ジェームズ・グレイス「統一運動における性と結婚」日本語訳59


第7章 分析と発見(2)

 あるグループがそれによって三つのタイプの献身を全て構築する原動力は、ある人をグループの外の選択肢から「引き離すこと」と、彼または彼女を共同体の関心事に「引き付ける」ことの両方を伴っている。「引き離し」と「引き付け」は以下のようなときに有効であると見られている。
「人は、彼の内面における満足がよりグループに依存するようになり、ほかの選択肢を選んだり追求したりする機会が減少するときに、ますます献身的になっていく。・・・一連の行動は、彼が意識的に捧げようとした以上に、その人の資源、評判、あるいは選択肢を巻き込むかもしれないが、その結果としてその行動指針は同時に、他のどこかに彼自身を捧げる機会を彼自身から切り離してしまう。」(注11)

 カンターの図式においては、このプロセスは彼女が「献身のメカニズム」と呼ぶ特定の組織構造を通して実現される。各々の種類の献身に対してこれらが二つあり、一つ目は分離を促進し、二つ目は愛着を強化する。以下は図式全体の概要である。6つの基本的なメカニズムには下線が引かれている。

I. [#傍線]道具的献身[#傍線終わり]
A. 犠牲
1. 禁欲
2. 質素な生活
B. [#傍線]投資[#傍線終わり]
1. 不可逆性
II. [#傍線]感情的献身[#傍線終わり]
A. [#傍線]拒絶[#傍線終わり]
1. 外の世界
2. カップル
3. 家族
B. [#傍線]親交[#傍線終わり]
1. 均一性
2. 共同体における共有
3. 共同作業
4. 規則化されたグループの接触
5. 儀式
6. 迫害と社会的予防注射
III. 道徳的献身
A. [#傍線]苦行[#傍線終わり]
1. 告白と相互批判
2. 制裁
3. 霊的差別化
4. 非個性化のメカニズム
B. [#傍線]超越[#傍線終わり] (“制度化された畏怖”)
1. イデオロギーによって
2. 権力とリーダーシップによって
3. 神秘
4. 助言
5. 思想的転向
6. 伝統(注12)

 カンターの主要な結論は、成功した19世紀のユートピアは、比較的短命に終わったグループよりも、これらの献身メカニズムをかなり多く用いていたということだ。(注13)われわれの調査においては、統一運動の性と結婚に対するアプローチは主として献身を促進する求心的な社会力を作り出すように機能すると論じてきたので、われわれの予備的な判断をカンターの図式の観点から「テスト」することは適切かつ必然的であると思われる。これは、これまでの章において示されたデータの中で機能していた様々な献身メカニズムの特定を伴うであろう。

 カンターの最初の形である道具的献身は、犠牲(引き離し)と投資(引き付け)を通して実行されており、それらはメンバーの犠牲が大きければ大きいほど、彼または彼女がグループのために費やされる時間、エネルギー、資源をより貴重視するようになるという点において、一緒に機能している。(注14)われわれはこのメカニズムが、三年間の独身期間、聖別・約婚期間、および結婚後の別居を正当化するものとして、統一運動の性と結婚に対するアプローチの中で繰り返し機能しているのを見てきた。犠牲はまた、とりわけ性的な意味における禁欲を通して実行されてきた。(注15)カンターは最も成功した19世紀の共同体は、少なくともその歴史の一部においては独身主義であったのであり、独身のメンバーは結婚したメンバーよりも一般的に高い霊的な地位を与えられていたと指摘している。一方、統一運動は修練期間中は独身を支持するものの、祝福を受けたカップルの方が独身の信者よりも霊的に高い存在であるとみなしている。しかしながら、頻繁で長期にわたる結婚後の別居のゆえに、多くの祝福を受けたメンバーがいまは事実上の独身状態にあることを理解するのは重要である。前世紀の類似したグループに関して言えば、この性的表現の犠牲は運動に対して「そうしなければほかの所に投資されていたであろう、一定量のエネルギー」(注16)を提供する。さらに、配偶者や子供達との生活を完全に犠牲にする意思のあるメンバーがいるということは、彼らにとって最も重要なのは組織のプログラムでありゴールであるという結論にならざるを得ない。祝福を受けたメンバーの極めて低い離反率は、統一運動における道具的献身を促進する手段として、犠牲と投資が有効であることを裏付けている。(注17)

(注11)前掲書、pp. 70-71。われわれがこれから見るように、他の選択肢を排除するような選択をすることは、統一運動の結婚ととりわけ関連が深い。
(注12)前掲書、pp. 76-123。
(注13)カンターの業績には三つの批判が可能であり、それがなければ極めて優れているであろう。(1)三つの内容からなる彼女の「献身」の分析は、あまりに抽象的であると論ずることができるであろう。(2)「成功した」ユートピアに対する彼女の量的な基準(例えば16年間)に対する疑問を呈することも可能だろう。(3)彼女が様々な共同体の献身メカニズムと権力構造の関係を示していないのは明らかである。最初の二つの懸念は、私が彼女の調査結果を用いる上では重要ではなかった。三番目の弱点は重要であり、私は統一運動における献身メカニズムを明らかにした後に、この問題に取り組むであろう。
(注14)「犠牲は認知的整合性理論から来るシンプルな原理を基盤として機能する。ある人が何かをするために払う犠牲が大きいほど、彼はそれに対して『価値』を感じるであろう。それは心理的な負担を正当化するためであり、内面の一貫性を保つためである。」(カンター『献身と共同体』、p.76)
(注15)統一教会の信者は禁酒、禁煙も守っている。
(注16)前掲書、p. 78。世界の救済者の役割の顕著な特徴である質素なライフスタイルの中にも、明らかに犠牲が表れていることに留意すべきである。
(注17)統一運動のメンバーが寄進した所有物や財産はグループのものであり、それらはメンバーが離れるときには返却されない。そのような投資は不可逆的であり、カンターの見解においては、道具的献身を促進する。

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