<第二部 6.シンポジウムを終えて>(24)


櫻井義秀、大畑昇編著の「大学のカルト対策」の書評の24回目です。この本の第二部の五番目の記事は「5.質疑応答」ですが、これまで折に触れて重要な部分を引用してきたのでここでは省略します。この本の第二部の六番目の記事は、「6.シンポジウムを終えて」という総括的な内容で、北海道大学の大畑昇教授が担当しています。彼は櫻井義秀氏とともに、この本の編著者になっています。

 

彼は「一 はじめに――シンポジウムの企画説明」という項目の中で、自らがこの問題に関わるようになったきっかけについて、以下のように説明しています。

 

「筆者が日本学生相談学会に関わりを持つようになったきっかけは、『アカデミック・ハラスメント防止ガイドライン作成のための提言』( 「アカデミック・ハラスメント」防止対策のための五大学合同研究議会。2006年6月3日発行 )でした。北海道大学・東北大学・東京大学・東京工業大学・九州大学の五大学の学生相談関係者が、当時五つの大学でアカデミック・ハラスメントに関する相談が増加してきたことから、各大学に対してその問題解決のための方策をどうするかについて提案しようということで、アカデミック・ハラスメントの防止を目指す国内最初の協働の試みを立ち上げて、それに当初から関与させていただいたからです。」(p.226)と述べています。

 

この本の趣旨とは無関係に、私はこの部分に大きな関心を持ちました。なぜなら、こちらとしては「カルト対策」は大学による一種のアカデミック・ハラスメントであると認識しているわけですから、「アカハラとは何か」に関するそのような権威ある判断基準があるのであれば、それに照らして大学の不当性を訴えられないかと思ったわけです。その意味で、これは貴重な情報提供でした。

 

さっそくネットで検索してみると、オリジナルの文書は見つからなかったものの、神戸大学ウェブサイトの「ハラスメント行為の例示について」のページに、以下のような記述がありました。

 

「アカデミック・ハラスメントの分類と例示は『アカデミック・ハラスメント』防止等対策のための5大学合同研究協議会 (北海道大学、東北大学、東京大学、東京工業大学、九州大学)が作成した 「アカデミック・ハラスメント防止ガイドライン作成のための提言」から引用させていただきました。」

 

参考までに、神戸大学ウェブサイトのこのページのURLは以下のとおりです:

http://www.kobe-u.ac.jp/info/project/harassment/examples.html

 

さて、この「ハラスメント行為の例示について」は、「セクシャル・ハラスメント」と「アカデミック・ハラスメント」「その他のハラスメント」に大別してそれぞれの例を示しているのですが、とりあえず「セクハラ」の方は主題と関係ないので、「アカハラ」と「その他のハラスメント」の例示を以下に引用させていただき、CARP学生が受ける可能性の高いハラスメントを赤で表示し、若干のコメントも付け加えてみたいと思います。

 

◆アカデミック・ハラスメント

1.研究の妨害を行うこと

(1) 論文提出時に逸脱した条件を要求すること

ア 卒論や修論、博士論文の提出条件を十分に満たしているにもかかわらず、提出を許さないこと

イ 行き過ぎたプレッシャーにより研究成果を要求すること

(2) 研究チームから不当に排除すること

ア 当然加わるべき研究チームから理由なく排除すること

イ 研究室の他のメンバーに対して正当な理由なく関係を断絶させること

(3) 研究活動を不当に制限すること

ア 実験や研究のための機器や設備を理由なく使用させないこと

イ 研究上の評価をする際に、恣意的に不当な評価を行うこと

ウ 研究発表活動 (論文や学会発表、その他の著述等) を不当に制限すること

(4) 指導を拒否及び放置すること

ア 指導を求められても、理由なく指導をしようとしないこと

イ 指導教員の交替が制度上可能であり、 正当な理由のもとに学生がそれを希望しても指導教員の指導から離脱させずに放置すること

(5) 業績を搾取すること

ア 正当な理由なく論文著者や順序を変更すること

イ 研究業績を指導教員や他の者に変更するように圧力をかけること

ウ 個人的アイデアによって始まった未発表の研究を了解なく他の者に行わせること

2.就学や進路を妨害すること

(1) 就学の権利を侵害すること

ア 授業中に人格をおとしめる言動や、教員の学説等に従わせようとする脅迫的な言動を行うこと

イ 成績の不当な評価を行う。あるいは評価に無関係な事柄を成績に結びつける発言をすること

ウ 求められた教育上の指導を正当な理由なく拒否すること

エ 常識的には不可能な課題達成を強要すること

(2) 進路 (進学・卒業・就職) を妨害すること

ア 個人的な感情から、奨学金や学術振興会特別研究員などの申請に必要な推薦書を書かないこと

イ 休日を一切とらせないこと

ウ 大学卒業後あるいは大学院修了後の進学・就職について、進路先における自分の影響力を示唆することで、 本人の自由な意志決定を妨害しようとすること

エ 卒業や論文審査について、自分の権限の範囲を逸脱した発言を行うこと

オ 就職が内定した後に、内定先とのコンタクトをまったく認めないことなどにより就職を妨害すること

3.研究室において不当に強制すること

ア 研究室に早朝から深夜までいることや、泊まりでの実験を強制すること

イ 休日を一切とらせないこと

ウ 研究室内の雑用をある特定の個人に集中してやらせること

エ 教育研究とは無関係な学外での私的交際を強要すること

4.教育の妨害を行うこと

ア 正当な理由なく授業を担当させないこと

イ 教育上の評価をする際に、不当な評価を行うこと

5.就労上の権利の侵害や業務の妨害を行うこと

ア 昇任や業績評価にあたって恣意的に不当な妨害を行うこと

イ 業務に関して著しく不公平・不当な評価を行う。 あるいは、その種の発言によって脅威を与えること

ウ 勤務時間では不可能な、あるいは休日の作業が必要になるような逸脱した業務の達成を要求すること

エ 本来の業務以外の個人的な論文・原稿等の翻訳・英文校閲業務等を本人の同意なしに行わせること

オ 業務に支障が出る程度に、指示決定を遅らせること

6.身体・精神的暴力を加えること

ア 暴力をふるったり体罰を加えたりすること

イ 教育研究に関連して,名誉や人格を著しく傷つけるような発言をすること

ウ 不当な仲間はずれを行うこと

エ 何時間も問い詰めたり、拘束したりすること

(コメント:特定宗教の学生を呼び出して、脱会を説得する際に、こうした行為が行われる可能性がある。)

 

◆その他のハラスメント

1. 酒が苦手で断っているにも関わらず無理矢理飲酒を強要すること

(コメント:研究室で飲酒を強要されたら、これを使って拒否できます。)

2. 虚偽のうわさを流したり、怪文書を配付すること

(被害弁連のビラやカルト対策のポスター等は、ある意味で「虚偽のうわさ」や「怪文書」に当たるのではないでしょうか)

3. プライベートなことに執拗に介入すること

(個人の信仰や思想・信条、家族関係等はまさにプライベートなことです。大学のカルト対策は、この点でまさにハラスメントに該当します)。

 

このガイドラインに示されている情報は、大学当局や教授によるハラスメントから身を守る上で大変有益ですので、学生諸君はよく頭に入れて、自らの権利を守りましょう。

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