ジェームズ・グレイス「統一運動における性と結婚」日本語訳01


今回より、アメリカの宗教社会学者、ジェームズ・グレイス博士が1985年に出した著作“Sex and marriage in the Unification Movement(統一運動における性と結婚)“の日本語訳をアップしていくことにします。この著作については、拙著『統一教会の検証』(光言社、1999年)の第5章でかなり詳しく内容を紹介していますが、全文訳はまだ存在していません。何事も全体を正確に伝えることは重要なことですので、アイリーン・バーカー博士の『ムーニーの成り立ち』に続いて、本ブログで全文訳を試みてみたいと思います。初めに、読者の理解のために、私の著作の中でこの本をどのように紹介しているかをまとめて引用みたいと思います。
「1985年に出版されたグレイス博士の著作は、こうしたメディアによって作り上げられた合同結婚式にまつわる“神話”の一つひとつを批判的に検証し、統一教会における結婚の実像を非常に公平で客観的な立場で描き出している。また方法論においても、教会の内外、現役の信者と元信者の両方に対してインタビューを行っており、社会学的研究としての要件を十分に満たしていると評価されている。 」
「グレイス博士がこの研究を行う上で適任者であると思われる点は、彼が神学と社会学の教育を両方とも受けているということだ。神学を修めているということは、キリスト教神学との比較において統一教会の教義を理解できる上に、信仰者独特の内的言語をも理解する能力を有するがゆえに、宗教的現象をいたずらに単なる社会現象に還元するという社会学者にありがちな過ちを避けることができるという利点がある。また社会学を修めているということは、単なる教義の解釈や批評にとどまらず、フィールド・ワークに基づいた実証的な研究が可能である上に、何よりもより大きなアメリカ社会全体との関係において、統一教会の結婚に対するアプローチがもつ意味を考察できるという利点がある。」
「全体の構成は八章からなっており、第一章はこの研究の動機と目的について述べている。グレイス博士によれば、統一教会の性と結婚に対するアプローチは現代アメリカ社会の中では非常にユニークなものであり、とりわけ自分の配偶者を自分で選ばないという点は、自由恋愛至上主義の一般的社会通念と対立するものであるにも関わらず、そのような運動が多くのアメリカ人の心を引き付け、なおかつ長期間にわたって信仰共同体を維持し得るのはなぜか、という疑問からこの研究を出発したということである。

第二章は、性と結婚に対する統一教会のアプローチを、その教義の面から分析している。すなわち、創造・堕落・復帰という教義のフレームワークの中で、性と結婚の問題がどのように扱われ、それがいかに祝福という宗教行事と結び付いているかを説明している。

第三章は、統一教会の性倫理、すなわち婚前交渉や同性愛の問題に対して統一教会がどのような価値観をもち、また具体的にどのように対処しているかを扱っている。

第四章は、教会内部における両性の役割、すなわち教会内部において男女は差別されているのか、それとも同等の権利を与えられているのか、という問題を扱っている。

第五章は、祝福前の独身メンバーの禁欲的なライフ・スタイルと、その意味を扱っている。

第六章は、祝福を受けた統一教会のカップルが、家庭をもつ前の聖別期間や、家庭を出発した後にどのような体験をし、どのような課題に直面するのかを豊富なインタビューに基づいて描写している。

第七章では、それまで積み上げてきた客観的なデータを、社会学の理論によって分析している。ここで彼は、19世紀にアメリカで発生したユートピア主義的な信仰共同体における結婚のあり方と、統一教会における結婚のあり方を比較して、信仰共同体の維持・発展という観点から、それがどのような機能を果たしているのかを社会学的に分析している。

第八章では、統一教会における結婚のあり方が将来どのような課題に直面し、どのように変化していくのかを著者なりに予測している。また現代アメリカ社会を背景として見たときに、統一教会の結婚に対するアプローチがいかなる意味をもつかを論じ、一般社会が統一教会における結婚のあり方から学ばなければならないことを提示している。

以上簡単に概要を述べたが、グレイス博士の研究は1980年代前半の調査という点で若干古さは感じるものの、大きな間違いや誤解を発見できないほど、確かな情報源に基づいた手堅い研究である。かといって、統一教会にとって都合が良いことだけを書いているわけでもなく、教会内部に現実に存在するさまざまな問題をも冷静かつ客観的に扱っているということにおいて、非常にバランスの取れた研究であると評価できる。」

以上が私の著作におけるこの本の概要説明ですが、第一回の今回は、この本に関する基本的な情報を提示し、目次と冒頭の謝辞を訳して終わりたいと思います。

Title: Sex and Marriage in the Unification Movement: A sociological Study
題名:統一運動における性と結婚:社会学的研究
Author: James H. Grace
著者:ジェームズ・H・グレイス
With A Preface By Mac Linscott Richetts
マック・リンスコット・リケッツによる序文付き
Studies in Religion and Socirty Volume 13
宗教と社会の研究 第13巻
The Edwin Mellen Press, New York and Toronto
エドウィン・メレン出版、ニューヨーク、トロント

目次
第1章 研究の性格
第2章 統一教会の神学における性
第3章 性に関する価値観:婚前交渉と同性愛
第4章 男女の役割
第5章 祝福:準備とマッチング
第6章 祝福:聖別期間と同居生活
第7章 分析と発見
第8章 未来:いくつかの個人的考察
参考文献一覧

謝辞

この著作は私自身の作品であり、私はそれに対する全面的な責任を負うが、非常に有益な貢献をしていただいた個人に私が言及しなければ、それは不注意というものであろう。テンプル大学のルーシー・ブレグマン教授は貴重な批判的洞察を提供してくれ、このプロジェクトのあらゆる局面で一貫した支援をしてくれた。グラスボロ州立大学の私の同僚数名にも感謝したい:男女の役割に関する資料を批評してくれたパール・バーテルト教授、書き方に関する有益な助言をいただいたセオドア・ズィンク教授、社会学的調査の方法について手引きしてくれたジェイ・チャスケス教授。また、統一運動に焦点を当てることを初めに提案してくれたトロント大学のハーバート・リチャードソン教授にも感謝したい。グラスボロ州立大学哲学宗教学部の私の同僚たちは、貴重な実務的補佐を私に提供してくれ、時には私の組織上の義務を軽減してくれた。私の同僚ポール・K・K・トンが、このプロジェクトを完遂するためほとんど毎日のように励ましてくれたことに対して、特別に感謝したい。

私の秘書であり友人のアーリーン・エイレスさんは、専門性を持って初稿を準備してくれ、私がこの著作を執筆し編集するうえでユーモアのセンスを維持するのを助けてくれた。ジャニス・ビットレさんは非常に慎重かつ熟練した手法で最終稿をタイプしてくれた。

私の妻ヘレンと子供たちは、このプロジェクトの全期間を通して、常に愛と理解と忍耐の源泉であった。

私はまた、統一運動のメンバーとリーダーたちがこのプロジェクトに投入してくれたことに対して深く感謝する。彼らの協力なくして、完成はなかったであろう。

この著作は、私の人生において非常に重要な二人を追悼して捧げられる。それは、テンプル大学の創設者であり、verstehen(理解社会学)のより深い意味を教えてくれたバーナード・フィリップス博士、そして毎日を精一杯生きることを教えてくれた我が弟、ロバート・J・グレイスである。

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