書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』95


 櫻井義秀氏と中西尋子氏の共著である『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)の書評の第95回目である。

「第Ⅱ部 入信・回心・脱会 第六章 統一教会信者の入信・回心・脱会」の続き

 前々回から、第六章「四‐二 清平の修練会」に関する櫻井氏の記述に関連する内容として、「霊感商法」と「天地正教」と「清平役事」の関係についての考察を開始した。今回は3回目である。先回までは、「霊感商法」および「天地正教」と「清平役事」との間にある相違点や非連続性について述べてきたが、今回からそれらの共通点について述べることにする。

 既に前回までに述べたように、霊感商法および天地正教と清平役事の間には直接の因果関係はなく、両者の間にはあきらかな非連続性と相違性がある。にもかかわらず、それらが扱う分野においてはいくつかの共通点が見出され、特にそれが日本における土着の宗教性の欲求に応える役割を果たしているという点において、特筆すべき内容がある。そこで、前回までに述べた相違点と非連続性を前提としながらも、両者の間にある共通点を以下に分析することにする。

(1)霊障からの解放
 既に述べたように、「霊感商法」の世界観の特徴は、先祖の霊やその他の邪霊によってもたらされる霊障が人生における様々な不幸を生み出しているのであり、その霊障を取り除くことによって救済が得られることに力点が置かれていた。実際の霊感商法のトークにおいては、「解放されていない先祖の霊が悪さをしているので、家系にこのような問題が起こるのである、だからその先祖を解放するためにこの壷を授からなければならない」というような話し方が典型的であった。

 同様に、清平役事も、祝福家庭に起こる様々な不幸の原因を、食口たちの体の中に巣食っている悪霊であるとし、それを分立することによって、食口たちを霊障から解放することに救済の中心をおいている。このことは、清平役事に関する解説書や証し集にはっきりと記載されている。
「清平役事は一言で、『悪霊分立の役事』だということができる。」(『成約時代の清平役事と祝福家庭の道』成和出版社、2000年、p.64)
「食口たちの体中には霊がたくさんいます。それらの霊は食口たちの先祖と関係のある霊たちであり、恨みが多いのです。それで暇さえあれば食口たちを悪い方向に連れて行こうとしているのです。そういう霊たちが食口たちの体中に蟻の卵のように、また砂のように積まれているのです。それで、フォーククレーンで掘り起こすかのように霊を分立してあげたいと切実に思うのです。その霊を掘り起こさなければ、食口たちが生きていくのに困難が伴うのは当然のことです。自分の本性とは違った生き方をしなければならないので、天国にも行けない姿になるのです。また、近くにいる食口たちが若くして病気で死亡したり、事故が起こることがありますが、これらの原因の大部分が恨みの多い悪霊の役事なのです。」(前掲書、p.26)
「真の御父母様のみ言葉によれば、大母様の偉大な点は、天使を連れてきて地上で霊を分立するという点である。」(前掲書、p.63)

 清平役事における悪霊分立の意義は、統一原理における罪の概念と結び付けられ、さらには病気の治癒と結び付けられている。すなわち、血統的な罪や連帯的な罪があるので悪霊がついているのであり、それによって病気が引き起こされている。よって、その原因である悪霊を分立し、解放することを通して、血統的な罪が清算され、その霊障である病気も癒されていくという構造を持っているのである。霊障としての病気の中には、胎児の障害や奇形児、アトピーなども含まれており、これらは基本的に悪霊の仕業であるとされている。
「多くの霊が分立されて、血統的な罪と連帯的な罪が整理されていき、病気が治療されていくという驚くべき恩賜を受けた。」(前掲書、p.27)
「私たちの体から悪霊を分立させなければならない理由の一つは、悪霊が私たちを病気にさせ、死の道へと引っ張っていくからである。」(前掲書、p.66)
「ある食口の胎児の脚を悪霊がしっかりとつかんで離すまいとしているのだが、そのようにして生まれた赤ん坊は歩くことができなくなる。悪霊たちが胎児の中に入って、脳をつかむならば、生まれてきた子供に脳性マヒや自閉症の症状が現れるなど、様々な問題が起こることになるのである。」(前掲書、p.67)
「お腹の中の子供が障害児になり得る要素は多いのです。妊婦を霊的に見てみると、胎児が正常でない場合が少なくありません。これは本当に驚くべきことです。特に体の中にいる悪霊は、お腹の中で胎児の首をつかんでいたり、慰安婦の霊が胎児をびっくりするほどに苦しめていたりしていました。」(前掲書、p.202)
「特に日本の食口の場合は、胎中からアトピーになっていく場合が多くあります。子供たちを苦しめる霊がお腹の中にいるときは、アトピー、自閉症、奇形児などが誕生する確率が高いのです。これらはシバジの霊、慰安婦の霊、淫乱の霊たちが、体の中の深い所に侵入していることが原因です。しかし、清平で熱心に霊を分立すれば、それらがだんだんとよくなるのを見ました。」(前掲書、p.203)

 清平役事は、韓国の宗教伝統である「ムーダン」と呼ばれる厄払いをする巫女の働きに似ている。ムーダンの役割は基本的に様々な霊障から人々を守ることにあった。これは金孝南氏自身の話の中にも出てきて、清平役事を始める前に、ムーダンの祈祷を見にいった話が紹介されている。
「大母様はいろいろな山に通いながら私に祈祷されました。ムーダン(厄払いをする巫女)が祭壇を築いて祈祷する所にも、夜連れていって見せてくださいました。なぜそれを見せたかというと、ムーダンがお払いをするときに霊がどこまで行き、どのようにして再び戻ってくるのか、また霊界と霊的役事に関してより詳しく分からせるために、そういう所にも連れていって見せてくださったのです。」 (前掲書、p.58)

 韓国のムーダンの厄払いは、日本における神道や民間信仰の厄払いと多くの類似点を持っており、歴史的につながっている可能性は高い。これらは東アジア一体に広く分布する宗教現象であり、日本人の宗教性とも親和性の強いものである。日本人の信仰の根本をなす行為は「お参り」と「お祓い」である。聖地である清平に「お参り」をし、役事によって「お祓い」をしてもらうと理解すれば、これらは日本人にとっては極めて理解しやすい宗教行為であるといえる。

 しかし、清平役事において解放される霊の中には、韓国固有のものもあり、日本的な霊障に限定されていた「霊感商法」の霊障とは異なるものも含まれている。例えば、「シバジ」と呼ばれる、子が授からない夫人に代わって子供を産む女性の恨みにより、おなかが痛くなる、というような霊障は、日本人にはなじみのないものである。また、日本に強制連行された韓国人や、慰安婦の霊障が起こす霊障も、国境を超えている。清平役事で解決される霊障の中には、慰安婦の霊が韓日家庭や日日家庭に入り、子供を生めないようにしたり、乳ガンや子宮ガンにかからせている、といった内容が多い。また、日本食口たちの証しの中にも、慰安婦や強制連行された霊たちの話が出てくる。これらは、韓日・日韓祝福によって、祝福家庭が国境を超えたために、霊障も国境を超えるようになったものと理解できる。

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