憲法改正について07


 憲法改正が必要な6番目の理由は、日本国憲法には緊急事態条項が存在しないということです。

①緊急事態条項の必要性を痛切に感じる時代になった

 いま私たちが生きている時代は、緊急事態条項の必要性を痛切に感じる時代になりました。その理由は何と言っても、新型コロナウィルスのパンデミックを経験したからです。この世界的な危機に対して日本は、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の改正によって対応しました。これを法的根拠として首相が緊急事態宣言を発出したのですが、憲法の根拠がなかったのです。ですから首相の宣言に基づき、都道府県知事は外出自粛、学校の休校、行事の制限、予防接種実施への協力、医療提供体制の確保などを要請できるのですが、一般国民に対してなせるのは要請・指示であり、強制力はありませんでした。

憲法改正について図⑫

 ですから諸外国のロックダウンに比べ、日本政府ができることは非常に限られていたのです。これは憲法の中に緊急事態条項がないことが原因です。コロナ・パンデミックのほかにも、中国による台湾侵攻の可能性が高まってきて、「台湾有事=日本の有事」などと言われるようになりました。そしてロシアによるウクライナ侵攻によって、他国による侵略は実際に起こり得るのだ、緊急事態というのは起こり得ることなんだと知ったのです。こうした現象を通して、緊急事態になれば平時の法では対応できないことに対する国民の理解が深まったのです。

②世界のほとんどの国の憲法には緊急事態条項がある。

 外部からの武力攻撃、内乱、組織的なテロ、重大なサイバー攻撃、経済的な大恐慌、大規模な自然災害、深刻な感染病など、平時の統治体制では対処できないような国家の非常時にあって、国家がその存立と国民の生命、安全を守るために、特別の緊急措置を講じることを、「国家緊急事態」といいます。

 このような意味での緊急事態条項は、西修氏の調査によれば、189の国家中、184の国家(97.4%)に見出すことができたということです。導入していない国を探す方が難しいくらいで、ノルウェー、ベルギー、オーストラリア、モナコ、日本の5カ国のみとなります。1990年以降に制定された成典化憲法では、緊急事態条項がないものは皆無でした。国際人権規約にも緊急事態の規定がありますので、緊急事態条項は世界的には常識ということになります。ですから、当然日本国憲法にあっても良いのです。

③憲法に緊急事態条項を設定することは立憲主義に反しない

 ところが、危機的な状況になった時に、緊急事態条項を設定する憲法改正の話をすると、「火事場泥棒的な議論だ」と批判されることがあります。しかし、ことの本質は、火事場において泥棒が起こらないように、火事の時のルールを決めようというのが緊急事態条項の意味なのです。

 カール・フリードリッヒという米国の著名な政治学者は、「緊急事態に対処できない国は、遅かれ早かれ、崩壊を余儀なくされる。」と述べました。

 コンラート・ヘッセというドイツの著名な憲法学者も以下のように述べています。
「憲法は平常時においてだけでなく、緊急事態および危機的状況においても真価を発揮すべきものである。憲法がそうした状況を克服するための何らの配慮もしていなければ、責任ある機関には、決定的瞬間において、憲法を無視する以外に取りうる手段は残っていないのである。」

 つまり、緊急事態にあって一番大切なことは、憲法に立脚して国の平和と国民の生命・安全を維持・回復することなのです。むしろ、憲法に設定しなければ、政府が独善的な行動をとる危険性があるのです。

④自民党素案における緊急事態条項

 自民党が作った憲法の素案には、この緊急事態条項が含まれています。2018年3月24日に発表した「条文イメージ(たたき台素案)」の中の、憲法第73条の2は以下のようになっています
「①大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。

 ②内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。」

 この自民党素案の特徴は、国家緊急事態として、「大規模災害」のみを対象としていることです。これは限定のしすぎであり、外部からの武力攻撃、テロ、深刻な感染症、重大なサイバー攻撃なども含めるべきであると思います。

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