書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』53


 櫻井義秀氏と中西尋子氏の共著である『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)の書評の第53回目である。

「第Ⅱ部 入信・回心・脱会 第六章 統一教会信者の入信・回心・脱会」の続き

 櫻井氏は、自身の研究の情報源となっている統一教会元信者について、「自発的脱会者」の中の「脱会カウンセリングを受けた脱会者」だと言っており、ディプログラミング等の外部からの介入による強制的脱会をさせられた者は含まれていないとしている。しかし、櫻井氏の調査対象には札幌における「青春を返せ」裁判の原告たちが含まれており、その裁判資料は筆者も持っているため、巻末資料「2『脱会信者』被調査信者概要」と照合することによって、これらの原告の個人名を特定したところ、そのうちの5名は証言の中で自身が監禁されていることを認めていることが明らかになった。残りの10名のうち、7名は「監禁」という表現は認めていないが、鍵がかけられており、出入りが自由でなかったことを認めている。そして2人は軟禁状態であったことを認めている。出入りの制限はなかったと証言している者は1人もいない。そして15名中1名だけが、櫻井氏の表の情報からは個人名を特定できなかった。下記の表の14番だが、脱会年が1997年と遅いことから、第二次札幌青春を返せ裁判の原告なのかもしれない。

巻末資料30ページ、2「脱会信者」被調査信者概要

 上記の表の2番は、自分が監禁されていたことを証言した代表的な原告であり、イニシャルをO.R.さんとして私のブログでも本人調書を引用したことがある。以下は、平成11年12月14日に札幌地裁で行われた尋問において、統一教会の代理人である本田弁護士の質問に答えたものであるが、非常に正直に自分が監禁されたことを認めている。

本田:あなたは統一協会を脱会しましたね。
O.R.:はい。
本田:脱会されるときにはどこかのマンションに監禁されましたでしょう。
O.R.:連れていかれました。
本田:だれが中心になってあなたを監禁したの。
O.R.:父と母です。
本田:どうしてあなたを監禁したんですか、目的は何ですか。
O.R.:統一協会を脱会させるために。
本田:なぜ脱会させようとしたの。
O.R.:それはお父さんとお母さんが多分よくないことをやっていると思ったからだと思います。
(中略)
本田:お父さんお母さんは、宗教に年がら年中、四六時中献身してて、宗教活動を行っているということは問題があると考えたんじゃないですか。
O.R.:はい。
(中略)
本田:あなたは何日間くらい監禁されてましたか。
O.R.:何日間というのは覚えてません。七日目くらいでちょっと考えだしたと思います。
本田:中心になったのはあなたの両親ですね。
O.R.:はい。
本田:脱会させるのに、それ以外にどういう人たちが関与してましたか。
O.R.:うちの親戚とかパスカルさんが話ししてくれました。
本田:パスカルからあなたは話を聞いたんですか。
O.R.:はい。
本田:監禁されたマンションの中で聞いたんですね。
O.R.:はい。
本田:何を聞かされましたか。
O.R.:主には原理講論と聖書が言っているところの違いというのを。
本田:パスカルというのはクリスチャンですか、それとも新教の信者ですか。
O.R.:新教です。
(中略)
本田:あなたに対して、原理講論の間違いをいろいろと正したわけだね。
O.R.:はい。
(中略)
本田:あなたを監禁状態にしておいて、部屋からどこにも出られない、自由が束縛されていることははっきり分かりますね。
O.R.:はい。
本田:精神的にも束縛されているでしょう。
O.R.:はい。
本田:物理的にも束縛されていますね。
O.R.:正確に言うと七日目まで。
(中略)
本田:だれからあなたの両親は統一協会の教理について教わっていたの。
O.R.:多分パスカルさんだと思います。
(以上、調書47~66ページ)

 続いて表の6番も監禁を認めている原告だが、イニシャルをW.Nとする。以下は、平成11年11月9日に札幌地裁で行われた尋問において、統一教会の代理人である鐘築弁護士の質問に答えたものであるが、同様に自分が監禁されたことを認めている。

鐘築:それから、救出のことを聞きますけど、マンションに行かれましたね。
W.N:はい。
鐘築:何というマンションか覚えていますか。救出のときのマンション。
W.N:場所と建物は覚えているんですけど、名前は覚えてないです。
鐘築:これは無理矢理連れて行かれたわけ、そこに。
W.N:無理矢理というか、話し合いをしようと言われて。全て準備されて。
鐘築:玄関の鍵が開かないようになっていたということは、出入りがやっぱり自由じゃなかったということね。
W.N:はい、そうです。
鐘築:そうすると、これやっぱり監禁ということですよね。ということですね。
W.N:そうですね。
(中略)
鐘築:パスカルに会ったのは、監禁されてからどのくらいたってから会いましたか。覚えてない。
W.N:一週間か、二週間か、ちょっと何日間かは覚えてないです。
(以上、調書94~99ページ)

 続いて表の7番も監禁を認めている原告だが、イニシャルをH.Aとする。以下は、平成11年11月9日に札幌地裁で行われた尋問において、統一教会の代理人である鐘築弁護士と本田弁護士の質問に答えたものである。鐘築弁護士は証言を引き出すためにあえて「保護」という言葉を使っているが、鍵がかかっていたことは確認している。本田弁護士ははっきりと「監禁」という言葉を使っており、本人もそれを認めている。

鐘築:それからあなたは保護されたというんだけれども、これは監禁というか、自分の家で保護されたんですか。
H.A:自分の家じゃないです。
鐘築:マンションですか。どこかの。
H.A:東区のほうのマンションです。
鐘築:どのくらいの期間そこにいましたか。
H.A:二週間くらいいました。
鐘築:部屋の様子ですけれども、ドアとか窓にかぎをかけて、自分勝手に出られないようにしてありましたか
H.A:はい。
鐘築:それはずっと二週間くらいずっとそうしてあったわけ。
H.A:いえ、後半はしていませんでした。
鐘築:で、あなたを保護した人なんですけれども、それはだれが保護したの。
H.A:両親と姉夫婦です。
(以上、調書50~51ページ)
(中略)
本田:監禁されているときに来たのは、あなたの親と兄弟と、それから脱会した人と、それ以外に牧師という人は来た。
H.A:はい。
本田:何という牧師。
H.A:星川さんという人でした。
本田:その一人だけ。
H.A:牧師さんは一人だけです。
本田:で、いろいろと統一協会の教義について、その人からいろいろ教えられたのね。
H.A:はい。
本田:それ以外に、聖書のことについてもいろいろと教えられたんですね。
H.A:聖書を見ながら、いろいろ説明をされました。
本田:で、あなたは脱会することを決心したのは、その教えられて、統一協会が間違っているというふうに思ったわけね。
H.A:はい。
本田:で、そう思ったのは、監禁されている二週間くらいの間ですか。
H.A:はい。(以上、調書55~56ページ)

 表の13番も監禁を認めている原告だが、イニシャルをY.Yとする。以下は、平成12年4月25日に札幌地裁で行われた尋問において、統一教会の代理人である本田弁護士の質問に答えたものである。ここでは本田弁護士が「軟禁状態」という言葉を使っているにもかかわらず、本人が敢えて「監禁状態」と言い直している。非常に正直だ。

本田:あなたはマンションに入れられて、出人りは自由でしたか。
Y.Y:いいえ。
本田:自由でなかったんですか。
Y.Y:はい。
本田:軟禁状態ですか。
Y.Y:いいえ、監禁状態です。

 表の15番も監禁を認めている原告だが、イニシャルをY.Cとする。以下は、平成12年3月7日に札幌地裁で行われた尋問において、統一教会の代理人である本田弁護士の質問に答えたものである

本田:この脱会されたときは、東区のアパートに連れられて行ったんですね。
Y.C:はい。
本田:そのときには、親や兄弟の皆さんが連れて行かれたんですね。
Y.C:はい。
本田:部屋にはカギが掛かっていましたか。
Y.C:部屋というか、玄関には掛かっていたとおもます。
本田:入口ね。
Y.C:はい。
本田:人ロのドアにはカギが掛かって、そうすると簡単には、自分が出たいと思っても出られなかったわけね。
Y.C:家族は出してくれないという状況でした。
本田:その部屋っていうのは、何DKぐらいの部屋でしたか。
Y.C:二DKぐらいでしょうか。
本田:部屋には、どなたか一緒に寝泊まりしましたか。
Y.C:はい。
本田:一〇目間ぐらい監禁されたんでしょう。
Y.C:はい。
(中略)
本田:監禁されてからフランス人と、それから元統一協会の幹部の人がやって来ましたね。
Y.C:はい。
フランス人っていうのはだれですか。
Y.C:パスカルさん。
(以上、調書50~63ページ)

 以上の証言から、櫻井氏の調査対象の中には、自らが文字通りの「監禁」を伴う脱会説得によって教会を離れたことを裁判の場ではっきりと認めている者が、最低でも5名いることになる。にもかかわらず、櫻井氏は自身の研究の情報源となっている統一教会元信者について、「自発的脱会者」であると言い切り、外部からの介入による強制的脱会をさせられた事実を伏せているのである。ここでも櫻井氏は統一教会を利するような情報に関しては、「統一教会に対して批判的な立場から調査を行う筆者とは利害関係において合致しないと思われる」(p.199)ので、黙殺しようということなのだろうか?

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