私がこれまでに平和大使協議会の機関誌『世界思想』に執筆した巻頭言をシリーズでアップしています。巻頭言は私の思想や世界観を表現するものであると同時に、そのときに関心を持っていた事柄が現れており、時代の息吹を感じさせるものでもあります。第14回の今回は、2024年2月号の巻頭言です。
日仏で強まる「反カルト」の動きに警戒を
2001年に制定されたフランスの「反カルト法」がこのたび改正された。
もともとこの法律は「カルトによる精神操作」を犯罪として取り締まることを目的に起草されたのだが、国際的な宗教学者や法律の専門家が「洗脳理論」は疑似科学であり、法案は特定宗教に対する差別になると批判したため、妥協の産物として「脆弱性の悪用」を禁止するという文言に修正されて成立した経緯がある。
この法律は、アメリカを筆頭とする宗教の自由を尊重する西洋諸国からは「悪法」と批判されてきた。EUの中にあってもフランスの極端な反宗教政策は孤立している。それでもフランスには「セクト的逸脱行為関係省庁警戒対策本部」(MIVILUDES)という政府機関があり、彼らが一度は失敗した「精神操作」の犯罪化に、再び挑戦する決断を昨年したのである。それは現行法では彼らが標的としていたエホバの証人やサイエントロジーを取り締まることができなかったからである。
新法案の核心は「心理的服従」という新たな犯罪の創設にあった。被害者を「心理的服従」状態に置いた者は、懲役3年の刑に処せられ、被告人がこれらの手法を日常的に使用する「組織的な一団」、すなわち「カルト」の一員である場合には、懲役7年の刑に処せられることになっていた。
ところが昨年12月に開かれたフランスの上院法務委員会は同法案を検討し、「心理的服従」という新たな犯罪の導入を規定した条文を削除したのである。その法案がそのまま上院の本会議に送られて可決された。これは最悪の事態が回避されたことを意味する。加えて、「医学界が承認した治療を拒否するよう誘導する」という新たな犯罪の導入も見送られた。
この修正の背景には、米国国際宗教自由委員会(USCIRF)が、フランス政府が提案している「反カルト法」の修正案について、信教の自由にとってこれまで以上に危険なものとなるだろうとの懸念を表明したことがあると言われている。フランス国内のプロテスタント教会も反対の声を上げた。
しかし、この度の法改正が「改悪」であることに変わりはない。具体的には「カルト」を相手取った訴訟に反カルト団体が民間機関として出席することが許されたり、検察官や裁判官が特定のグループを起訴したり、審判したりする際に、MIVILUDESの意見を求めることが奨励されたりするようになる。
フランス政府の反宗教政策は国際的に孤立しているが、最近は日本政府が反カルト政策をとるようになり、それに勇気づけられている。すなわち、フランスと日本はお互いに励まし合い、正当化しあっているのだ。こうした相乗効果により、日本の反カルト政策がフランスのモデルに従って強化されていく恐れがある。それに対する警戒が必要である。