北村サヨと天照皇大神宮教シリーズ08


 北村サヨと天照皇大神宮教に関する研究シリーズの8回目である。第3回からは天照皇大神宮教の教えを統一原理と比較しながら分析する作業を開始したが、今回はこの二つの宗教の究極的目的と、それを実現するための方法論について論じることにする。

<天照皇大神宮教の目的:世界平和・地上神の国建設>

 春加奈織希(本名ではなくウェブ上の匿名)による「遥かな沖と時を超えて広がる 天照皇大神宮教」(http://www7b.biglobe.ne.jp/~harukanaoki/index.html)と題するサイトでは、天照皇大神宮教の目的を以下のように説明している。
「天照皇大神宮教の目的は、世界平和・地上神の国建設です。世界平和という言葉は、様々な意味で使われていますが、天照皇大神宮教では、『世界平和は己の心の平和から』との神言(みことば)に則して、自分の心の平和、家庭の平和をまず確立すべく取り組み、学校、職場、地域社会、そして世の中全体に、そうした平和な世界が広まることを目指しています。

 つまり、天照皇大神宮教でいう世界平和・神の国建設とは、人の心の中に生まれて、肚(はら)で育ってゆく性質のものであり、神様を中心にして魂を磨く人々の集う世界(すなわち神の国)が、世界中に広がっていくことを意味しています。」
「天照皇大神宮教は、開元当初(教祖・大神様が教えを説き始められた頃)より、大神様を中心に同志が集い、神様の教えを基に魂を磨く人々の集団―すなわち、神の国が誕生したことを宣言しました。そして、同志は それぞれの家庭、学校、職場、地域において、神様の教えを実践・実行することによって、神の国の拡充に取り組んでいます。」
「悪霊や邪神の後ろ控えで、人と人とは喧嘩をし、国と国とは戦争をします。ここ数世紀の間に起きた様々な戦争の歴史を思い起こせば、やむを得ない正当防衛としての国防は少なく、残忍な殺戮、蛮行が行われてきました。まさに、悪鬼の所業です。世界平和・神の国建設を進めるためには、悪霊を済度することが不可欠です。法力ある祈りを祈ることで、即世界平和に貢献できるのです。」
「天照皇大神宮教のお祈りには、悪霊(救われていない霊。すなわち、霊界の地獄にいる霊、および、幽霊や地縛霊)を済度する力、すなわち法力があります。」

 以上を要約すると、「天照皇大神宮教の目的は世界平和であり、地上に神の国を建設することである。それは己の心の平和から始まり、家庭、社会、世界へと広がっていくものである。神教を信じる同志が増え、祈りによって悪霊を済度することで世界平和が実現される。」ということになる。

 天照皇大神宮教の主な宗教実践は、日々の祈り、信者同士が神教体験を共有しあう「共磨き」、そして布教であり、いずれも純宗教的な内容である。島田裕巳は『日本の10大新宗教』の中で、「現在では、それほど目立った活動をしているわけではないが、中規模の教団として存続している。」(p.101)と評価しており、何か華々しい対社会的活動を展開しているというわけでもなさそうだ。お祈りと布教によって徐々に神の国が広がっていくという考え方は、世の中を具体的に変える方法論を欠いており、抽象的な印象を受ける。少なくとも社会改革や政治参与といったギラギラしたものは感じさせない。

<家庭連合の目的:地上天国の実現>

 文鮮明師の創設した世界平和統一家庭連合の究極的な目的も、地上天国の実現である。そして文師の創設した組織には、「世界平和」という文字が入っているものが多い。世界平和教授アカデミー、世界平和連合、世界平和宗教連合、世界平和女性連合、世界平和青年連合など枚挙にいとまがないが、これは世界平和が地上天国の重要な要素であることを物語っている。こうしてみると、天照皇大神宮教と家庭連合がそれぞれ究極的目的とするものは言語的に極めて類似しており、そっくりであると言ってよい。

 家庭連合の教理解説書である『原理講論』においては、「地上天国」という言葉は以下のような意味で用いられている。①罪のない世界、②神の創造目的(三大祝福)が成就された世界、③人間始祖が堕落しなければ実現されていた世界、④全人類がサタンとの相対基準を完全に断ちきり、神との相対基準を復帰して、授受作用をすることにより、サタンが全く活動することのできない世界、⑤イエスが本来実現すべきであった世界、⑥イエスの再臨によって実現される世界、⑦地上で霊人体を完成させた人間が生活する所、⑧神主権の世界、⑨共生共栄共義主義社会――などである。これらは宗教的概念であり、一言でいえば神の創造理想が実現した罪のない世界であると言ってよいであろう。

 天照皇大神宮教においても家庭連合においても、究極的な目的である地上天国、地上の神の国、そして世界平和という言葉によってイメージされていることは、ほぼ同じであると言ってよいであろう。しかし、それを実現するための方法論が異なっているために、結果として現れる教団の活動の様相も異なってくる。文鮮明師は宗教団体としての統一教会・家庭連合を創設しただけでなく、そのほかに地上天国実現のための様々な組織を創設した。政治の分野では国際勝共連合や世界平和連合、学術分野では世界平和教授アカデミーや鮮文大学、言論分野では世界日報やワシントンタイムズ、医療分野では一心病院や清心病院、芸術の分野ではリトルエンジェルスやユニバーサルバレー、そしてビジネス部門では韓国と日本に無数の企業体を設立している。これは地上天国を実現するためには単にお祈りや伝道活動だけをやっていればよいのではなく、具体的に各分野における活動を展開しなければならないと文師が考えていたためである。こうした無数の組織体を総称して「統一運動」と呼んでおり、それらすべての目的は地上天国の実現にある。

 櫻井義秀と中西尋子の共著である『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)は、家庭連合に対する批判的な著作だが、その中で櫻井は家庭連合の特徴を、事業の多角化とグローバルな事業展開の二点にあるとみており、「宗教団体でありながらも、多種多様な事業部門を有する多国籍コングロマリット」(p.164)と表現している。そして、教団設立当初からこのような要素を抱える教団は稀有であると評価している。コングロマリットとは、直接の関係を持たない多岐に渡る業種・業務に参入している企業体のことで、「複合企業」とも言われる。彼が家庭連合をコングロマリットと規定する主な理由は、統一運動が実に多種多様な領域に関連団体をもっており、多角的な活動を行っているためだ。こうした様々な活動に、家庭連合の信徒たちは関わっている。家庭連合の信仰の特徴の一つは、きわめて活動的であるということだ。地上天国実現のため、神のみ旨成就のために日々忙しく働くのが、家庭連合の信仰生活の実態である。

 日々の祈り、信者同士が神教体験を共有しあう「共磨き」、および布教によって構成される天照皇大神宮教の活動に比べれば、家庭連合を中心とする統一運動の活動は実に多角的であり、具体的である。政治においても明確な反共主義を打ち出しており、目に見える具体的な形で成果を出そうとする傾向が強い。天照皇大神宮教が「心直し」を強調する宗教であるとすれば、家庭連合は「世直し」をより具体的に追求する宗教であると言ってよいであろう。

<「神の国」の版図>

 天照皇大神宮教でいう「神の国」は、人の心の中に生まれて育ってゆくものであり、神様の教えを基に魂を磨く人々の集団があれば、そこにすでに「神の国」は存在しているということになる。これはキリスト教の新約聖書の中にある言葉「神の国は、実にあなたがたのただ中にあるのだ」(ルカ17:21)を思い起こさせ、ある意味で内面化された天国の概念であると言える。すなわち、私の心の中と、私の周りの人間関係が平和であれば、すでにそこに「神の国」は存在しているのであり、それを目に見える形に表わしたり、版図を拡大していくことはさほど強調されない。

 とはいえ、天照皇大神宮教は世界平和を究極的な目的とする宗教であるため、山口県の田布施だけとか、日本国内だけで教えを広めていたのではその理想は実現できないはずであり、世界宣教が必要となる。北村サヨは1952年にハワイに進出し、1976年にはハワイ道場が建設された。アメリカ本土にも巡教にでかけ、ほかにも台湾、タイ、インド、中近東、ヨーロッパ、アフリカ、中南米と世界中を巡教し、各地に日系人の信者を中心とする支部が生まれた。サヨの後継者である北村清和を英国に留学させたのも、英語で教えが説けるようにすることが目的であったという。

 一方で、家庭連合はより具体的な形を持った地上天国を目指しているため、「神の国」の版図にもより強い関心をいただいている。文鮮明師は単に世界を巡回しただけでなく、世界のほぼすべての国々に宣教師を送り、その地に教会基盤を作っている。現在、家庭連合は世界を韓国、日本、北米、南米、アジア、アフリカ、中東、ヨーロッパ、オセアニアに分け、それぞれのリージョン本部が圏域内の国々の活動を統括している。毎年行われる国際会議や教会の行事には、世界各国から代表が集まってくる。家庭連合は名実ともに世界的な宗教団体として成長した。それは命がけの宣教によって実現されたのであり、その背後には神の御言葉を全世界の隅々にまで伝達しなければならないという文鮮明師のビジョンと使命感があり、それを支える信徒たちの情熱があった。天照皇大神宮教と家庭連合は、どちらもアジアに生まれて世界に広がった宗教であると言えるが、その拡大の版図と規模においては、家庭連合が大きく上回っていると言ってよいであろう。

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