中国の「挑戦」と日本の対応04


自由主義陣営の結束のために

 中国共産党は昨年、40年ぶりに「歴史決議」を採択した。これは「共同富裕」や「台湾奪回」などの大きな使命を全うするためには、強力な統制社会を構築しなければならず、そのためには習近平の権力基盤を毛沢東や鄧小平に並ぶ盤石なものにする必要があるからである。中国は建国100年に当たる2049年までに「社会主義現代化強国」建設を完了し、アメリカを凌駕する国力を持つ覇権国家になろうとしている。その「挑戦」に向けて大きく舵を切ったのが、2021年であったと言えるだろう。

 それではこの「挑戦」に対して日本はどのように対処すべきであろうか。実は「台湾奪還」に対する日本の対応は、令和3年度の『防衛白書』にすでに現れている。これまでの防衛白書と昨年の防衛白書の決定的な違いは、台湾に関する記述である。これまでは中国に対する配慮からか、台湾に関する記述はなかったが、昨年から「台湾をめぐる情勢の安定は、我が国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要」という新たな文言が入った。

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 防衛白書全体を概観すると、基本的な章立ては変わらないが、米国や中国に関するページ数が増えている。第一章が「概観」で、第二章が「諸外国の防衛政策など」であるが、その中の第1節が「米国」を扱っており11ページ、第2節が「中国」を扱っており31ページ、第3節が「米国と中国との関係」を扱っており8ページと、中国問題に多くの紙幅が割かれている。そして中国に関連して、2月に施行された海警法の問題点を繰り返し記述しており、海警船の活動が「そもそも国際法違反」であると指摘している。これに対して中国は反発しており、中国の海洋進出をめぐる対立が先鋭化していることが分かる。

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 防衛白書では、「日本周辺での中国の活動」として、「日本海への進出」「活発な太平洋への進出」「南シナ海をめぐる問題」「台湾をめぐる問題」「沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海における現状変更の試み」などが記載されている。また、「中国による軍事力の広範かつ急速な変化」という項目では、2001年と2021年の中国の軍事力の比較がなされている。それによれば、最新鋭の戦闘機である第4・5世代戦闘機の数がこの20年間で90機から1146機に増加しており、約12.7倍になっていることが分かる。また近代的駆逐艦・フリゲートの数も15隻から71隻に増加しており、4.7倍化している。このように中国の軍事力はこの20年間で飛躍的に伸びているのである。

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 中国と台湾の現在の軍事力を比較してみれば、上記の表に見られるように、既にどうにもならないほどの圧倒的な差がついており、単純に比較すれば勝負にならないことが分かる。これは中国軍が信奉する「孫氏の兵法」の考え方そのものである。「孫子の兵法」の神髄は「戦わずして勝つ」というものだ。「是故百戰百勝、非善之善者也。不戰而屈人之兵、善之善者也」(百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦かわずして人の兵を屈つするは善の善なるものなり。)という言葉がある。これは武器を持たなくてもよいということではなく、屈服させようとする相手の5倍以上の力を持てば、戦わなくても脅せば屈服させられるという意味である。これを中国軍は実践することにより、台湾を屈服させようとしているのだ。

 もし中国が台湾に軍事侵攻した場合には、米国が台湾を守ると言われている。その根拠が1979年の「台湾関係法」である。しかし、この「台湾関係法」では米国は「対抗」するという表現になっていて、「防衛」するにはなっていないのである。この問題は少々複雑なので、「台湾関係法」の歴史的経緯について説明したい。

 もともと台湾とアメリカの間には「米華相互防衛条約」(1955~1980年)があり、米軍が台湾に駐留していた。しかし、1971年に台湾が国連から追放され、中華人民共和国が代表権を獲得したときから状況が変化し始めた。1972年2月にニクソン大統領が訪中し、1979年1月に米中国交が樹立することにより、アメリカが中華人民共和国を正式に国家として認定して外交関係を結ぶこととなったので、米華相互防衛条約は無効化した。その結果、同条約は1980年に失効し、台湾に駐留していた米軍が撤退することとなったのである。

 しかし、「東アジアで急激な軍事バランスの変化が起きる」という米国保守派の強い声や、在米台湾人の強い働きかけで、1979年4月に「台湾関係法」が制定されたのである。これにより米国は軍は駐留させないけれども、武器の売却や在日米軍によって中国を牽制する姿勢を貫いたのである。

 米国の「台湾関係法」には、台湾が安全保障上の危機に直面したときに米国は「十分な自衛能力の維持を可能ならしめるに必要な数量の防御的な器材および役務を台湾に供与する」(三条A項)と書かれており、さらに「この種のいかなる危険にも対抗するため、とるべき適切な行動決定しなけれぱならない。」(三条C項)と書かれている。

 すなわち、台湾関係法には中華人民共和国が台湾に侵攻したときに、「米国が台湾を防衛する」とは一言も記されていないのである。英語では“Defend”ではなく“in Response to”と表現されている。これが「対抗する」と訳されているわけだが、「対抗」もやや強い訳で、「反応する」とか「対応する」という程度の意味である。

 最近バイデン大統領が、もし中国が台湾に対して軍事的な侵攻をしたり圧力をかけたりしたら「防衛する」と二度ほど発言した。しかしそのたびに国務省が訂正している。それは台湾関係法に「防衛する」とは書いていないからである。これは「曖昧戦略」と呼ばれ、台湾有事の際に本当にアメリカは関与するのか、在日米軍が動くのかは、何も決まっていないのである。そうした中で、いよいよ中国の台湾侵攻が現実味を帯びてきた。そろそろ米国は態度を明確にする必要がある。

 実は、台湾有事は日本と無関係ではない。それが起こった時にまず対応するのは在日米軍なので、必然的に日本も巻き込まれるのである。この問題は「集団的自衛権」の問題と密接に関わっており、解釈次第では日本はアメリカと共に台湾防衛のために動くことになるのである。

 2021年7月5日、麻生太郎副総理(当時)は都内で講演し、中国が台湾に侵攻した場合の対応について、安全保障関連法で集団的自衛権を行使できる要件の「存立危機事態」にあたる可能性があるという認識を示し、「日米で一緒に台湾を防衛しなければならない」と述べた。これに対して中国外務省は日本政府に抗議をした。日本もこの問題に対して「曖昧」にせず、態度をはっきりさせる必要が出てきたのである。

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