大畑昇氏による第二部の6番目の記事「6.シンポジウムを終えて」の二回目です。
この記事の中で特に興味深いのが、「三 北海道大学におけるカルト問題相談の模擬事例」です。理由は、北海道大学が行っている極めて問題の多い「カルト対策」の事例に関する情報を自ら開示しているからです。
大畑氏は、「『カルト問題はどこに相談したらよいか?』を明確化しておくことが、重要です」と前置きした上で、カルト問題についての相談が最も多いのが学生であり、北海道大学ではその相談場所を学生相談室にきめており、そこは同時にハラスメント問題の相談窓口にもなっていると説明しています。(p.233-234)
ここで気になるのが、慶応大学の平野学氏は、親や友人からの相談が圧倒的に多い(p.190)と言っているのに対して、北海道大学では学生からの相談が最も多いというように、大学によって相談の形態が異なっているということです。これは恐らく、北海道大学では入学時のガイダンスで「カルトの危険性」を徹底的に啓蒙しているために、少しでも誘われた学生が恐れをなして学生相談室に来るケースが多いのだと思われます。
大畑氏の説明によると、北海道大学におけるカルト問題に対する対処法は、以下のような構造になっていることが分かります。
これは要するに、学生相談室に誰かが「カルト問題」で相談に来た場合には、カウンセラーはすぐにカルト問題の専門家である櫻井氏と大畑氏に連絡する体制になっているということです。
一応、「最初に対応したカウンセラーは相談に来た学生に対して、北大での対応を説明し、カルト対策室員(教員)に連絡していいかどうか確認します」(p.234)と述べて、本人の意思を尊重しているという「アリバイ作り」はしています。しかし、「同じ相談者の二回目以降の相談、あるいは同じ件(カルト勧誘者が同一)で他の学生からの相談があった場合には、『危機的状況への対応事案』として、カルト対策室への連絡をしなければならない」という規定があるらしく、「危機的状況」のハードルが随分と低く設定されていることが分かります。事実上、学生が「カルト問題」で相談室に来れば、その情報は櫻井氏と大畑氏に伝えられて、何らかの対策を講じる段階へと進むと考えて良いでしょう。
学生からの相談の次に多いのが、学生の両親からの相談で、それと同程度に多いのが教員からの相談だということです。担当クラスの学生あるいは教室の学生がカルト団体に関与しているらしいと他の学生から相談を受けた教員が、どのように対処すればよいかを学生相談室に聞いてくるようです。「カルト問題」に関する相談を多方面から受け付け、アンテナを高く立てて対処しようとしている様子が理解できます。「カルトの危険性」を徹底的に啓蒙しておけば、あらゆるルートから情報が入ってくるというわけです。
さて、それでは具体的な北海道大学の模擬事例の紹介に入り、その問題点を明らかにしていきましょう。
1.「カルト団体らしきサークルの集まりに参加してしまい、団体関係者に自分の携帯番号を教えてしまった。どうしたらよいか?」と学生相談室を訪れた学部学生
カルト相談で最も多いのが、この種の入学直後の新入生の相談だということですが、これは北海道大学における「カルトの危険性」に対する啓蒙が入学時のガイダンス等で徹底的に行われているためであると考えられます。
対応方法としては、①「カルト対策室員の教員を紹介するのでその教員と相談して欲しい。連絡先を教えて」と言って相談学生の連絡先を確認する、②どのように断るかを具体的に教える、③しつこい場合には「迷惑行為」や「ハラスメント行為」とみなして大学側が介入する――といった内容が説明されています。
次に大学が行うことは、「勧誘行為や集会の場所、勧誘した人間や世話役の人間の情報、そして、その集まりに参加していた他の学生の情報を相談に来た学生が知っている範囲で教えてもらいます」(p.238)とあります。要するに、相談に来た学生からカルト団体に関する情報収集を行うということです。これはあくまでも「二次的なもの」と説明していますが、やり方によっては学生に仲間を売らせる、密告させる、スパイ行為をさせることによって、芋ずる式に「カルト」に関わっている学生を脱会させることも可能だということです。出版される本なのでこのへんは柔らかく表現していますが、実際にはそのようなことが行われていると推察されます。
2.「友人がカルト団体と思しきサークルに加入して、公認団体である学生たちのサークルには顔をださなくなった。カルトのサークルを脱退するように説得したいのでアドバイスがほしい」と学生相談室に相談に来た公認サークル団体の学生
これに対する対応としては、「君たち学生が脱会を画策するのは大変危険なので、これ以上深入りしないこと。ついては、大学が当該学生に関係を絶つように説得するので、君たちが知っている情報を詳細に教えて欲しい」と協力を要請する(p.239)と説明されています。要するに、学生から情報を聞き出して、大学側が介入するということです。ここで問題となるのは、当該学生が面談を希望しているわけではないのに、友人からの情報に基づいて、本人の意思に関わらずカルト対策室員が面談をするということです。そこでは、極めて問題のある手法が取られていることを自ら暴露しています。
「最初はあくまでも、『学生相談室の学生支援活動に協力してもらいたい』という大学側からの協力要請ですので、カルト対策室員だとは言わずに学生相談専門委員会のメンバーだと自己紹介します。面談内容は、『実は学生の個人情報に関する事項もあり守秘義務に関わることなので、直接面談した際に話します』と説明します」(p.240)とあるように、大畠氏は、目的と正体を秘匿して学生を呼び出しているのです。そうする理由は、最初から目的を告げると来ないからです。これは、彼らが「カルトがやっている」と非難している手法と全く同じです。恐るべきダブル・スタンダードです。
続いて、「当該学生がカルト団体との関係を絶つ意志を確認できた場合はいいが、問題は当該学生が沈黙を守り、何も話さない場合で、当該学生がカルトに深入りしているケースと見ていい。深く追求せず、話す気になったら連絡して欲しいと伝えると同時に、警告もする」というような内容が説明されています。
学生が特定宗教に関わっているという情報を本人以外から入手し、正体と目的を秘匿して当該学生を呼び出し、特定宗教からの離脱を説得する。こんなことを国立大学がやって良いのでしょうか? 重大な憲法違反ではないでしょうか?