憲法改正について08


 憲法改正が必要な7番目の理由は、日本国憲法には家族の尊重・保護の規定がないということです。

7.日本国憲法には家族の尊重・保護の規定がない

①憲法第24条は個人主義に立脚し、家族の解体を含意している

 これは特に憲法第24条に関して言えることです。現在の憲法第24条は徹底的な個人主義に立脚しており、家族の解体を含意しているのではないかということです。

 有名な日本国憲法第24条は以下のようになっています。
「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」

 家族に関する法律はすべて個人の尊厳に基づいて制定されなければならないと言っているわけですから、この条文の目的は日本の家父長的な家族制度を否定することにあったと言えるのです。東京大学で憲法学の講座を担当していた樋口陽一教授は、「家族の問題について『個人の尊厳』をつきつめていくと、憲法第24条は、・・・家族解体の論理をも含意したものとして意味づけられるであろう」と述べています。(樋口陽一『国法学 人権原論』有斐閣、2004年)すなわち、憲法で「個人の尊厳」ばかりを徹底的に強調すれば、最終的には家族を解体させる方向にむかうのではないかということです。

②憲法第24条の原案起草者ベアテ・シロタの動機

 憲法第24条がそもそもどのようにして作られたのかというと、当時22歳だった日本滞在暦のあるベアテ・シロタという若い女性が民生局の中にいて、彼女がこの24条を起草したと言われております。

憲法改正について図⑬

 もともとGHQが作成した憲法第24条の原案には、ベアテ・シロタさんによって、家族と婚姻に関する詳細な条項が設けられていました。その中には憲法というより民法の方が相応しいと思われるような家族と婚姻に関する非常に細かい条項が入っていました。それらの大部分が最終的に削られて現在の24条になり、婚姻は両性の合意のみ、個人の尊厳、両性の本質的平等という部分だけが残ったのです。

 ベアテ・シロタさんがこの24条を起草した目的は、日本の家父長的な家族制度を変えるためでした。彼女は自分自身の経験から、日本人は家族生活において男性中心であること、結婚は親に強制されていること、養子縁組はもっぱら親の意思によって決められていること、長子のみに相続権があることなどを知り、憲法で詳細に書き込む必要がある、なぜならば、民法にまかせておいては、結局、男性の手によってつくられ、男性優位の法律になるだろうと考えたのです。こういう発想に基づく日本国憲法には「家族の尊重」という文言がなく、むしろそれを解体して個人主義に向かわせる方向性を持っていると言えます。

③国際的には家族は「社会の自然的、基礎的単位」である

 しかし、国際的には家族は「社会の自然的、基礎的単位」であるということは広く認められています。その根拠には以下のようなものがあります。
・世界人権宣言(1948年) 第16条3項:「家族は社会の自然的かつ基礎的な単位であって、社会および国の保護を受ける権利を有する」
・国際人権規約(自由権規約、1966年)第23条1項:同様の記述
・国際人権規約(社会権規約、1966年)第10条1項:家族に対してできる限り広範な保護および援助が与えられるべきであると規定

 以下の国々の憲法にも家族条項があります。
・イタリア憲法(1947年)第29条
・アイルランド憲法(1937年)第41条1項
・フィリピン憲法(1987年)第2条12節、第15条1節・2節

 そして1990年以降に制定された105カ国の憲法中、88カ国(83.2%)に家族保護条項が設定されているのです。

④自民党の憲法改正案(2012年4月27日)には家族条項があった

 実は自民党が野党時代に作った憲法改正案には家族条項がありました。その文面は以下のようになっています。
「憲法改正案24条
家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」

 これはいまの憲法第24条の冒頭に家族を尊重する旨の条文を入れたものです。この文言は国際的な人権規約の規定をほぼ踏襲していますので、その点は良いと思うのですが、家族を尊重するだけであり、家族が「社会および国の保護を受ける権利」が記載されておりません。ですからそれも書き加えた方がよいだろうと思います。

 さらに、野党時代に作った憲法改正案にはこの「家族条項」が入っていたにもかかわらず、現在自民党が推し進めている憲法改正案の優先事項の中には、この「家族条項」は入っていません。私たちの思想・考え方からすれば、これを優先事項に入れるべきだということになるでしょう。

 以上が、憲法改正が必要な七つのポイントということになります。

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