書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』150


 櫻井義秀氏と中西尋子氏の共著である『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)の書評の第150回目である。

「第Ⅲ部 韓国に渡った女性信者 第八章 韓国社会と統一教会」の続き

 中西氏は、韓国において統一教会が日本ほど否定的に捉えられていない理由を「3 団体・事業活動の側面」(p.415~)から分析している。韓国の統一教会は、単に宗教団体というよりも傘下に多くの団体、会社を持つ事業体(ある種の財閥)と捉えられている点において、日本の統一教会とはあり方が違うという主旨である。そこには、日本では統一教会は「反社会的団体」として社会から孤立しているのに対して、韓国では多くの企業体を通して一般社会とのつながりがあるという含意がある。

 韓国の統一教会が単に宗教団体というよりも傘下に多くの団体、会社を持つ事業体(ある種の財閥)と捉えられているというのは事実である。韓国では統一教会(家庭連合)は財団法人として存在しており、その傘下に多くの企業体が存在する。日本では統一教会(家庭連合)は宗教法人として独立しており、その他の事業体との間に指揮命令関係は存在しない。これは両国の法制度が異なることに起因する違いだが、宗教的理念に基いて創設されたさまざまな組織が「統一運動」を形成しているという見方をすれば、両国の間に本質的な違いはない。この点を、中西氏は貧弱な知識に基づいて誤った理解をしているか、あるいは意図的に韓国の運動を対社会的に開かれたものであり、日本の運動を反社会的なものであるというステレオタイプに当てはめようとしていると考えられる。彼女の具体的な記述に基いて、その誤りを分析することにする。

 まず中西氏は日本の事業体について、「野の花会」が募金活動、「ハッピーワールド」が霊感商法に関わっているという事例を出して、「統一教会であることを隠して布教・経済活動を行うフロント組織」(p.415)であると位置づけている。それに対して韓国の関連団体や会社は「直接に布教・経済活動はせず、個別に事業を展開している」というのである。と言っても、中西氏は韓国における統一教会関連の団体・事業体に関して独自の調査や取材を行っているわけではない。キム・ヨンム/キム・グチョルによる『チャートで見る 異端と似而非』に乗っている情報を整理して「表8-2 統一教会関連の企業体」(p.416)を作成しているだけである。

表8-2_150

 この本はそのタイトルからして、統一教会に対する批判的な勢力によって書かれたことは明らかである。「異端と似而非」という表現からは、「正統」を自認する既成キリスト教勢力によって書かれたと推察され、要するに「統一教会はこんなに幅広く商売をやっているので気をつけろ。これらの企業体と取引して統一教会を利することがあってはならない」と注意喚起することが目的なのであろう。したがって、表8-2で挙げられている企業体の中には、統一教会の信者が個人的に経営しているだけの会社が含まれている可能性がある。このほかにも中西氏は、龍平リゾート、麗水のリゾート施設や汝矣島の土地なども紹介し、「韓国では統一教会が一宗教団体というよりも事業体として受けとめられていることが理解されよう」(p.416-7)と述べている。このことから中西氏が演繹する結論は以下のようなものである。

 「様々な事業体は統一教会に金銭的な利益をもたらすだけでなく、間接的支持者を生み出す。これだけ種々雑多な事業を行っていれば、統一教会傘下の会社と知った上で取引をする企業、会社はあるはずであり、異端、似而非宗教の側面はさておいて取引優先となり、表立っての統一教会批判は出てきにくくなる。韓国において統一教会が日本のような反社会的宗教集団とされないのは、同時に事業体として韓国社会に根を張っていることで一面的な評価を免れているとも考えられる。」(p.417)

 韓国における統一教会系の企業が社会に根を下ろし、一定の評価を受けていることは事実である。しかし、日本における統一運動のあり方が、韓国とまったく異なっているという中西氏の主張は、彼女の無知に基づくものである。日本における統一教会系の事業体の実態を知れば、韓国との間に本質的な差はないことが分かるであろう。しかし、中西氏は日本におけるこうした事業体に対するきちんとした調査を行っていない。

 中西氏が名前を挙げている「ハッピーワールド」の事業内容は、そのウェブサイト(https://www.hwi.co.jp/)をチェックしただけで簡単に知ることができる。ハッピーワールドの事業内容は、①旅行事業、②貿易事業、③不動産事業、④石材事業、⑤国際事業の5つの柱からなり、それぞれが社会に開かれた事業を展開している。

 旅行事業は「世一観光」と呼ばれ、ブランド名は「ブルースカイ・ツアー」である。海外および国内の旅行を企画販売したり、航空券の予約販売、海外のホテルや交通機関の予約・手配、さらには海外から日本への旅行者のためのインバウンド事業などを行っている。東京、高崎、名古屋、大阪、広島、福岡、鹿児島と国内に7カ所の事業拠点を持ち、海外にも5つの拠点を持つかなり大きな規模の旅行会社と言える。

 世一観光は特に日韓線の航空チケットの販売に関しては日本屈指の実績を上げている会社であり、統一教会系の企業であることを知られているにもかかわらず、旅行業界では無視できない存在となっている。世一観光を通してチケットを買うのはもちろん統一教会員だけではなく、販売数自体は非教会員の方が多いくらいである。旅行業を営んでいれば、当然航空会社との取引があるわけであり、日本社会に根を張った一つの事業体として存在していることは明らかである。

 貿易事業では、高麗人参や活ロブスター・活アワビの輸入事業を行っている。高麗人参は健康食品として人気が高く、ロブスターやアワビは贈答品としての人気が高い。「日本活魚」も統一運動と関連のある企業だが、行っているのは水産物の販売であり、その購入者もほとんどが非信者の一般の人々である。統一教会との関連を思わせるのは、ウェブサイトに記されている「私たちは『為に生きる』精神を具現化する企業として発展します」という企業理念くらいである。

 不動産事業では、いくつかのビルを所有しており、それを賃貸物件として貸し出している。石材事業は「一信ジャパン」と呼ばれ、石工事の設計・施工、建築石材の加工・販売、および砂利、環境石材の輸入販売などを行っている。国際事業では、ハワイアンコーヒーの輸入販売を行っている。そしてハッピーワールドのウェブサイトでは、関連会社の一つに「うみのホテル中田屋」が紹介されていた。これは熱海にある温泉旅館であり、私も宿泊したことがある。非信者の一般の旅行者が宿泊できるのはもちろんである。

 中西氏が「霊感商法に関わっている」とだけ紹介したハッピーワールドは、韓国の統一教会関連の事業体と同様に、実に多種多様な事業を展開し、日本社会に根を張っていることが分かる。そこには取引先の企業や一般の顧客との関係が存在し、「反社会的団体」として社会から孤立している会社ではないのである。ハッピーワールド以外の事業体としては「セイロジャパン」があり、CAD/CAM/CAEシステムおよび工作機械の販売サポートなどを行っている。

 日本における事業体で歴史が古く規模の大きいものとしては、世界日報社を忘れてはならない。統一運動系の日刊紙としては世界で初めて(1975年)創刊されたのが日本の世界日報であり、愛国保守の立場でありながら国際報道に強いクオリティーペーパーとして、日本の知識人や保守層から高い評価と支持を受けるようになった。新聞社を持つことにより、統一運動は日本の言論界や政界とのパイプを持つだけでなく、取引先の企業、執筆者、一般の読者と幅広いつながりを持つことになる。

 東京都豊島区大塚にある総合病院「一心病院」も、1978年に創設された歴史ある事業体である。内科、小児科、消化器科、外科、整形外科、皮膚科、 婦人科、泌尿器科、形成外科、リハビリテーション科、 眼科などの診療科目を持ち、地域社会の医療拠点として定着している。一心病院の医師や看護師の中には教会員もいれば非教会員もいる。当然のことだが患者の大半は非信者の一般の方々である。

 こうした事業体のほかに、政治家、学者、宗教者、青年、学生、女性などを主な対象としたNGO・NPOが日本にも存在するが、中西氏があえて韓国の「企業体」に絞って紹介しているので、私も省略することにする。

 こうして日韓の統一運動関連の事業体を比較してみると、中西氏が主張するような、日本では統一教会は「反社会的団体」として社会から孤立しているのに対して、韓国では多くの企業体を通して一般社会とのつながりがある、というシンプルな差別化はできないことが分かる。日韓の事業体を、国内での社会的地位という点から比較した場合に、その規模において差があるということは言えるかもしれないが、統一運動全体が持つ基本的構造は、日本も韓国も同じなのである。すなわち、一つの宗教的理念を中心として、それを実現するために創設された事業体が多種多様に存在しており、それらは統一教会の信仰を持った人々が中心となって運営しているが、目的は宗教そのものではなく、一般社会に根を張った活動を展開しているということである。

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