シリーズ「霊感商法とは何だったのか?」07


霊感商法(3)

3.「霊感商法」とはシンクレティズムである

世間から「霊感商法」と呼ばれた一連の現象が持っていた宗教的な意味を一言で述べるとすれば、それは一種のシンクレティズムであったと結論づけることができる。私が「霊感商法」をシンクレティズムであると規定する理由は、印鑑、壷、多宝塔などの開運商品の販売行為に、統一教会の一部の信者が関与していたにも関わらず、その販売の際に使用された宗教的トークの中には、手相、姓名判断、四柱推命などの易学や、家計図を分析して因果応報の法則を説くなど、統一教会の正式な教理解説書である『原理講論』からは直接導き出されないような宗教的概念が混入しているからである。このような現象は、韓国やアメリカを初めとして海外の統一教会の信徒の間ではまったく見られない日本独自のものである。またその信仰内容も、キリスト教というよりはむしろ日本の土着の宗教性に近いものであると言える。

手相、骨相、姓名判断などは、日本では極めてポピュラーな占いであり、印鑑に吉相印と凶相印があるという概念も、極めて広く行き渡っている。また、大理石やさまざまな貴石が何らかの霊力を宿しており、特定の石をさすったり、保持したりすると運が開け、あるいは病気が治り、痛みが和らぐといった信仰は、世界各地に見いだすことができる。したがって一連の開運商品を販売していたトーカーたちの説いていた内容は、「統一原理」とは直接関係のない民間信仰的な性格の強いものであった。

しかし、これらの開運商品を販売していた「全国しあわせサークル連絡協議会」では、顧客を対象に「統一原理」を分かりやすく噛みくだいた内容のセミナーを独自で開催し、それによって彼らを教育していた。(注1)したがってこれらの顧客には開運商品を購入したときの宗教的トークと「統一原理」とが、同一もしくは連続的な宗教的教理であるかのように受け取られていたのである。この結果、彼らの中では日本の土着の宗教概念と「統一原理」の教えが渾然一体となり、あたかも「統一原理」の教えに基づいて開運商品の販売がなされているかのように誤解される原因となった。

日本はもともと「神仏習合」に代表されるように、シンクレティズムを生み出しやすい宗教的土壌を持っている。したがって「霊感商法」と呼ばれる一連の現象は、「統一原理」と日本の民間信仰という、二つの相異なる宗教伝統が結合した現象、すなわちシンクレティズムであると理解するのが最も自然なのである。

このような現象は、実は世界の宗教の歴史の中で頻繁に起こってきた現象であり、また現在も起こり続けている現象である。したがって霊感商法とは何だったのかを本質的に理解するためには、このシンクレティズムという現象のいくつかの歴史的な事例について知っておく必要がある。

 

(1)シンクレティズムの歴史的事例

「シンクレティズム」という言葉は、キリスト教の世界では長らく否定的な意味あいで用いられてきた。すなわち、それは神によって啓示された真理が、異教の教えと混合することによって汚染されることを意味したのである。その際に決まって引き合いに出された事例が、モーセに率いられてエジプトを出てきたイスラエル民族がカナンに定着したとき、カナンの土着宗教であったバアルの神やアシュラの神に対する信仰と、天地の創造神であるヤーウェに対する信仰を混合したことによって堕落し、神の怒りを買ったという話であった。このためユダヤ・キリスト教の伝統においては、異教との混合は罪であり、神に対する反逆であると長らく考えられてきた。

バアル神

バアル神

アシュラ神

アシュラ神

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしながら、今日では旧約聖書の批評学的な研究の成果により、旧約聖書に記された古代イスラエルの信仰には、当時のカナンの土着宗教の影響が色濃く現れていることが明らかにされるようになった。すなわち実際には、古代イスラエルの人々はヤーウェに対する信仰を核としながらも、カナンの土着宗教の豊かな養分を吸収しながら自分たちの宗教を発展させて行ったのである。エジプトから出てきた少数民族であったイスラエル人たちは、周辺民族をヤーウェに改宗させることによってその版図を拡大させていった。このとき当然その人々とともに、それまで彼らが持っていた土着の信仰や儀礼もまたイスラエルの宗教の中に取り込まれる結果となった。この二つの信仰の間には時として軋轢も生じた。土着の風習を廃絶することによってヤーウェに対する信仰を純化しようとした預言者たちの活動はその典型的な例である。しかし土着の信仰をある程度寛容な立場で吸収していったからこそ、イスラエルの版図は拡大し、その宗教はその地におけるより普遍的な信仰に発展していくことができたのである。このような歴史的事例を鑑みるとき、あながちシンクレティズムを悪いものであるとばかりは言えないことが分かるであろう。(注2)

 

(注1)「霊感商法」問題取材班『「霊感商法」の真相』世界日報社、1996年、p.22

(注2)Michael Pye「シンクレティズム」(A.リチャードソン、J.ボウデン編『キリスト教神学辞典』教文館、1995年、p.341-2

 

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