書評:大学のカルト対策(9)<全国カルト対策大学ネットワークについて③>


川島堅二氏による第一部の2番目の記事「2.全国カルト対策大学ネットワークについて」に関する紹介と分析の三回目です。先回、この記事には私たちにとって非常に有益と思われる情報が掲載されていることを紹介しましたが、今回はその続きです。

まず、大学が「カルト信者」である学生の親に対して、「お宅のお子さんはカルトに関わっていますよ」と連絡することの是非に関して、以下のような興味深い記述がありました。

「学生がカルトに関わる活動をしていることが明らかになった場合、親に連絡できるのかということも繰り返し話題になりました。これに対する弁護士からの助言は、単にカルトの信者であるというだけで大学が、学生本人の承諾なく親に通報することは、学生の信教の自由等の権利に照らして問題である。カルトの信者であることにより、違法な正体隠しの勧誘行為、成績不良、出席日数の不足、他の学生からのクレームなど、具体的な問題が発生しているかどうかを確認すること。これが認められるならば学生の保証人である親に通報することは容認されるだろう」(p.41)。

学生の成績不良、出席日数の不足が事実であれば、親に連絡すべきという大学の主張は正当でしょう。これは逆に、CARPメンバーが学生として模範的であれば何の問題もないのであり、親への連絡は不当であるという判断基準が成り立つことになります。ただし、成績不良や出席日数の不足と、特定宗教の活動との間に因果関係があるのか、それとも本人の個人的な性格等の問題なのかは、事前に本人とよく話し、事実確認をする必要があります。もし因果関係が認められないのであれば、親に対する連絡は、成績不良と出席日数の不足の問題に絞るべきであり、無関係な宗教の話題には触れるべきではありません。成績不良や出席日数の不足で即、親に連絡というのは間違っています。

一方、違法な正体隠しの勧誘行為、他の学生からのクレームを根拠に親に通報するという主張に対しては、反論しなければなりません。現在、CARPはコンプライアンスを重視しており、CARPのメンバーはきちんとサークル名を名乗って勧誘しています。しかし、こうした事実をきちんと調べずに、過去の判決を根拠にはじめから「正体隠しの勧誘」と決め付けて親に通報する場合があるからです。また、他の学生からのクレームにしても、そもそも大学が「カルトの危険性」を宣伝するから、学生が恐怖を感じて大学側に相談するわけです。大学のやっていることはまさに「マッチポンプ」であり、自ら大学生に恐怖を与えた上で、「被害の救済」をかって出ることにより、規制を正当化しているにすぎません。これでは、具体的な被害がなくても問題にされてしまうことになり、「カルト信者が活動すれば親に通報する」というのに等しいことになってしまいます。この判断基準では、たとえ問題がなくても事実上勧誘を禁止しているのに等しいと言えます。

大学側の主張は、「カルトは危険で、学生にとって有害であるという問題があるから、安全配慮義務に基づいて対処するのだ」というものです。したがって、学生が模範的で何の問題もなければ、どんな信仰を持っていても大学側には介入する根拠はありません。それが原則のはずです。ところが、第二部の「質疑応答」では、編著者の一人である大畑昇氏が、その原則とは全く矛盾する「大学の本音」をポロっと喋ってしまっているのです。以下に引用します。

「北大や阪大といったその地域の基幹大学の学生がなぜカルト信者になるのかというと、・・・彼らは真面目です。北大の場合も、実は、成績が急に悪くなったとかでしたら指導のしようがありますが、全く成績はいいのです。休まないのです。本人は全く悪いことをしている意識はありません。実際悪いことをしていないのです。強引な勧誘もしていません。・・・ただ、学生に脱会を説得していく上で、君たちの代わりに働かせている人たちがいるという現実を教えていかないと、なかなかこちら側の『脱会させたい』という真意は伝わりません。」(p.221-222)

この文章には、学生に問題がなくても脱会させたいという大学側の本音が表れています。結局、「安全配慮義務」というのは表向きの名目に過ぎないのであって、大学はとにかくカルトを取り締まりたいと思っているだけなのです。ひどい話です。

もうひとつの興味深い問題は、就職に関する問題です。以下に引用します。

「カルト信者である学生の就職をめぐる問題も議論になりました。特に教職課程を持つ大学の教職員から、カルトに所属し、正体を隠しの勧誘をしていた学生であることを知りながらはたして教育界に送って良いものか。大学の責務をどう考えたらよいか。・・・という問いです。これに対して、他の大学の職員からは、カルト信者であることを理由に大学としてその学生の就職活動に制限をかけることは難しい。・・・学生個人の思想信条に関わる事項を、大学がその学生の就職先に知らせるというのは、労働基準法に照らしても問題というコメントが寄せられました」(p.42)。

この記事の文末には注があり、そこには丁寧に労働基準法第22条第4項が紹介されています。

「使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない」

これがあるがゆえに、大学が学生の信仰を就職先に伝えること自体が労働基準法に違反する行為であり、同時に信仰を理由に「就職できないぞ」とか「就職先にはお前がカルトの信者だったことを言うぞ」などと言って脅すこともまた、違法行為であることが分かります。こうした情報は、大学による不当な宗教迫害から学生が自らの人権を守る上で、貴重な根拠を提供してくれるものと言えるでしょう。

過去において、CARPの学生がこうした不当な人権侵害を受けた事例がありました。「大学のカルト対策」の内容の中には、反対する側が「どこまでやって良いのか」を自問自答し、一定の制限をかけて自重するような内容も含まれています。これが大学の教職員に対する「教科書」のようなものとして使われることがあるとするならば、こうした部分をよく勉強して、「カルト対策」が暴走しないように心がけていただきたいものです。

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