見れば「羊泥棒」に映ったのかもしれない。一方で、盤石な基盤を持つ仏教教団や巨大な新宗教にとっては、統一教会は敢えて反対するまでもない団体であった。

櫻井氏は、統一教会は「宗教団体としての競争力はない」(p.136)という前提に立っているために、その統一教会が教勢をある程度伸ばした理由を他に求めようとして、「新左翼に似たユートピア運動」だとか、「若者の世界改革志向を利用した社会運動」だとか、「反共的な政治運動」を装って信者を獲得したというような、苦しいこじつけに躍起になっている。しかし、統一教会が宗教として持っているポテンシャルは、櫻井氏が思っているよりもはるかに大きいのである。櫻井氏にはそれが理解できないか、あるいは認めたくないために敢えて目を背けているのかもしれない。

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