中国の「挑戦」と日本の対応05


自由主義陣営の結束のために

 2021年は中国にとって歴史的な年であった。それは中国共産党が創党して100年目を迎える節目の年であったからだ。昨年7月1日には、中国共産党創党100年を記念する行事が大々的に行われた。天安門で習近平国家主席が演説し、その最後に「中国共産党の歴史的使命は台湾の独立阻止と奪還である」と明言した。こうした中国の「挑戦」に対して、日米はどのように対処すべきであろうか。このブログでこれまで論じてきた内容は国際情勢に関する一般的な解説であったが、今回は私が事務総長を務めるUPFがこの問題と関連してどのような活動を行ったのかを紹介したい。

 先回のブログでは、もし中国が台湾に軍事侵攻した場合には、1979年の「台湾関係法」が根拠となって米国が台湾を守ると言われているが、台湾有事に対する米国の対応は曖昧であることが問題だと指摘した。UPFのプロジェクトの一つである世界平和議員連合(IAPP)は昨年7月21日、日米の現職の国会議員がオンラインでこの問題について討議を行う「IAPP日米議員懇談会」を開催した。

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 その際に共和党のスティーブ・シャボット下院議員が語ったことが非常に勉強になったので、その要点をここで紹介したい。

=スティーブ・シャボット下院議員の引用開始=

 インド太平洋地域における危機に対処し、この地域に平和と安定をもたらす上で、日米同盟は最も重要なパートナーシップだ。最も重大な脅威は中国共産党であり、彼らはこの地域の覇権を握ろうとしている。

 中国共産党の南シナ海と東シナ海に対する野心も問題だが、最も深刻なのは習近平の台湾に対する野心だ。過去2年間で中国は台湾に対してどんどん攻撃的になっている。戦闘機の発進を含むあらゆる軍事演習を行っており、それは侵攻の予行演習と言えるものだ。

 私は「戦略的曖昧さ」は間違った戦略だと思う。中華人民共和国は、もし彼らが台湾に対する軍事行動を起こしたなら、米国とその同盟国は台湾のために介入するということを知らなければならない。これを明確に示すことが何より重要だ。

 私は米国議会の「台湾コーカス」(「コーカス」とは超党派議員連盟のこと)の共同議長になっており、それはいまや米国議会の中でも最も大きな議連の一つになっている。私は過去25年の中で、いまほど台湾問題が深刻に懸念されているときはないと思う。特に、中国によって軍事的に取られるのではないかという懸念が広がっている。

 私は「戦略的曖昧さ」が最大の問題だと思う。それは台湾有事の際に我々が介入するかどうか、我々の本音が分からないようにするという意味だ。米国と台湾、中国との関係を規定しているドキュメントには以下のようなものがある。
①「台湾関係法」(1979年):米国と台湾の事実上の軍事同盟
②「六つの保証」(1982年):台湾と米国議会の双方に、たとえ正式な国交断絶をしたとしても、米国は台湾を支え続けることを再確認した。
③「三つの共同コミュニケ」(1979-1982年):米国と中華人民共和国との間の三つの声明。双方はお互いの国家主権と領土の保全を尊重することで合意している。台湾の将来に関する米国の曖昧な立場を示すものとされている。

 これらを一緒に提示することによって相手を混乱させようとしているのである。習近平は、比較的短期間で台湾を占領できると考えているのではないか。QUADの国々は「もし中国が侵攻したら、我々は台湾と共にある」ということを明確に示してほしい。そうすれば、習近平はそれが可能だという計算をしなくなるだろう。
=スティーブ・シャボット下院議員の引用終了=

 一方でUPFは台湾にも基盤を持っており、日本のUPFとの交流も盛んである。日本と台湾のUPFは昨年4月23日、呂秀蓮・元台湾副総統を基調講演者に招いて、国際指導者会(ILC)のセッションをオンラインで開催した。テーマは「北東アジアの平和と安全を守る自由主義陣営の結束」である。そのときの呂秀蓮氏の基調講演が日台関係だけでなく、韓国との連携にも触れた内容であったので、その要点をここで紹介したい。

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=呂秀蓮・元台湾副総統の引用開始=

 北東アジアには現在、3つの専制国家が集中していますが、一方のソフト文明を担う台湾、日本、韓国側が十分に団結しているとは言えません。その理由は歴史問題にあります。

 日本は台湾を50年間支配しました。韓国に対してもそうです。1894年に韓国では内乱が起き、清朝に援助を求めました。その機会を日本も狙い、二つの国が戦争になったのです。この時、日本が勝利し、当時の台湾の多くの人々はわからないうちに日本の植民地になりました。同じく韓国も36年間、日本の支配下にありました。

 3年前に韓国を訪問した際、国会議員会館でスピーチをする機会がありました。その場に参加していたある学者が、スピーチの後、私に質問してきました。「日本は台湾を50年間支配した。韓国も36年だ。現在でも日韓には多くの憎しみ、葛藤がある。しかし、台湾と日本は親密な関係にあるように見える。なぜか」と。

 日台韓には歴史上、確かにいろいろな感情や葛藤が沸き起こり、今もそれは残っていますが、それだけにこだわって歴史を振り返ってばかりではいけません。決して忘れはしないけれど、一方で前向きにもっと今後の世界を見る必要があります。

 その後、台湾に帰って考えたことは、新しい時代に向けて、新世代が歴史を背負う必要はない、ということです。日台韓はともに儒教の思想を共有し、それぞれの言葉、文化を持っています。現代化が進んでおり、科学技術の発展もめざましいのです。

 一方で私たちの隣にはグレートチャイナ、北朝鮮、ロシアの脅威があります。だから、日台韓を悪い関係のままにしていてはなりません。その意味で、日韓が過去の歴史に捉われている今の状況は残念です。

 台湾は土地も狭く人口も少ない。国際関係は孤児ともいえる立場で、グレートチャイナの脅威にさらされています。つまり、台湾の私たちには選択の余地がなかったのです。日本による統治、国民党による統治を経ながら、憎しみの感情を克服し、絶えず努力し、困難を乗り越えてきました。

 中国の脅威に直面する中で、私たちができることはソフトパワーを強固にすることです。人権、民主、平和、愛、そしてハイテク。この5つの力がソフトパワーです。台湾は人口も少なく土地もない中で、こうした力を強化しながら今日の地位を築いてきました。

 私はこの機会を借りて、皆様に提案したいと思います。台湾が展開してきた生存と発展のための事例に、日本と韓国の素晴らしい実績を合わせて、共にソフトパワーを強化しましょう。結びつきを強め、協力し、東アジアにおける「ゴールデン・トライアングル」を構築しましょう。

 米国は圧倒的な一位の地位を70年間維持してきましたが、中国の猛追を受け、いまや二位になることを恐れています。鷲(米国)が龍(中国)に脅威を感じているのです。
二匹の象が喧嘩すると、台湾、韓国、日本のような草原に生きる小動物は被害を受けます。 だからこそ、日本、台湾、韓国は、今までの歴史をさておいて、ソフト文明を一緒に作る必要があると思います。三者が協力し、米国の力を借りながら民主同盟を作ることが重要です。

 私は米国の「台湾関係法」のようなものを、日本が検討してくれることを願っています。日台の連携強化によって、北東アジアの平和とソフトパワーが実現できると思います。

=呂秀蓮・元台湾副総統の引用終了=

 呂秀蓮氏の挙げる台湾のソフトパワーにはハイテクも含まれている。昨年10月14日、半導体受託生産の世界最大手である台湾のTSMCという企業の製造工場を日本に建設することが発表された。熊本のソニーグループの敷地に建設するということだ。これは経済安全保障の観点から日台の結びつきを強くするための試みであると言える。

 UPFは、自由主義陣営の結束のために日本、米国、台湾、韓国の連携を強化するための活動をしていることがご理解いただけたと思う。

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