中国の「挑戦」と日本の対応03


自由主義陣営の結束のために

 中国共産党の目指す「共同富裕」は、危険な挑戦となる可能性を示唆している。その狙いは、党本来の目標に指導部が回帰していることを示すとともに、共産党支配の存続に対する国民の支持を固めることにあると思われるが、具体的に行われているのは資産家や大企業や芸能人に対する規制強化や締め付けである。

 中国はますます息苦しい国になりつつある。これからは「共同富裕」の目標達成のためにさらなる統制強化が行われるであろう。国内における統制強化は資産家や大企業や芸能人に留まらない。もう一つの規制強化の対象が宗教団体である。昨年5月1日に「宗教教職人員(聖職者)管理弁法」という法律が施行された。また9月からは「宗教院校管理弁法」が施行された。「院校」とは施設のことである。中国共産党は今年5月以降、宗教団体を共産党による独裁強化の道具として用い始めた。新たな法律やガイドラインによって、聖職者や宗教施設を事実上の共産党宣伝要員や宣伝機関に作り替えようとしているのである。これは例えばキリスト教であれば、礼拝の前に習近平思想と共産党を賛美しなければならないというものである。中国内の宗教は、その宗教の本来的な価値観よりも、共産党の指導する社会主義の核心的価値を実践することを強く要求されているのだ。

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 新疆ウイグル自治区では、イスラム教指導者が標的になっている。多くのイマームが「過激思想を広めた」「社会秩序を乱す目的で人を集めた」「分離運動を扇動した」といった容疑で拘束された。香港では、中国本土の「国家安全保護法」を適用することにより、民主派潰しが完遂した。いまや香港の民主化運動のリーダーはほとんどが海外に移住している状態である。

 これらは中国の国内向け政策であるわけだが、それに対して厳しい反応をしたのがヨーロッパである。いまヨーロッパでは、中国離れと台湾重視の傾向が広がっている。EU諸国は人権を重要視するため、やはり中国の人権問題を看過できないのである。一方で台湾はヨーロッパ諸国の歓迎を受けている。昨年起きた出来事だけでも、以下のようなリストになる。
・5月6日、フランス上院が、台湾の国際機関への参加を支持する決議案を可決。
・7月20日、リトアニアに台湾の代表機関「台湾代表処」を開設することが発表される。「台北」ではなく「台湾」の名前を冠した事実上の大使館開設に中国政府は猛反発した。
・9月16日、EU・ヨーロッパ連合が、「インド太平洋戦略」を発表し、台湾との貿易・投資面の関係強化を明記。
・10月6日、フランス議員団訪台。
・10月21日、ヨーロッパ議会で、台湾との政治的な関係強化をEUに勧告する文書が採択された。台湾との政治的関係を強化。
・10月21日、台湾から経済使節団がスロバキア、チェコ、リトアニアを訪問。
・10月26日、台湾の呉外交部長がスロバキア、チェコ、ベルギーを訪問。
・11月4日、ヨーロッパ議会の議員団が台湾を訪問

 一方で、ヨーロッパと中国の関係は冷え込んでいる。EUが去年12月に中国と合意した投資協定がいまだに批准されず、凍結されたままになっているのである。その原因は以下の三つであるとされている。
①中国の少数民族ウイグル族の人権問題と香港の民主派弾圧。人権と自由、民主主義を重視するEUにとってこれらは看過できない問題なのである。
②一帯一路構想を推し進める中国への警戒感が強まっている。中国企業がヨーロッパの企業を買収する一方で、中国の市場は閉鎖的である。中国企業は政府から補助金を受け公正な競争が妨げられている。中国の市場開放が進まないことへの不満が高まっている。
③新型コロナの影響
新型コロナが世界に拡大した際に中国が行ったあからさまな「マスク外交」によって、対中感情が悪化した。サプライチェーンにおける中国への過度の依存からの脱却が必要であると認識されるようなった。

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 このようにヨーロッパとの関係が難しくなった中国が活路を見出そうとしているのが、アジア太平洋地域である。その標的となったのが環太平洋パートナーシップ協定(TPP)だ。TPPには現在、日本、カナダ、シンガポール、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナム、ブルネイ、チリ、マレーシア、ペルーの11か国が参加している。アメリカが2017年に離脱したことは痛手だったが、日本を中心に有力な経済連携協定となりつつある。そこに昨年、中国が加入申請したのである。TPPは参加国に透明性や公平性を確保するためのルールを課すので、中国の参加は難しいだろうと考えられていたのだが、そこに中国が手を挙げたのである。するとすかさず台湾もTPP加入に手を挙げた。それは先に中国の加入が決まってしまったら、中国の反対により台湾は加入できなくなってしまうからである。今後、TPP加入をめぐって中国と台湾のバトルが展開され、その中で日本も判断を迫られることになるであろう。

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 こうした中で中国共産党は昨年、40年ぶりに「歴史決議」を採択した。これは毛沢東(1945年)、鄧小平(1981年)の時代に続く、第3の「歴史決議」である。この「歴史決議」が採択された「6中全会」は、正式名称を「第19期中央委員会第6回全体会議」という中国共産党の重要会議である。2021年11月8~11日に開催された。

 なぜこの時期に「歴史決議」が採択されたかといえば、中国が重要な転換期に入っているためである。「共同富裕」や「台湾奪回」などの大きな使命を全うするためには、強力な統制社会を構築する必要がある。そのためには、習近平の権力基盤を毛沢東や鄧小平に並ぶ盤石なものにしなければならない。だからこそ、過去の総括と新しい出発のための「歴史決議」を採択する必要があったのである。

 このたびの歴史決議では、毛沢東の大躍進政策や文化大革命が失敗であったことを認めている。そして鄧小平の時代に起こった天安門事件は「動乱」であったとしている。決議の全文は3万6千字余りで、そのうち半数以上の2万字近くが習近平国家主席のもとでの党の歴史に割かれている。習主席が党のトップに就任した2012年以降を「新時代」と表現し、業績などを詳細に記述しているのが特徴である。このように過去を総括し、習近平国家主席による「新時代」に入ったことを示すために、歴史決議を採択したのである。

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