<第二部 4.大阪大学における取り組み>(22)


櫻井義秀、大畑昇編著の「大学のカルト対策」の書評の22回目です。この本の第二部の四番目の記事は、「4.大阪大学における取り組み」というタイトルで、大和谷厚氏が担当しています。この大和谷教授は、室生忠著『大学の宗教迫害』(日新報道)の59ページに実名で登場するほか、その他の箇所でも大阪大学医学部のY教授として頻繁に登場する人物です。彼は「生活環境論」という一年生の必須課目の中に「カルト対策」の内容を盛り込み、学生のレポートを通じての「密告システム」でCARP学生を特定し、本人を尋問して脱会させたり、さらに他のメンバーの密告を強要したり、反対牧師を紹介して棄教強要したり、あるいは学生の保護者に連絡して反対牧師を紹介したりするなどして、芋づる式に次々とCARPメンバーを脱会させていった「実績」を持つ人物として描かれています。まさに大和谷は、大阪大学における「カルト対策」を立ち上げた中心人物といって良いでしょう。

 

非常に興味深いことに、この本の中で大和谷氏は自らがカルト対策に関わるようになった「発端」について詳しく語っています。その部分を、少々長くなりますが引用します。

 

 この「○○サークル」というのは、1973年創立で、大学が公認し、部員数が5~10名くらいで、学生だけで行えるとは思えない、しっかりした活動をしていて、年間収入が約900万円もありました。この金がどこに流れていったかのかは、想像に難くないわけです。

 また、このサークルについては、2003年頃にご父兄から大学の学生部にカルト団体との関係を指摘する通報がありましたが、学生部は「信教の自由、結社の自由」があるということで、当時は全く動きませんでした。ところが、2005年に、学外の方から極めて具体的な被害実態の通報があり、それで私どもが積極的に動き出し、活動の全容を把握して、2007年にこの団体の公認を取り消しました。

 この外部から通報があったときのお話をしますと、このカルト団体のダミーボランティア団体で活動している学生が、某大学のある教員の自宅を訪問し、物品販売による募金をお願いしました。この教員の奥様はまさにこのカルト団体の元信者でこの教員の方が自ら説得して脱会させたという経験をお持ちの方だったのです。奥様を救出されてからも、ずっとこの問題に取り組んでおられましたので、すぐに状況を把握し、「じゃあ、ちょっと上がってもらって話を聞こうか」と招き入れていろんな話をして、うまく情報を引き出してくれました。その中に私どもの大学の学生についての情報があり、その情報が、紆余曲折があったのですが、本学の当時の学生生活委員長の私のところに届きました。いただいた情報は私どもが把握していた情報と一致したのです。これは何とかしなければならないと考え、直ちに大学トップの承認を得て、学生生活委員会副委員長の教授と学生支援課長の私の三人で「対策」をスタートしました。ご家族の献身的なご努力もあり、その年のうちに、かなりの数の学生が自主的に脱会することができ、自立支援に持っていくことができました。(p.202-203)

 

この「○○サークル」というのはいったいどの団体なのでしょうか? 大阪大学では原理研究会(CARP)自体が公認されたことはないし、2007年に公認を取り消された事実もないので、この記述は当てはまりません。しかし、もし大和谷氏が「大阪大学新聞」とCARPを混同または同一視しているとすると、かなりの部分が一致することになります。

 

大阪大学には、かつて「大阪大学新聞」と名乗る新聞が二つありました。一つは新聞の題字が縦書きで、もう一つは横書きであるという違いこそあれ、全く同じ名称の新聞が二つあったようです。このうちの横書きの方の「大阪大学新聞」は、昭和48年創刊なので、大和谷氏の言う「1973年創立」と一致し、2006年までは大学から公認されていましたが、2007年に公認取り消しを受けているので、この点でも一致します。そして2006年から2007年にかけて、大阪大学では大和谷氏の主導による大がかりな「CARP狩り」が行われたことも、室生忠著『大学の宗教迫害』の記述と一致します。

 

断定はまだできませんが、大和谷氏の言う「○○サークル」というのは、題字が横書きの「大阪大学新聞」のことを指し、彼はこの新聞をCARPと同一視して、新聞の公認取り消しと「CARP狩り」に奔走したということではないでしょうか? だとすれば、大和谷氏がカルト対策に関わるようになった発端は、やはりCARPが関わっており、CARPこそが大和谷氏による「カルト対策」の「主敵」であったことになります

 

さて、大和谷氏は続いて、「ダミーサークルの公認取り消し」について説明しています。彼は前述の「○○サークル」を含めて三つの団体を「カルト団体のダミーサークル」と位置づけてターゲットに設定し、「学生生活委員会に調査委員会を設置し、これらの三つの団体の責任者を順次呼び出してヒアリングを行いました。ヒアリングでは活動資金の使い方や、活動目的と現在の活動内容との関係などを細かくヒアリングし、矛盾点を指摘し、再度資料の提出を求めることを繰り返しました」(p.204)と説明してます。

 

彼はこれを「慎重に、教育的配慮のもとに行った」と言っているのですが、要するに特定サークルを狙い撃ちした「いじめ」にほかなりません。一度「カルト団体のダミーサークル」との疑いをかけられたら、徹底的に尋問され、矛盾点を追求され、何度も資料の提出を要求されるという「嫌がらせ」を受けるのです。ターゲットにならなかった他のサークルに対してはこうしたことは全く行われず、サークル活動の自由と自治が保証されているにもかかわらず、一度狙いをつけられた団体は、徹底的に絞られて最後は追い出されるということです。

 

続いて大和谷氏は、「公認を取り消すには、当時の学内学生団体取扱規程六条の『学生団体が大学教育の目的に反する行為を行った場合は、学生生活委員会の議を経て、その承認を取り消すことがある』という規定しか使えなかったのですが、『大学教育の目的に反する行為を行った』ことを証明することは容易なことではありません。そこで、法曹資格を持った教授に助言を求め、『いずれの団体においても活動内容が大学教育の目的に反していないという積極的心証を形成するに至らない』という結論に至り、公認を取り消しました。その後はこの三つの団体は自然消滅しました。」(p.204)と誇らしげに書いています。

 

実は、この記述はひどい内容です。法曹資格を持った教授の言っている「心証」とは、心に受ける印象のことであり、裁判においては「訴訟上の要証事実に対して形成される裁判官の主観的な認識や確信」を言います。要するに彼の言っていることの意味は、「これらのサークルが大学教育の目的に反する行為を行ったことは証明できないが、しなかったという強い印象も持てないので、公認を取り消した」ということなのです。まさに「疑わしきを罰する」という魔女狩り・人民裁判的な手法で特定サークルの公認を取り消したことになります。

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