数ある「カルト」定義の中で、国際的で、なおかつ大きな影響力を持っているのが、フランス国民議会の「アラン・ジュスト報告書によるセクト、あるいはカルトの定義」です。本来、ヨーロッパでは「セクト」という言葉は使われたとしても、「カルト」という言葉は使われません。しかし、いわば人々に害をもたらすような新興宗教の定義を、フランス国民議会の承認した委員会で定義してしまったのです。このことは非常に物議をかもしました。「『精神を不安定化する』『法外な金銭を要求する』『住み慣れた生活環境からの断絶』『肉体的保全の損傷』『子供の囲い込み』『反社会的な言説』『公秩序の錯乱』あるいは『裁判沙汰の多さ』『従来の経済回路からの逸脱』『公権力への浸透の行為』など、これらの項目のいずれかに当てはまる団体を『セクト(カルト)』とみなし、国家が監視する必要がある」と、フランスは定義してのけました。ヨーロッパ全体を概観しますと、いわゆる「カルト」「セクト」と呼ばれる新宗教に対しては、積極的にコントロール、あるいは規制しようとする国と、基本的に信教の自由を尊重しようとする国に分かれています。前者の代表国がフランスとベルギーです。後者の代表国はイギリス、オランダ、ドイツになります。ですから、新宗教に厳しいフランスでこのような「反セクト法」「反カルト法」のようなものができたので、日本の反カルト団体が「フランスに学べ」「フランスは素晴らしい」と大騒ぎした時期がありました。さらに、フランスはこのような基準を設けたことに留まらず、この基準を用いて「セクト(カルト)」をリストアップまでしてしまったのです。具体的には、1995年に173の団体をリストアップしました。この中には統一教会が入っていますし、ほかにもサイエントロジー、イエスの御霊教会、エホバの証人、幸福の科学、霊友会、神慈秀明会、創価学会インターナショナルなど、日本で馴染みのある宗教が入っています。これらはフランスから見れば全てカルトなのです。つまり、フランス的価値観に合わないものを「カルト」と認定しています。このことには創価学会が強く反発し、裁判まで起こして熱心に闘いました。結果は負けてしまいましたが。その努力の成果かどうかは分かりませんが、2005年にフランス政府は「セクト」のリストアップを辞めました。フランス側は、「カルトが多すぎて、リストアップする意味がなくなった」と主張していましたが、理由はともあれ、国家が「カルトとは何であるか」を定義し、そして、「カルトとはこのような団体である」とリストアップしてしまうと、大論争が巻き起こるのです。このフランスの「セクト対策」の最大の被害者はエホバの証人です。彼らは税制の面で差別を受け、その不当性を裁判で訴えましたが、結局国内では解決しなかったため、ヨーロッパ人権裁判所に訴えて、フランス政府の不当な課税を違法とする判決を勝ち取りました。このフランスのケースは、国が「宗教」と「カルト」を選別することがとても難しいことであると分かる、一つのモデルケースになりました。
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連載シリーズ
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