アイリーン・バーカー『ムーニーの成り立ち』日本語訳66


第8章 被暗示性(3)

「無能」についての予備的なチェック項目
私の研究に戻れば、私も調査の初期の段階で、当該人物が特に受動的な被暗示性が高く、それ故に「カルトの誘惑」に弱いだろうことを示唆するとしばしば考えられている性格と体験のチェック項目を集めていた。このチェック項目に含まれているのは、青年期の未熟さ、精神障害、薬物乱用、あるいはアルコール依存症などの経歴、学校における成績や素行の不良、両親の離婚や不幸な子供時代、友人関係を維持する能力の欠如、過渡的な状況にあるか人生の明確なビジョンや方向性を持っていないこと、優柔不断の傾向、職業やガールフレンド(ボーイフレンド)を次から次へと変える傾向などであった。

私が自分のインタビュー記録に書き留めたメモの多くは、継父の存在や、子供の頃にレイプされそうになった体験といったような経験に注目していたことを、私は認めなければならない。私が第一章で非難した、精神分析的な指向性を持った友人やその普及者たちと同様に、私はそのような体験をムーニーたちが典型的に持っていることが明らかになるだろうと想定していたし、またそれらが会員になる理由を指摘するだろうと考えていた(注7)。しかし、対照群を見るようになると、私はそのように単純な説明では済まないことを発見した。そして修練会の参加者(私は彼らがムーニーと対照群の中間あたりに位置するだろうと仮定していた)に関するデータを見るようになると、私はさらに複雑な状況を見いだすことになった。

「真の父母」(8章195ページ)

8章195ページ下 「真の父母」(8章195ページ)

このチェック項目の中のいくつかの性格については、ムーニーは対照群よりもわずかに高い値を示したが、その他の性格についてはわずかに低い値を示した。そしてそれ以外の性格については、英国のムーニーと欧州あるいはアメリカのムーニーとの間よりも、英国のムーニーと英国の対照群との間により多くの類似性があったのである。言い換えれば、国や文化の違いの方が、ムーニーと非ムーニーの違いよりもしばしばはっきりと見られたのである。

 

家庭および心身の「健康」と「正常性」
この研究によって(会員とその両親の双方に対するアンケートおよびインタビューを通じて)明白になったことは、ムーニーは貧困または明らかに不幸な背景を持っているという傾向には「ない」ということである。自身が21歳になる前に両親が離婚した者は、対照群(8%)よりもムーニー(13%)においてわずかに多かった。そして15%が(対照群は5%だった)継父母を持っていた。しかし、その関係が貧弱なものだったと評したムーニーは5%に過ぎなかった。両親が離婚している場合には、通常ムーニーは母親によって育てられた。養父母あるいは養護施設で育てられたムーニーは1%に過ぎなかった。両親の結婚を評価するように尋ねると、英国のムーニーと対照群は、ほぼ同じような一連の回答をした。約半数が両親は「幸福」だったか「非常に幸福」だったと言い、4分の1が「問題なかった」とし、8分の1が「我慢できる程度だった」だったと言い、残りの8分の1が、両親の結婚は「惨めだった」と述べた。アメリカと欧州のムーニーは、両親の結婚が非常に幸福だったという傾向は少なかった。しかし、事実上すべての回答者が、自分たちの両親の結婚は大多数に比べればはるかに良かったと信じていると語った。子供の頃に母親が働いていた者は、対照群よりもムーニーの方が少なかった。そして母親が働いていたとしても、子供たちが学校に入る前にそうしていたのは15%(対照群は27%だった)に過ぎなかった。

大部分のムーニーが20代であるという事実を踏まえると、彼らが良好あるいは優良な肉体的健康を享受しているという傾向があることは、まったく驚くには値しない(欧州の人々が他のグループよりも多く病気を持っていると表明した)。対照群とアメリカあるいは英国のムーニーとの間で認められる唯一の健康上の差異は、後者が喘息などの呼吸器系疾患にかかっていると表明する傾向がわずかに高いということだけだった。そうした病気が運動に入会してから良くなったと主張することも珍しいことではない。

精神面での健康について見てみると、英国のムーニーと対照群の両方の7%が、なんらかの精神医学上の問題(そのうちムーニーの3%、対照群の1%が深刻だった)のために医師の診察を受けたことがあると報告した。修練会でのアンケートに答えたムーニーの中で精神医学上の問題のために医師の診察を受けたことがあると報告したのは一人だけだったが、これは入院を伴う深刻なケースであった。しかしながら、離脱者と非入教者はどちらも8%が医師の診察を受けたことがあり、離脱者の場合は、もっぱら深刻な病気だけだった。軽度の精神障害や鬱病の報告も数件あった。これらの数字はやはり非常に低かったが、どのような差異があるかは興味深いものであることが明らかになった。入教者の95%、非入教者の85%、そして脱退者の83%が、全く精神医学上の問題はなかったと報告したのである(注8)。

英国とアメリカのムーニーの6%、および欧州のムーニーの16%が自殺に言及した。絶対数においては、運動に出会う以前に実際に自殺を試みたことがあると言った者は、英国のムーニー1人、米国のムーニー1人、欧州のムーニー2人、そして対照群の1人だった。英国のムーニー1人と欧州のムーニー2人は、運動に参加して以来、自殺を考えていたことを示唆した。その他のケースにおいては、回答者は、自分は自殺をただ考えていただけだったが、統一教会がなかったなら自殺する段階にまで至っただろうと答えた。少数のムーニーと対照群の人が、レイプされたとか、あるいは極端に不愉快な性的な体験をしたと報告した。そして1~2名の回答者は性に関する強い罪悪感を持っているように見えた。しかし、これらは統一教会の全回答者のうちの3%以下だった。

麻薬の使用とアルコールの摂取は、グループ間の違いが、統一教会の会員であるか否かよりも、国家的背景とより密接に相関している事例であった。アメリカ人の過半数(58%)がある時期に麻薬を使用したことがあった(これらは大部分がソフトドラッグだが、10分の1はハードドラッグを使用していた)。(訳注:ソフトドラッグとはマリファナなどの中毒性の低い薬物を指し、ハードドラッグはヘロイン、コカイン・メタンフェタミン[覚醒剤]、アンフェタミン、モルヒネ、LSDなどの中毒性が高くリスクの大きい薬物を指す。)これとは対照的に、対照群の4分の1、英国のムーニーの5分の1、そして欧州のムーニーの15%が麻薬を使用したことがあった。英国のムーニーは、ハードドラッグを試したことがある傾向が最も強かった(6%)。一方で、アメリカ人は多量のアルコール摂取を報告する傾向が最も弱かった。英国のムーニーは完全な禁酒家(11%)か、非常に強い飲酒家(6%)のどちらかであった傾向が対照群よりも強かった。しかしどちらのグループでも3分の2が、これまでほとんど飲酒したことがないか、付き合いで軽くお酒を飲むだけだったと言った。ベジタリアンであった者の割合については、ムーニーと対照群の間に違いははなかった。ベジタリアンである理由としては、ムーニーは「生命の神聖さ」といった宗教的な説明をする傾向があるのに対して、対照群は功利主義的な理由である「殺戮の悲惨さ」を挙げる傾向にあった。アメリカ人は、健康上の理由から肉食を止めたということが多かった。

ムーニーが基礎的な知識に欠けるがゆえに説得を受け入れやすいのだという証拠はほとんどなかった。3分の2(非入教者あるいは離脱者のどちらよりも高い割合)が18歳を超えても教育を受けていた。5分の4以上が、少なくとも「一般教育修了資格証書Oレベル」(あるいはそれと同等の学力)には到達していた。(訳注:General Certificate of Educationは、イギリスおよびイギリスの旧植民地で1951年以降に導入された中等教育の修了証明。16歳で受験する基本的な内容のO(Ordinary)レベル、18歳で受験する専門的な内容のA(Advanced)レベルなどがある。)8分の1は学位を持っており、また別の8分の1は大学生であった。さらに別の4分の1は、義務教育後の試験を受けていた。ムーニーは対照群と比較して、成績優秀者の割合こそより少ないものの、より着実な学力を示す傾向がかなり強かった。離脱者は不安定である傾向が最も強く、成績の悪い者の割合は、ムーニーよりも非入会者においてより高かった。ムーニーの半数以上は仕事に就くために必要な何らかの資格を持っており、そのうち半数は専門的な資格だった。したがって、ムーニーと同様に、離脱者と非入会者は一般住民よりもはるかに有能であったが、より詳しく統計を見てみると、これら二つのグループ(非入教者と離脱者)は、修練会参加者の中で、より良い教育を受けたより有能な者たちと、あまり教育水準が高くなく、あまり有能でない者たちの両方を含んでいることが明らかになった。

(注7)大学の教員として、また大学の学部課程の学部長として、私は以下のように付言することができるであろう。人々がムーニーになるのは単にトラウマ、無能、あるいは安心の探究のゆえであるといったような、これまでになされてきた説明をわれわれが受け入れるなら、統一教会のような運動に入会するために同様に「よく」準備されていると思われる背景をもった若者たちに、私は数多く出会ってきた。
(注8)ギャランター他「ムーニー」166ページは、彼の選んだムーニーのサンプルのうち30%が情緒的な問題で専門家の援助を求め、6%が入院していたと報告している。しかしアメリカ人は、英国人や欧州人よりも精神科医や心理療法士に助言を求める傾向がはるかに強い。したがって、対照群なしにこの情報を評価することは困難である。だが興味深いことに、彼はまたディバイン・ライト・ミッションの信者の9%が情緒的な問題によって入院していたことも発見している(ギャランター「大グループへの心理的な誘導:1579ページ)。残念ながら、ギャランターは彼が調査した修練会の参加者のうち何名が精神健康問題の経歴を持っていたかについては述べていない。しかし彼の報告によると、修練会のスタッフは、どうやらゲストの脆弱性に配慮したらしく、2日間の修練会を終えたゲスト30人のうち6人に対して、「心理的に不安定」だからという理由で立ち去るように求めていたという。スタッフは、入教に関心をもつ人がすべて会員になるのに適しているのではない、という事実を受け入れていたのである(同書)。

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