憲法改正について06


③憲法第9条はどのようにして制定されたのか?

 そもそも憲法第9条は、どのようにして制定されたのでしょうか? その制定過程を振り返ってみたいと思います。これは三段階からなっています。

 第1段階が「マッカーサー・ノート」と呼ばれるものです。これは1946年2月3日、マッカーサー元帥がGHQのなかで日本国憲法草案を作成するように命じるにあたって、これだけは入れるようにと指示したものであり、新憲法の肝に当たる部分です。全体が4項目からなり、その第2項目が戦争放棄に関するものでした。このマッカーサー・ノートの段階では以下のような文言でした。
「(1条)国の主権的権利としての戦争は、廃止する。日本は、紛争を解決するための手段としての戦争、および自己の安全を保持するための手段としてさえも、戦争を放棄する。日本は、その防衛と保護を、いまや世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる
(2条)いかなる日本の陸海空軍も、決して認められず、またいかなる交戦権も、日本軍隊に対して決して与えられない」

 ですから、マッカーサー・ノートの段階では、自衛権すら否定し、自衛のための戦争も否定していたということです。マッカーサーの最大の関心事は、日本を二度と戦争ができない国にするために、一切の武装を放棄させることにあったのです。

 第2段階が、ケーディス大佐の修正です。マッカーサー・ノートを受け取った民政局次長のケーディス大佐が、「自己の安全を保持するための手段としての戦争さえも」の部分を削除したのです。その理由は、「どの国も自衛の権利をもっており、それをも放棄する規定を入れるのは非現実的だと思ったから」ということです。これは1984年11月に西修氏がケーディス大佐本人にインタビューして分かったことです。ケーディス大佐の修正によって条文が以下のように変わりました。
「(1条)国権の発動たる戦争は、廃止する。武力による威嚇または武力の行使は、多国間との紛争を解決する手段としては、永久に放棄する。
(2条)陸軍、海軍、空軍その他の戦力は、決して認められることはなく、また交戦権も、国家に対して与えられることはない」

 これによって自衛のための戦争までも否定していた文言がなくなったので、自衛のための戦争であれば認められると読めるようになったのです。

 第3段階が「芦田修正」と呼ばれるものです。これは帝国議会の衆議院帝国憲法改正案委員小委員会で委員長を務めた芦田均が加えた修正のことです。芦田均は日本の首相まで務めた人です。芦田修正によって、文言は以下のように変わります。
「(1項)国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
(2項)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

 これは基本的に1項と2項の内容はアメリカの言うとおりそのままにして、それぞれ独立していた1項と2項の間に、「前項の目的を達するため」という語句を挿入することによって、両者を接続し結合させるという「技」を使ったということなのです。

 そうなると全体がどう読めるかというと、1項は国際紛争を解決するための手段としての戦争や武力行使を放棄しています。これは国際的には「侵略戦争をしませんよ」という意味になります。これに「前項の目的を達するため」という言葉をくっつけたことにより、2項はその目的のため、すなわち侵略戦争を目的とする戦力保持を否定しているのであって、自衛のための戦力であれば保持できると、ますます読むことができるように修正されたということなのです。

 ですから当時の日本の国会議員もそうとう頑張って、自衛権は認められると解釈できるような文言にするために、努力をしたのだということが分かります。

④憲法学者たちは自衛隊の合憲性をどう考えているのか?

 ところが、現代の憲法学者たちに自衛隊は合憲だと思うか、違憲だと思うかを尋ねると、以下のような結果になるのです。

憲法改正について図⑪

 これによれば、41%が違憲だと答え、22%が違憲の可能性があると答えています。自衛隊は合憲だと言い切った憲法学者は23%しかいません。このことから憲法学者は自衛隊が違憲だと考える傾向が非常に強く、国民の感覚からかけ離れていることが分かります。

⑤憲法9条改正に対する自民党の立場

 これはあまりにも申し訳ないじゃないかということで、自民党としてはまずは9条に自衛隊を明記することから憲法改正をしようじゃないかという意思表示をしたのです。以下は2018年3月25日に行われた自民党の党大会における安倍首相(当時)の発言です。
「結党以来の課題である憲法改正に取り組む時が来ました。4項目について議論を重ねてまいりました。もちろん第9条においても、改正案を取りまとめてまいります。わが国の独立を守り、平和を守り、国と国民を守る。そして自衛隊を明記し、この状況に終止符を打ち、そして違憲論争に終止符を打とうではありませんか。これこそが、私たち今を生きる政治家の、そして自民党の責務であります。」

 現在、自民党の憲法改正案は①自衛隊の明記、②緊急事態対応、③合区解消、④教育充実の4項目からなっており、「自衛隊の明記」が筆頭に上がっております。自衛隊の方々が国を守るために頑張っているにもかかわらず、「憲法違反の存在だ」などと言われ続けているのはあまりにも申し訳ない。この状況を変えるのは政治の責任であると安倍首相は強く決意をしていたことが分かります。

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