札幌第二次「青春を返せ」裁判の判決を検証する<第8回>


札幌地裁判決は、「第4章 被告の損害賠償責任」において、以下のように述べている:

統一協会においては、教化活動の一環として、原告ら全員に対し、家族は、サタンとつながっており、サタンの支配下にあるため、信者を「拉致監禁」して無理矢理に棄教を迫る存在であると教え込み、そう信じ込ませていた。(p.251

これまで、統一教会信者に対する親族による拉致監禁、ならびに「脱会カウンセラー」と呼ばれる専門家らによる信仰破壊活動に関する事件は、監禁から脱出した信者らの証言によって明らかにされてきた。そして、その一部は拉致監禁を実行した親族や「反対牧師」を相手取った民事訴訟によって、法廷で事実として認定された。以下、拉致監禁が事実であることを認定した判決を列挙する。

統一教会信者に対する拉致監禁事件に関して起こされた最初の民事訴訟は、1980年4月に美馬秀夫、田代光恵、大久保朋子の3名が起こしている。彼らは、いずれも東京の久留米ヶ丘病院に強制入院させられ、棄教の説得を受けた。この訴訟の判決は、1986年2月28日に東京地裁で下され、根本久裁判長は原告3人の訴えを認め、彼らを精神病院に監禁した落院長に総額250万円の損害賠償金を支払うよう言い渡した。同訴訟の判決理由は、「一般に人をその同意なくして精神病院に入院させ、身体を拘束して治療するには、都道府県知事が入院措置をとらないかぎり、第一にその人が精神病院の管理者によって診察の結果精神障害者であると診断されることが必要であり、第二に精神衛生法第20条所定の保護義務者の同意があることが必要である」とし、「原告らの両親は、いずれも家庭裁判所から保護義務者として選任されていなかったにもかかわらず、被告は、原告ら3名を入院させたものであるから、右行為はこの点において違法である」と判断している。2人の女性に関しては「入院を必要とするほどの精神障害はなかったので違法」と断定し、美馬さんについては「入院前に十分に診察したわけではなく、従って精神障害者であると診断したわけではないのに、入院させて不必要な薬物治療法などを継続したものであり、この点においても違法である」と判断している。原告側・被告側双方が控訴しなかったため、判決は確定している。

1997年6月7日に拉致され、15カ月間にわたって監禁された富澤裕子さんは、1999年5月11日、監禁下で棄教の説得を行った神戸真教会の高澤守牧師ならびに両親を相手に民事裁判提起をした、富澤さんは、2000年8月31日の鳥取地裁判決で勝訴し、さらに2002年2月22日の広島高裁松江支部判決も勝訴して、判決は確定している。この訴訟の高裁判決は以下のように述べている:「以上の認定事実によれば、控訴人夫婦(富澤裕子さんの両親)は、成年である被控訴人(当時31歳)の意思に反して、平成9年6月7日から平成10年8月30日までの間逮捕、監禁したものであり、控訴人高澤は、これを幇助したものであって、控訴人らのこの逮捕、監禁行為が不法行為に該当することは明らかである」「控訴人高澤の被控訴人に対する説得活動は、牧師としての活動の一環であって、宗教活動であるということはできるが、被控訴人が違法に逮捕、監禁されている状態を知りながら、それを利用してなされたものであり、…正当な宗教活動を逸脱しているものというほかなく、控訴人高澤の説得行為は違法性を阻却されるものではなく、控訴人夫婦らの幇助者として連帯して損害賠償責任を負うものである」。

2001年10月~12月にかけて、約60日間監禁され、脱会強要を受けた寺田こずえさんは、2002年5月1日に高澤守牧師らと両親を相手に民事訴訟を提起した。寺田さんは2004年1月28日の大阪地裁判決で勝訴し、さらに2004年7月22日の大阪高裁判決でも勝訴して、判決は確定している。原審の大阪地裁判決は両親の違法行為に関して:「これらの事実関係の下においては、被告両親が上記のとおり原告こずえを1005号室に連行し、同室に滞在させたことは、原告こずえの意思に反する身体の自由の拘束に当たるというべきであるから、不法行為に該当するものと認められる」と判断している。さらに高澤牧師の違法行為に関しては、「被告両親が原告こずえの意思に反してその身体の自由を拘束し、これを継続したことについて、被告高澤は積極的な関与をしたものと認められるから、このような被告高澤の行為は、不法行為に該当するというべきである」と述べている。また、寺田さんの損害の内容に関しては、「原告こずえは、…60日間の長期にわたり、1005号室での滞在を余儀なくされ、その間、一度も外出したり、電話をすることができず、外部との連絡が遮断されていたこと、…夫婦別離の生活を強いられたこと…が認められ、以上の事実によれば、被告両親及び被告高澤の前記不法行為により、原告こずえが相当程度の精神的苦痛を被ったことが認められる」と認定している。

大阪高裁判決は、「当裁判所も、第1審被告両親には、第1審被告高澤とともに、第1審原告こずえに対する共同不法行為が成立すると判断する」「第1審被告高澤は、第1審被告高澤の行為は牧師としての宗教行為であるから、社会的相当性があり、違法性阻却事由があると主張する。しかしながら、第1審原告こずえの身体の自由を拘束するという行為は、牧師としても、違法性の全部を阻却するということはできない」と述べて、一審判決を支持している。

これらの判決が示すとおり、統一教会信者の親が子供を拉致監禁し、キリスト教牧師等と結託して脱会強要を行っていることは客観的な事実であり、そうした事実があること、またそのような危険性があることを信者らに教えるのは正当なことであり、違法性の根拠にはならない。

さらに、1987年3月から2001年6月まで札幌地裁で審理されたいわゆる第一次札幌「青春を返せ」裁判において、原告らが教会を離れるようになった状況は、統一教会の代理人である弁護士が、原告らに対して行った反対尋問によって明らかになっている。21名の原告の証言を分析すると、21人中8名が文字通り監禁されたことを認めている。また、「監禁」という表現は認めていないが、部屋には内側から鍵がかけられており、部屋から自由に出入りできなかったことを認めた者が8名いる。軟禁状態にあったと証言している者が2人いる。監禁という言葉を否定し、出入りの制限はなかったと証言している者は3人である。これらの証言において、物理的な拘束が事実上あったことを認める原告が全体の75%を超えていることは特筆に値する。また、全体の86%の原告が、何らかの意味で拘束された状態で脱会を決意したことになる。

また、物理的拘束の存在は、法廷でも認定されている。平成15年3月14日の札幌高裁判決は、「被控訴人らはいずれも控訴人を脱会(棄教)した者であり、脱会に至るまでの過程において親族らによる身体の自由の拘束等を受けた者も多く、このような拘束等は、当該被控訴人らとの関係においてそれ自体が違法となる(正当行為として許容されない。)可能性がある」 と述べている。このことから、親が子供を拉致監禁して脱会の強要を行っていることは客観的な事実であり、虚偽でも脅しでもない。したがって、拉致監禁について「教え込み、そう信じ込ませていた」という地裁の認定は事実誤認であり、統一教会の信者らは、拉致監禁の事実について正確な情報を提供していたに過ぎない。

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