中国の「挑戦」と日本の対応01


自由主義陣営の結束のために

 2022年が明けたので、今後の世界の行方を占う意味で、国際情勢について分析する短期シリーズをアップすることにした。タイトルは「中国の『挑戦』と日本の対応:自由主義陣営の結束のために」である。これは私が地方を回って「平和大使セミナー」等で講演した内容のまとめである。

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 いま中国の状況が大きく変化している。中国は一つの「挑戦」をしようとしている。その「挑戦」の中身を理解しないと、日本はこれに対処できない。2021年は中国にとって一つの歴史的な年だった。それは中国共産党が創党して100年目を迎える節目の年であったからだ。昨年7月1日には、中国共産党創党100年を記念する行事が大々的に行われた。天安門で習近平国家主席が演説し、その最後に「中国共産党の歴史的使命は台湾の独立阻止と奪還である」と明言した。もし中国が本気で台湾を奪還するというなら、それはいつなのだろうか? これから先の数年を予想してみたい。

 まず、2022年は中国にとってどんな年なのだろうか? 今年、中国は二つの重要な行事を控えている。一つ目が2月4日から20日にかけて行われる第24回冬季オリンピック、すなわち「北京2022」である。これは中国の威信をかけた一大行事であるが、アメリカをはじめとする自由主義諸国の多くが「外交ボイコットを宣言」した。「外交ボイコット」とは、選手団は派遣されるけれども政府首脳や要人は行かないという意味である。日本も閣僚クラスの派遣は見送ることとなった。

 もう一つの重要な行事は、秋に行われる中国共産党大会である。これは5年に一度の最も重要な大会であり、ここで習近平国家主席の続投が決まる予定である。かつては憲法上、国家主席は2期10年で終わりだったが、2018年の全人代でそれを撤廃する憲法改正案を採択し、習近平国家主席は2期目が終わる2023年以降も続投できるようになった。このことから、習近平は生涯権力の座にいることのできる「皇帝」になったと言われた。これは既定路線かもしれないが、その決定を正式に行う共産党大会はやはり重要である。このように、中国は今年中に冬季五輪と共産党大会という重要な行事を控えているため、対外的な緊張状態は抑制され、破壊的な状況は作り出さないと予想される。つまり今年中の台湾奪還はないということだ。

 それでは2023年以降の中国はどうだろうか? 実は2023年こそが、中国が台湾奪還に向けて動き出す年ではないかと言われており、台湾有事が最も想定される時期は、2023年~2027年の間であると分析されている。その一つの根拠が、2013年に発表された中国人民解放軍の「六つの戦争」計画である。それによると、中国は2020年から2025年にかけて台湾を取り返すとされている。もう一つの根拠が、2021年3月9日にフィリップ・デービッドソン前米インド太平洋司令官が米国上院軍事委員会の公聴会でなした証言である。彼は、今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると言った。その6年目が2027年である。

 実は2027年は、中国人民解放軍建軍100年に当たる年だ。中国人民解放軍の「解放」とは、共産化されていない地域を共産化することを意味し、まだ「解放」されていない中国の一部が「台湾」ということになる。したがって、「解放」の対象は台湾なのである。このことから、中国人民解放軍建軍100年に当たる2027年までには台湾を奪還しなければならないという論理が出てくるのである。

 中国は2027年以降の未来像も描いている。まず2035年までに「社会主義現代化」を基本的に実現するとしている。この「社会主義現代化」は、いまの中国を理解する上で重要なキーワードである。その内容は、経済力や科学技術力が向上し、国家の統治システムが現代化し、社会の文明度が高まり、人民の生活がより豊かになって格差がなくなり、生態環境が根本的に改善した状態を指すという。これが実現すれば大変結構なことだが、さらに中華人民共和国建国100年に当たる2049年までには「社会主義現代化強国」の建設を目指すとしている。これは中国がアメリカを凌駕する国力を持っている状態を指し、世界の覇権国家となっているという未来像を描いているのである。

 こうした中国の未来を実現するために、いまの中国が強力に推し進めていることを理解するためのキーワードが、「共同富裕」である。すなわち、「社会主義現代化」に至るためのキーワードが「共同富裕」なのだ。習近平国家主席は昨年8月、「共同富裕」というスローガンを大々的に打ち出して注目を集めた。その意味をひとことで言うと、格差是正のことであり、「平等な豊かさ」を追求するということである。

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 しかし、「共同富裕」は習近平の造語ではなく、毛沢東の時代から使われてきた言葉である。社会主義の理想を表すキーワードは「平等」であり、貧富の格差のない社会を作ることが究極の目的である。もともと「共同富裕」はそれを実現するために1953年に毛沢東が提唱した概念であった。しかし、毛沢東の時代の中国は貧しすぎて、そのまま平等になれば「貧しい平等」が実現されて国家が亡びてしまう。そこで鄧小平の時代から、社会主義市場経済を導入して、まずは生産力を高めようとした。鄧小平は、当時の中華人民共和国は「社会主義初期段階」であるとして、この段階ではまず生産力をあげることが優先されるべきであると説いたのである。

 鄧小平が語った有名な言葉に、「白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である」がある。これは思想よりも経済を優先するということだ。鄧小平のもう一つのキーワードが「先富論」である。これは可能な者から先に裕福になれ、そして落伍した者を助けよ、という意味である。これにより、中国経済は発展を始めた。

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 鄧小平が導入した改革開放路線が成功し、成長を続けた中国のGDPが日本のGDPを追い越したのは2010年のことである。その後日本は停滞を続けているので、あっと言う間に中国との差が広がってしまった。いまや中国のGDPは日本の2.8倍となり、アメリカの7割に迫っている。こうした経済発展により中国は自信をつけ、十分な豊かさを手に入れたと自負している。この段階に至って、いよいよ本格的な平等社会実現に踏み切ったとみてよい。すなわち、習近平から始まる「新時代」には、豊かで平等な社会を実現することを目指すというわけだ。それは社会主義の究極の目標が「共同富裕」だからである。それが昨年7月1日の中国共産党創党100年をもって始まったとみてよいほど、この「共同富裕」に力を入れるようになった。

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