Moonism寄稿シリーズ01:2019年4-5月号


 今回から、私がこれまでに「UPFのビジョンと平和運動」と題してWorld CARP-Japanの機関誌『Moonism』に寄稿した文章をシリーズでアップしようと思います。World CARP-Japanは、私自身もかつて所属していた大学生の組織です。私が未来を担う大学生たちに伝えたい内容が表現されていると同時に、そのときに関心を持っていた事柄が現れており、時代の息吹を感じさせるものでもあります。第一回の今回は、2019年4-5月号に寄稿した文章です。

第1講:国連の課題と超宗教議会設立の提案

 筆者はUPFの日本事務総長として、日頃から全国各地を回って「平和大使セミナー」の講師を務め、平和大使の皆様にUPFのビジョンと活動について解説しています。今回よりシリーズで、文鮮明師ご夫妻が進めるUPFを中心とした平和運動と、その背景にある平和思想についてテーマごとに解説していきたいと思います。

<国連の限界は安保理常任理事国の国益至上主義>
 UPFは現在の世界が直面している問題の一つとして、宗教・民族対立の激化を挙げ、その具体的な解決策として、「平和国連」のモデルを形成するというゴールを掲げています。第1回の今回は、現在の国連システムが抱えている課題を分析し、その解決策として文鮮明師が提唱した「国連超宗教議会」の設立について解説します。

 国連の第一の目的は、「国際の平和及び安全を維持すること」(国連憲章第1条)にありますが、現在の国連は必ずしもこの目的を果たせていません。国連の最大の課題の一つが、安保理常任理事国の国益至上主義です。安保理の勧告には強制力があり、無視すれば非軍事的制裁の後に、軍事行動が発動され得る強力なものになっています。現在の安保理は事実上、米英仏ロ中の常任理事国5か国が牛耳っており、非民主的な構成であるにもかかわらず、その決定は非常に重要なものになっているのです。

 安保理常任理事国の国益至上主義を最も端的に表しているのが、拒否権です。国連創設以来、最も多くの拒否権を発動してきたのはソ連とその後継者であるロシアで、その大半は1966年以前の冷戦時代初期に発動されています。冷戦期には、アメリカとソ連がたびたび拒否権を行使し、国際政治の停滞と冷戦長期化の一因となったという批判があります。冷戦終結後は、アメリカによるパレスチナ問題関連決議でのイスラエル擁護のための行使が目立ちました。これゆえ、大国の利己主義を通すためだけの規定が拒否権であるとの批判もあるくらいです。

<国連の課題は宗教的価値観の軽視>
 国連のもう一つの課題は、宗教的価値観の軽視にあります。世界の諸宗教の信者数をすべて合わせると、実に地球上の人口の約85%の人々が何らかの宗教を信じていることになります。宗教の影響力は非常に大きいものがあり、人々の宗教的忠誠心はときとして国家に対する忠誠心を上回ることもあります。基本的に宗教は平和を志向するものではありますが、その影響力は負の力として作用することもあり、宗教が紛争の原因となることもあります。冷戦時代には世界平和の問題といえばイデオロギーの問題であり、東西の対立、米ソの対立が中心的なテーマでしたが、冷戦後の世界において世界の平和を脅かしているのはむしろ宗教・民族間の争いです。9.11の同時多発テロや、「イスラム国」の出現により、宗教的対立を動機としたテロの問題が平和を脅かす深刻な問題として認識されるようになりました。こうした事態に、既存の国連システムがはうまく対応できていません。それは宗教的価値観を反映する機能が欠如しているという、国連の持つ構造的な課題に起因しています。

<宗教的価値観が代弁されない既存の国連システム>
 人間は心と体という内外の両面性を持っています。この人間が集まって作るのが国家ですが、人間の共同生活において心に該当するのが宗教であり、体に該当するのが政治です。一人の人間において心と体がバラバラに存在するのではなく、相互補完的な関係にあるのと同じように、本来は一つの国家において宗教と政治は相互補完的な共存関係にあるべきです。ですから伝統的な社会においては、政治と宗教はちょうど心と体のような共存関係にありました。しかし、近代国家においては「政教分離」の原則のもとに、宗教と政治はできるだけ関わらない方が良いということになり、宗教は公的領域における影響力を失って、「私事」の領域に閉じ込められるようになりました。一方で政治は宗教的価値観を失って世俗化し、物質的・経済的利益を追求する傾向が強くなりました。

 このような近代国家が集まって作ったものが国連であるため、現在の国連は基本的に政治家と外交官によって構成されており、宗教的価値観が代弁されるシステムは存在しません。地球上の人口の約85%の人々が何らかの宗教を信じており、その影響力が大きいにもかかわらず、宗教的な知恵や視点が国連の議論に反映される場がないのです。さらに、現在の世界の紛争は宗教的対立に起因するものが多いにもかかわらず、宗教的な視点から和解を促進するシステムも存在しなければ、専門家もいないのです。

<文鮮明師による「国連超宗教議会」設立の提案>
 UPFの創設者である文鮮明師は、こうした国連の課題を解決するため、2000年にニューヨークの国連本部で開催された国際会議「アセンブリ2000」において、「国連超宗教議会」の創設を提唱しました。国家を代表する政治家や外交官によって構成される従来の国連を下院とすれば、一国の利害を超えた地球規模の視点から発想することのできる宗教家や精神世界の指導者たちによって構成される超宗教議会は、国連の上院に当たります。これによって国連は人間の心と体、宗教と政治の両方が代表され、それぞれが相互補完的な役割を果たすことのできる統合された機構となります。そのとき国連は、その創設の理想を体現した、国益を超えて世界平和を目指す新しいグローバル・ガバナンスの組織に生まれ変わることができるのです。これが文鮮明師の提唱する国連改革の概要です。

国連超宗教議会の概念図
アセンブリ2000_1
アセンブリ2000_2

 UPFの国連改革運動の成果の一つとして、国連「世界諸宗教調和週間」(World Interfaith Harmony Week)制定の決議案が、2010年の国連総会で採択されたことが挙げられます。この決議では、毎年二月の第一週が、世界の諸宗教を調和させるための一週間として定められました。

 2017年11月10日から14日にかけて、韓国ソウルにおいてUPFの主催で「超宗教指導者会議」が開催され、世界70カ国から約400名の宗教指導者が参加しました。その中で宗教間の協力と調和を促進する組織である「平和と開発のための宗教者協議会」(IAPD:Interreligious Association for Peace and Development)の創設を提案する決議文が満場一致で採択され、参加した宗教指導者らが決議文にサインしました。その後、IAPDは世界各国で創設され、日本でも2018年12月11日に創設されました。今後はIAPDを通して「国連超宗教議会」設立に向けての運動が展開されていくことでしょう。

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