『世界思想』巻頭言シリーズ04:2020年6月号


 私がこれまでに平和大使協議会の機関誌『世界思想』に執筆した巻頭言をシリーズでアップしています。巻頭言は私の思想や世界観を表現するものであると同時に、そのときに関心を持っていた事柄が現れており、時代の息吹を感じさせるものでもあります。第四回の今回は、2020年6月号の巻頭言です。

「共生・共栄・共義」の理念でコロナ禍を乗り越えよう

 中国の武漢に端を発して全世界に拡散した新型コロナウィルスは、いまなお世界を混乱に陥れており、収束のめどは立っていない。ウイルスとの闘いは長期戦になることが広く認識されるようになる一方で、経済に対する深刻なダメージが懸念されている。

 感染拡大をどのように阻止するかという議論とともに、「アフター・コロナ」の世界がどのようになるのかに関する議論も活発だ。「緊急事態」に名のもとに人権や民主主義が否定されるような事態も発生している。特に、感染者の特定を理由にIT技術を用いた監視体制が敷かれていくことに対しては、ある種の恐怖さえ感じる。

 アフター・コロナの世界において、中国の権威主義が勝利し、欧米の自由民主主義が敗者になるとすれば、それは最悪のシナリオだ。中国の官製メディアは、欧米諸国で新型コロナウイルスの感染拡大が中国以上に深刻な状況となったことを、共産党独裁体制の正当化に最大限利用している。

 一方の民主主義陣営で危惧されるのは ナショナリズムやポピュリズムの台頭である。欧州ではウイルスの感染拡大を防ぐため、パスポートなしで自由に行き来できるシェンゲン協定国の多くが国境を閉じて管理を強化した。「欧州は一つ」という理念は遠のき、「自国第一主義」すなわち国民国家が復権している。

 感染症を防ぐために人と人との間に「社会的距離」を取ることが要請され、国同士を結ぶ交通手段が寸断されると同時に、相互に入国制限をせざるを得ない。人々は感染を恐れて互いに疑心暗鬼となり、各国政府は自国民の生命と健康を守ることしか考えられなくなる。ある意味でこれほど人と人、国と国との関係性を破壊し、互いに孤立させるものはない。ウイルスは人々の肉体的健康だけでなく、精神的健康をも蝕んでいき、ついには政治や社会のあり方まで極めて自己中心的なものに変えてしまう恐れがある。

 しかし、これほどのパンデミックの状況下では、自国内において感染を防止するだけでは意味をなさず、世界全体がウイルスとの闘いに勝たなければ、自国の安全もまた保障されない。互いに責任を転嫁して非難しあったり、医療資源を奪い合っている場合ではない。ウイルスの危機によって生じた恐怖や怒りを政治的なプロパガンダに利用するような行為は、人類全体にとって破壊的な結果をもたらす。

 UPFインターナショナルは、4月8日に「光の環:コロナウイルスの危機を乗り越える」と題する声明文を発表した。そもそもコロナウイルスの名称は、外観がコロナ(太陽の光冠)に似ていることに由来する。それにちなんで、暗闇の中にあって「光の環」となるべく、共に働こうという趣旨で出されたものである。

 現在の危機を乗り越えていくためには、結束、協力、対話、思いやりの精神が必要である。われは人類一家族の一員である。この危機を特定の国家的、政治的、宗教的、民族的、文化的な分裂を助長するために利用すべきではない。暗闇の中の「光の環」となるべく、UPFのサミット・シリーズで強調された「共生・共栄・共義」の理念によって、この人類的危機を乗り越えていこう。

カテゴリー: 『世界思想』巻頭言シリーズ パーマリンク