書評:大学のカルト対策(10)<3.大学のカルト対策と信教の自由①>


櫻井義秀、大畑昇編著の「大学のカルト対策」の書評の10回目です。この本の第一部の三番目の記事は、「3.大学のカルト対策と信教の自由」というタイトルで、弁護士の久保内浩嗣氏が担当しています。

久保内浩嗣氏は1976年生まれということですから、今年37歳で、まだまだ若手の弁護士です。田村町総合法律事務所に所属していますが、ここは統一教会を相手取った訴訟を多く手がけていることで有名な渡辺博弁護士と同じ事務所です。久保内氏も渡辺氏も被害弁連のメンバーで、CARPの学生が佐賀大学を訴えた訴訟では、佐大の代理人を務めています。実は、佐賀大学側が提出してきた準備書面の主張は、この久保内論文のほぼコピーであり、久保内氏は大学によるカルト対策の法的正当性を主張するための理論構築を担当していると思われます。

今回はまず、久保内弁護士の主張の内容を要約してみましょう。

彼はまず「カルトの問題点」として、正体を隠した勧誘を挙げます。

彼は、日本国憲法の保証している「信教の自由」の内容について、①内心における信仰の自由、②宗教的行為の自由、③宗教的結社の自由、の三つが含まれることを紹介し、①の内心における自由の保証が絶対的であるのに対して、②の行為の自由は他者の権利・利益と衝突する際には制約を受けることを説明します。この辺までは当たり前の内容であり、教科書通りという感じです。

続いて彼は、正体を隠した勧誘は、勧誘される者の宗教選択の自由を侵害するものであるから、「信教の自由の枠外」であると主張します。こうした主張の根拠として、統一教会を被告とする裁判の判決を三つ紹介します。以下の三つは、いずれも正体隠しの勧誘が理由で統一教会が敗訴したケースです。

①東京地方裁判所平成14年8月21日判決(判例集未搭載)

②札幌地方裁判所平成13年6月29日判決(判例タイムズ1121号202項)

③札幌地方裁判所平成24年3月29日判決(判例集未搭載)

これらの事件の詳細は省略しますが、③の札幌地裁判決の不当性については、このブログの次のシリーズで連載する予定です。

次に彼は、大学がカルト対策を講じるべき理由を論じています。大学と学生は在学契約を締結しているため、大学は学生に対し、①大学の目的にかなった教育役務を提供する義務、②これに必要な教育施設等を利用させる義務、の二つを負っています。そしてこの①の前提として、学生に対する「安全配慮義務」を負っているというのです。学生がカルトに関わると学業放棄などの可能性があり、また正体を隠した勧誘は学生の宗教選択の自由を侵害するので、「安全配慮義務」に基づいてカルト対策をしなければならないという論理展開となります。

次に、保護者、学資負担者が大学に対して学生生活の監督を期待しているし、社会から期待されている大学の公共性という観点からも、カルト対策は必要だと論じます。

最後に彼は、「カルト対策の許容範囲」と題して、どこまでが信教の自由の侵害に当たらない「カルト対策」であるのかを提示しようと試みます。そのための判断基準として、「オウム真理教解散特別抗告決定」で最高裁が示した、信教の自由を制約する法的規制の憲法適合性の判断基準を紹介します。それは以下のようなものです。

①当該規制によって達成しようとする目的の必要性・合理性と当該規制によって宗教上の行為に生じる支障の程度との比較衡量

②より制限的でない他の選びうる手段の有無

③規制手続きの適正の確保等

さて、久保内弁護士は大学が講じている主なカルト対策として以下の4つをあげ、上記の3つの判断基準に基づいて、信教の自由を制限するために必要な要件を満たしているかを判断しています。

①カルトについて注意喚起を促すビラの掲示、配布

②カルトについて注意喚起を促すオリエンテーション等の講座の開催

③カルトに在籍している学生からの事情聴取等

④カルトに在籍している学生の保護者等への連絡

驚いたことに、久保内弁護士は上記4つのカルト対策は、すべて信教の自由を制約する法的規制の憲法適合性の判断基準を全てクリアーしており、何の問題もないと結論しています。ここの部分は、法律に関しては素人の私が読んでも、「なんでもアリ」の牽強付会的解釈だと思うのですが、一応弁護士の言うことですので、私が批判してもいまひとつ説得力に欠けると思います。

そこで私は、室生忠編著『大学の宗教迫害』(日新報道)でインタビューに答えている福本修也弁護士にインタビューし、信教の自由、政教分離、学問の自由、大学の自治の意義などについて基本的な内容をレクチャーいただいた上で、この久保内論文のおかしな点を指摘していただくことにしました。次回より、その内容をアップしていきます。

カテゴリー: 書評:大学のカルト対策 パーマリンク