ジェームズ・グレイス「統一運動における性と結婚」日本語訳05


第1章(3)

長年にわたって宗教と社会と性の関係について調査した結果、私は宗教が持つ非常に重要な社会機能のひとつが、結婚生活が人間の共同体のさまざまなニーズに役立つように、結婚生活における性的表現を形成する役割であるという確信を持つようになった。この「形成」が、個人をグループに適合させ、「真正な」メンバーとしての彼または彼女の活動をコントロールするプロセスを促進するのである。性と社会の関係に関するオーソドックスなフロイト的視点を選ぶのではなく、私は以下のことを主張する。そしてこれらは本研究の基本的な前提となっている。
(1)そのメンバーの性や結婚に関する生活をコントロールすることのできる社会やグループは、彼らの生活全般をも相当にコントロールすることができる。
(2)歴史的にみて宗教的信仰の形成は、共同体がそのメンバーの性と結婚に関する活動を規制するための最も効果的な手段であることが証明されている。(注10)

性的規範に根拠を与えるために宗教を用いることはすべての主要な文明において観察することができるが(注11)、社会学的および社会心理学的な力学は、19世紀のアメリカに出現したユートピア的共同体において最も顕著である。これらのグループのうちの三つを大まかに観察するだけで、いかに宗教が各共同体の性と結婚に関する規範に根拠を与えていたかを示すには十分であろう。それは、続いて行われる統一運動の調査のための歴史的背景をも提供するであろう。

19世紀のセクト主義者たちは地上に神の国を実現するための彼ら自身の独特な方法を追求したため、彼らはより広いアメリカ社会から極端に逸脱していた。彼らの生活の革命的指向性のために伝統的な拘束力を剥奪してしまったので、彼らはグループの一体性、そして究極的には生き残りにとって不可欠な強い献身を獲得するために、自身の宗教的イデオロギーに強く依存した。ローレンス・フォスターは洞察力のある方法で、問題となっている三つのグループ(シェイカーズ、オナイダ完全主義者、およびモルモン)のすべてが、ルカ伝20章27~40節を彼らの結婚に対する非正統的なアプローチの聖書的根拠として引用している点を指摘した。(注12)その聖句そのものは、サドカイ人によって提起された仮定の状況に関する問題を扱っている。ある女性の夫が死に、彼女はモーセの律法による「レビレート婚」(訳者注:子がなくて夫と死別した妻は、血筋を絶やさないために夫の兄弟と結婚するという古代イスラエルの慣習)に従って義理の弟と結婚したが、彼もまた死んでしまった。レビレート婚は夫の弟が死ぬたびに何度も繰り返して適用され、その後に女自身も死んでしまった。イエスに対する質問は、来世においてその女は誰の妻になるのかというものであった。彼の答えは巧みであると同時に曖昧であった。
「この世の子らは、めとったり、とついだりするが、かの世にはいって死人からの復活にあずかるにふさわしい者たちは、めとったり、とついだりすることはない。」(注13)

アン・リー(1736‐1784)

アン・リー(1736‐1784)

シェイカー教徒たち

シェイカー教徒たち

伝統的なキリスト教の解釈に従って、アン・リー(訳注:シェイカーの女性リーダー:1736~1784)とシェイカー教徒たちは、復活した状態では性的関係も結婚もないであろうということをイエスは意図していたと解釈したが、彼らはその上に、真のクリスチャンは天国のモデルに従い、地上では生涯独身生活を実践すべきだと主張した。この後半の洞察がシェイカー共同体に対して、メンバーが利己主義と罪を克服した勝利の主要なシンボルとしての独身生活というモデルを提供した。フォスターは以下のように説明している。
「彼らの独身システムを定めるに当たって、シェイカー教徒たちは自身を神の拡大家族の一員であるとみなした。彼らは『ファミリー』と呼ばれる共同体を作って生活し、そこでは約30~150名からなる男女が一つ屋根の下に住みながらも、すべての活動において注意深く分けられていた。階層的で少数独裁の家庭型の父権主義によって統治され、シェイカーは通常の家庭生活から性的で個人主義的な愛着を取り除いてしまい、彼らの共同体と神に対して完全な忠誠を捧げることができるようにしたのである。」(注14)

ジョン・ハンフリー・ノイズ(1811-1886)

ジョン・ハンフリー・ノイズ(1811-1886)

1865~1875年頃のオナイダ・コミュニティ

1865~1875年頃のオナイダ・コミュニティ

シェイカーと同様に、オナイダ完全主義者たちも「ジャクソン流民主主義」(訳注:米国大統領アンドリュー・ジャクソン<任期:1829~1837>とその支持者の政治哲学のこと。資産階級よりもあらゆる白人男性に参政権を与える政策を打ち出した。)の時代の国家を特徴づけた個人主義に対して否定的な反応を示した。しかし、アン・リーとは異なり、ジョン・ハンフリー・ノイズ(訳注:オナイダ・コミュニティの創設者:1811~1886)はルカ伝20章34~35節においてイエスは復活した状態において結婚が廃止されるであろうということだけを意図したのであって、性的関係そのものの廃止を意図したのではないと主張した。この世の結婚における律法主義的で私事化された関係は天国には存在せず、ノイズの見解においては、そのような絆はすべての聖人の間にみられる普遍的で平等主義的な愛の表現に反するため、この地上にも存在すべきでないものであった。さらに、ノイズの全体的または完全な愛という概念は、天国においても地上においても、肉体的表現の可能性をも包含しなければならなかった。この理想を実現するために、オナイダは物議を醸しだしたが組織的には成功した「複合婚」を実行したのである。
「彼らの『各自が全員と結婚するコミュニティ・ホーム』においては、すべてのメンバーが一つ屋根の下に住み、共に食べ共に働き、日々の宗教および事業のミーティングに参加し、すべての排他的な性的愛着を排除してしまったのである。さまざまな非公式でありながら厳重な制御機構によって生じた制度が、メンバーの主要な忠誠心を共同体および神に集中させ続けることを保証していた。」(注15)

ジョセフ・スミスと初期のモルモン教徒

ジョセフ・スミスと初期のモルモン教徒

「現代の啓示」から生じた、ルカ伝20章34~35節の第三の解釈は、ジョセフ・スミスの指導に従った初期のモルモンに見出すことができる。彼らは、いかなる結婚も来世においては「承認されない」であろうということをイエスは意味したに過ぎないと解釈した。天国において持続する唯一の結婚は、モルモンの司祭職によって公認を受けた結婚だけだということである。このグループにとっては:
「最善の男たちの家庭において多くの義なる子孫を育てることが、結婚の主要目的であった。ヘブライ人の族長たちの慣習に基づいた一夫多妻制は、モルモンの家父長的な指導者たちが最も大きな家庭を持つことを可能にし、それによって彼らは、地においても天においても、最高の地位と権力を手にしたのであった。この複雑な家庭イデオロギーにより、モルモン教徒たちは結果的に多くに西部山間部に入植することに成功し、彼らの共同体および神に対する忠誠心の具体的な証拠を示したのである。」(注16)

(注10)マックス・ウェーバー「宗教社会学」(ボストン:ビーコン・プレス、1964年)pp.236-242の、この現象に関する短いが説得力ある分析を参照のこと。
(注11)最も良い単一の資料は、ジオフェリー・パーリンダ―「世界の諸宗教における性」(ニューヨーク:オックスフォード大学出版、1980)
(注12)ローレンス・フォスター「宗教と性」pp.15-17
(注13)ルカ20:34-35
(注14)ローレンス・フォスター「宗教と性」pp.16
(注15)前掲書p.16
(注16)前掲書p.17

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