書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』157


 櫻井義秀氏と中西尋子氏の共著である『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)の書評の第157回目である。

「第Ⅲ部 韓国に渡った女性信者 第八章 韓国社会と統一教会」の続き

 中西氏は、第8章の「三 韓国農村の結婚難と統一教会」と題する節のなかに「7 統計資料に見る在韓日本人女性の数」という項をもうけ、公的な資料に基づいて韓国で暮らしている日本人女性信者の実数に迫ろうと試みている。これは韓日祝福で結婚し、韓国に暮らす日本人女性信者の数が7000名であると言われているのが「誇張された数字ではないことを確認するため」(p.439)だという。こうした数字を誇張することの意味は不明なのだが、7000名もの日本人女性信者が祝福結婚によって韓国に移住しているのはある意味で驚くべきことなので、事実を確認したいというのであれば理解できる。彼女の手法は学問的に手堅いものであり、参照している統計資料も信頼に値するものだ。

 中西氏が参照した統計資料は、韓国の国勢調査の結果と、日本の外務省による『海外在留邦人数調査統計』である。韓国の統計庁が5年ごとに行っている国勢調査によると、在留外国人の数としては中国人、朝鮮族の中国人に次いで日本人は三番目に多いのであるが、日本人の特徴は男女比に表れており、2000年のデータで男性5715人に対して女性7683人となっていて、女性の方が2000名近くも多いということだ。日本以外の国では中国が男女ほぼ同じであるのを除けば、他のすべての国において男性の数が女性の数を上回っている。これらの国々で男性の数が多いのは、単身で企業の駐在員や労働者として韓国に暮らしている男性が多いためと推察されるが、日本だけが女性が男性の約1.3倍いるのである。

 これを地域別に分析するとさらに顕著な傾向が出てくる。ソウル、釜山、済州島では男性が多く、これは日本企業の駐在員などが男性であるためと思われるが、他の地域(すなわち韓国の田舎)では女性が男性を上回っているのである。特に全羅南道と全羅北道では女性の数が男性の約20倍になっている。このことから、在韓日本人は男性が都市部に集中して住んでいるのに対して、女性が地方に集中していることが分かるという。その地方に住む日本人女性の大半が、韓国人と結婚した統一教会の女性信徒ではないかという分析である。

 中西氏は在韓日本人女性の年齢分布も同時に分析している。2000年のデータによれば、20~24歳までは大きな差はないが、25~29歳、30~34歳、35~39歳では女性の数が男性の2倍から3倍になっているという。この年齢層の女性は、統一教会の祝福を受けて韓国にお嫁に来た日本人女性の年齢と一致するというわけである。中西氏が『宗教と社会』第10号(2004年)に寄稿した「『地上天国』建設のための結婚ーある新宗教教団における集団結婚式参加者への聞き取り調査からー」という論文では、「聞き取りをした日本人女性たちの生年は、1956年から1978年である」(p.55)と明かされているが、この生年であれば2000年には22歳から44歳となり、実際の統一教会の日本人女性信者の年齢とほぼ一致すると言ってよいだろう。これらのデータに基いて、中西氏は合同結婚式で韓国人男性と結婚し、渡韓した日本人女性信者が7000人いることはほぼ裏付けられると結論している。

 日本の外務省による海外在留邦人数調査統計によると、永住者と長期滞在者を合わせた在留邦人の数は2007年の時点で23267名であり、そのうち14901名が女性である。男性の数は8366名であるから、女性は男性の1.7倍いることになる。実は1988年の時点では男性2507名に対して女性1999名で、男性の方が多かったのだが、1992年に男女の数は逆転し、それ以降は女性の数の方が多い状態が継続している。1992年は3万双の祝福のあった年だが、祝福を受けてから渡韓するまでには実際には時間差がある場合が多いので、6500双(1988年)の祝福を受けた日本人女性が1989年から1992年にかけて渡韓していったことがこの期間の数の増加に影響していると考えられる。

 韓国に長期滞在する日本人を職業別に分類したデータも存在し、「民間企業関係者」「報道関係者」「自由業関係者」「留学生・研究者・教師」「政府関係者」「その他」に分類される。この「その他」に分類される女性の数が1988年の280名から2007年の6388名に激増しているわけだが、この数は他のどのカテゴリーよりも多い。女性に限って言えば、それに続くのは1655名の留学生、民間企業関係者の113名であり、あとは100名以下である。韓国人男性の妻として在留する日本人女性は「外国人妻」に分類されるが、これが「その他」のカテゴリーに含まれることから、「その他」の大部分が統一教会の女性信者によって構成されるのではないかという分析である。そもそも民間企業関係者として韓国に在留している日本人の数は男性で2750名、女性で113名(2007年)であり、留学生を男女合わせても3000名ほどであるのに、それをはるかに上回る「その他」の女性が6000名以上いるということは、何か特別な理由がない限りは説明がつかないというわけだ。

 この「長期滞在者」のほかに日本国籍を所有する「永住者」に分類される日本人女性が2007年の時点で2717名おり、その中にも韓国人と結婚した統一教会の日本人女性信者が多数いることが推察される。韓国で永住することを選ぶ理由は、やはり婚姻にあると考えるのが普通であろう。永住者の数は、男性186名に対して女性が2717名だから、ここでも女性の方が圧倒的に多い。前述の6388名にこの数を加えれば、7000名という数字はほぼ裏づけられることになる。

 以上の中西氏の分析は韓国の統計庁と日本の外務省が発表している公的なデータに基づいているため、かなり正確なものであると言えるだろう。数の問題とは直接がないが、こうしたデータから、韓国人と結婚した統一教会の日本人女性信者は日本の外務省によって把握されると同時に、韓国の国勢調査でもカウントされていることが分かる。すなわち、彼女たちはきちんと両国政府に認識されたうえで韓国にわたって結婚生活をしているということだ。

 かつてこのブログで、キリスト教のインターネットメディアである「クリスチャントゥデイ」が、2006年1月23日号に「『合同結婚式、6500人の行方を捜して』被害者家族が訴え」というタイトルの記事を掲載し、韓国で統一教会の合同結婚式に参加した後、行方不明になった日本人女性が6500名もいると報ずることにより、祝福を受けた日本人信者の両親の不安を煽っていることを紹介した。私はそこで、「もしこれが本当なら、日本政府が動くべき重大な国際問題であるはずだが、そのような動きはまったくない。実際には、大半の日本人女性は平穏に暮らしており、両親とも連絡を取っているのである。したがって記事の内容は完全なデマゴーグなのだが、こうした記事に不安を煽られて日本の両親は拉致監禁に追い込まれていったのである」と批判したわけだが、中西氏の研究によってこれらの日本人女性は決して行方不明ではなく、日韓両国の政府によって認識されていることが皮肉にも証明されたことになる。「クリスチャントゥデイ」の根拠なきデマゴーグに比べれば、中西氏の調査と分析は良心的であると言えよう。

 統一教会の日本人女性信者は合法的に韓国人と結婚し、きちんとした手続きを経て渡韓し、韓国社会に定着して生活している。また日韓両国の統一教会も、入籍、渡韓に際してはきちんとした法的手続きを行い、さらに渡韓後の生活においても法規を遵守するよう指導している。例えば、国際家庭特別巡回師室編『本郷人の道』には、渡韓した日本人に対して、韓国での生活全般について知っておくべき内容や文化の違い、韓国と日本の統一教会の信仰観の違いなどが詳しく解説されているが、その中には「韓国で勝手な行動をして行方不明になったら、警察から日本大使館に連絡が行き、国際問題になる」「ビザの延長手続きを絶対に忘れないように」「外国人登録を必ずするように」「日本に一時帰国するときは、出入国管理事務所で再入国許可をもらうのを忘れないように」「パスポートの期限切れに注意」などといった基本的で細かい指導がなされている。こうした指導の結果として、統一教会の日本人女性信者はしっかりと日本政府に認識された状態で、韓国における結婚生活を送っているのである。

 蛇足ながら、統一教会の祝福によって韓国人と結婚した日本人は女性だけでなく、男性もいること、そして渡韓して韓国で生活する日本人男性もいることは付け加えておきたい。その中には私の直接の知人も何名か含まれている。しかし、統計資料によって裏付けられるのは、やはり女性の方が圧倒的に多いということである。

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