ジェームズ・グレイス「統一運動における性と結婚」日本語訳41


第5章 祝福:準備とマッチング(10)

 すべての入手可能な証拠を概観すれば、マッチングの儀式は神学的に5通りの意味を持っていることが明らかになる。
1.聖酒式は信者を原罪の力から解き放つ。罪深い習性や傾向性は個人の人格の一部に残っているけれども、彼または彼女はいまや完成に向かって成長していくうえで霊的により自由なのである。
2.その個人はもはやサタンに拘束されていない。彼または彼女はいまや神に属するのである。「いまや皆さんは、神様の目から見て皆さんの血統をお父様が変えてあげる位置に来たのです。いまや皆さんは神様の所属となり、サタンは皆さんに対して所有権を主張することができなくなります。」(注54)
3.マッチングを受けたカップルは共に、神の男性性相と女性性相の完璧な表現である真の父母との合一に入る。
 女性が男性よりも前に復帰されなければならないという考えに従い、エバ・母親である花嫁が、真のアダム・父親から盃を受け取り、次にそれをルーシェル・息子である花婿に渡す。文師はこれを説明し、そうすることによって「公的な」祝福式、床入り、および夫婦としての共同生活の前の聖別期間を見据えるのである。
「この儀式では、花嫁に最初の聖酒が与えられ、彼女自身が清められると、彼女は振り返って男性を神に導く準備をします。したがって、この儀式の後の三年間は、夫はある意味で妻に対して従順でなければなりません。彼の妻は復帰のプロセスを開始したがゆえに、最も重要なのです。彼女は彼の救済の鍵を握るのです。」(注55)
4.聖酒式を通して、カップルは宗教共同体と新しい関係に入り、その中で新しい地位を与えられる。この儀式は終末論的共同体への「通過儀礼」となっているのである。
「完成するためには、祝福を受けなければなりません。したがって、祝福は新約時代の最後に訪れるのです。本当の意味で、祝福の後で私たちは成約時代に入るのです。これが統一教会の段階です。ある意味で、祝福を通して私たちは本物の統一教会のメンバーとしての資格を与えられるのです。」(注56)
 修練期間が終わり、いまや本当のメンバーとしての期間が始まるのであり、それには共同体におけるより高い地位が伴う。郭牧師は、「・・・私たちの真の父母様に次いで最も貴重な人々は、祝福家庭です。」(注57)と指摘する。未婚のメンバーたちは一般に結婚したカップルを大いに尊敬しており、彼らを役割モデルとみなし、しばしば彼らに精神的な指導を求める。統一運動における指導者の位置は、ごく稀な例外を除いて、既婚者にのみ開かれているということもまた事実である。
5.聖酒式の典礼的な性格はしばしば運動によってほのめかされてきた。ある祝福を受けたメンバーは以下のように説明した:「聖餐式においては、クリスチャンはある意味でキリストの霊的な子孫になる。聖酒式においては、教会のメンバーは文師夫妻の霊的な子孫になる。」(注58)そして彼は筆者のノートパッドに以下のような図を描いた:

5章(10)挿入図

 別のメンバーは、統一運動の多くの神学者たちの会議において、マッチングの儀式について以下のように述べている:
「それはいくつかの典礼の要素を組み合わせたものである。例えば、フェアリー(以前に話したメンバー)は聖酒式について話した。儀式の一部にはカップルに水を振り掛けることも含まれている。(実際にはこれは第6章で論じられる「公的な」祝福式において起きる)そして手を重ねる儀式もあり、文師からカップルに何かが伝達される。恐らくそこには叙階のアイデアさえもいくらか含まれているのであろう。そして贖罪の要素もそこにはある。なぜなら手を重ねるのは原罪を取り除く行為であるからだ。」(注59)

 今日の運動が主眼としていることの一つが、正統的な形のキリスト教であると受け入れられることであるため、そのメンバーたちによるマッチングの儀式とキリスト教の典礼の比較は、完全な間違いではないものの、しばしば不自然で大げさである。

 儀式そのものと、それに参加した者たちが経験したと報告されていることの神学的意味のさらに先に進めば、この出来事が個人にとって深遠な実存的意味を持っていることは確かである。以下の段落において論じられるより個人的で特別な経験に加えて、マッチングと祝福を受けインタビューに応じたすべてのメンバーが、聖酒式の最中もしくはその少し後に、運動の理想に従って生きる新しい自由の感覚を経験したと報告している。それを「生まれ変わった」と語る者もいれば、彼らの人生に新しい霊的な力を授けられたと見る者もいた。あるメンバーの発言は典型的なものである:
「マッチングを受ける前は、神を中心とする生活をすることは私にとって非常に困難でした。登り坂を一歩一歩登っているようでした。いまでも困難な時はありますが、以前よりは進歩しています。いまや神様が私の近くにいて、私が成長しようとするときに引き上げてくれているような感じです。」(注60)

 この「新しい自由の感覚」を、厳格でしばしば葛藤を伴う統一教会のライフスタイル(例えば週7日、1日12~15時間のファンドレイジング)に照らして考えてみるとき、メンバーたちがマッチングの儀式の変容させ引き上げる力に高い価値を置いているということは驚くに値しない。

(注54)文鮮明「聖酒式」p.4。
(注55)前掲書、p. 5。
(注56)周藤健「祝福の内的な意味」、pp. 42-43。
(注57)郭「理想家庭になる」p. 28。
(注58)インタビュー:エンゲル夫妻
(注59)ブライアンドとホッジス「統一神学の探求」pp. 19-20。

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