紀藤正樹著『マインド・コントロール』の批判的検証02


このシリーズでは、紀藤正樹著『マインド・コントロール』を批判的に検証しているが、前回はこの本が書かれるきっかけとなった中島知子さんの洗脳騒動が起こった際に紀藤弁護士がテレビのワイドショーで発言していた内容を紹介した。

はじめから中島知子がマインド・コントロールされているという前提に立ち、まるで現場を見てきたかのような断定的なコメントをする「専門家」と称する人々に対して違和感を感じた人はやはり多かったようで、テレビや雑誌でもこうした見解に批判的なコメントが出された。そのうちの一つが2012年3月13日発売の『週刊女性』に掲載されたスピリチュアル・カウンセラー江原啓之氏の発言である。

江原啓之

「江原啓之」VS「紀藤正樹」
「『オセロ中島騒動』に異議あり!」「あなたは自ら選んだのです」という見出しがついたこの記事で、江原氏は以下のような持論を展開した。
「今回の騒動は、『マインドコントロール』や『洗脳』という言葉がメディアを賑わせた。しかしそれはその分野の関係者らの“我田引水”でもある。テレビショッピングやコマーシャルでも、何でも受け入れるわけじゃない。」「自分で選んだことなんだから、責任は自分にある。今回のことも自己責任で、中島さんがいいと思えば、何を信じようと自由なんです。マインド・コントロールではなく、“共依存”でしょう。」「信じたほうの責任とも向き合わなければなりません。そうしなければ、その後本人が反省し、それによって向上していくという機会がなくなってしまう。」
この江原氏の発言に対して、紀藤弁護士は著書『マインド・コントロール』の中で以下のように批判している。
「江原氏のこのような発言は、江原氏の“スピリチュアル”能力の信憑性の問題をひとまず置くとしても、人を指導する立場のカウンセラーとは思えない発言です。中島さんと占い師の間に、相談する側と相談される側の上下関係、力関係が存在しているという大前提がことさら無視されています。上下関係性の中で、依存する心とそれを利用するものとの関係、江原さんの言葉に従えば、『共依存』の関係が生じること自体が問題なのです。」(p.18-19)
この紀藤氏の批判には少なくとも2つの問題点がある。まず、誰かが占い師に運勢を見てもらったり、人生相談をしたら、そこに「上下関係」や「力関係」が発生することは、それほど自明な「大前提」ではない。お金を払って占ってもらっても、信じるか信じないかは基本的に相談者の自由である。占いでよく言われる「当たるも八卦、当たらぬも八卦」という表現に象徴されるように、占いの権威というものは客観的に存在しているわけではなく、相談者の主観的判断によって決定するものである。客観的な上下関係、力関係を想定できるのは会社の上司と部下、大学の教授と学生など、明確な雇用・指揮命令・指導の関係がある場合のみであり、占い師とクライアントの間にそのような関係が存在することは少なくとも「大前提」と言えるほど確実で普遍的ではない。
次に、紀藤弁護士は「共依存」の意味が全く分かっていない。共依存とは、自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存しており、その人間関係に囚われている関係への嗜癖状態(アディクション)を指す。典型例としては、アルコール依存の夫は妻に多くの迷惑をかけるが、同時に妻は夫の飲酒問題の尻拭いに自分の価値を見出しているような状態を指して言われる場合が多い。「共依存」の関係は、片方が片方を一方的に支配したりコントロールしたりする関係ではなく、お互いに依存し合っている関係なので、上下関係や力関係が存在しているとは言えない。仮に中島知子さんと占い師の関係がそのようなものであったとすれば、その責任を一方的に占い師の方に帰することはできない。

その後、中島知子さんはどうなったのか?
それではその後、中島知子さんはどうなったのかを見てみよう。彼女が初めてマスコミに姿を現したのは、2013年3月29日にテレビ朝日系の情報番組「ワイドスクランブル」に録画出演したときである。そこで彼女は、同居していた占い師の女性による洗脳報道、マインドコントロールについては「意味が分からない。されていないですし」と否定し、女性については「占いというより、人生相談をする方」と語った。女性とは8年来の友人であったという。中島さんの金銭感覚が荒く、女性から借金をするようになり、家賃をもらわない代わりに同居することを中島さんから申し出たという。一緒に牛肉の食べ歩きなどをしており「自分の散財につきあってもらった感じ。今も友人だと思っている」と語った。
2013年4月17日には、洗脳騒動以来メンタル面でのコーチングを担当していた苫米地英人氏が連絡窓口となることが公表された。苫米地氏は東京都出身の認知科学者で、著書『洗脳原論』(春秋社)では、オウム真理教信者の脱洗脳を手掛けたと書いている。彼が関わったことで、「苫米地氏が中島知子にかけられたマインド・コントロールを解いている」という噂が広まった。

苫米地英人
しかし、2013年3月29日に苫米地英人は以下のようなコメントを発表して、こうしたうわさを否定した。
「中島知子さんについて、メディア各位。中島知子さんについて取材依頼が沢山来ています。前にもお答えしましたが、彼女は元々『洗脳』されてはいないと判断しています。私が彼女にコーチングをしていたという話は、周囲から報道されていましたが、前にも言いましたが、『脱洗脳』といわれるような作業をしていたわけではありません。ですから、私の『脱洗脳』が成功か否かといった話題があるようですが、それは的外れです。」
その後、中島知子さんは2013年4月30日の『ニッポン・ダンディ』(東京メトロポリタンテレビジョン)で、騒動後初めてとなるテレビ生出演を果たし、2013年10月から『ニッポン・ダンディ』のレギュラーとして出演を開始。さらに、映画「ハダカの美奈子」(2013年11月9日、森岡利行監督)で主演の林田美奈子役を演じ、本格的に芸能界復帰を果たした。

ハダカの美奈子
紀藤弁護士は著書『マインド・コントロール』の中で、「問題は、相手がどのような働きかけを被害者にしたのかが重要なのであり、マインド・コントロールの問題を考える場合も、事案の真相を見きわめる真摯な姿勢が重要です」(p.3)と自ら述べている。事実の認定としては、当事者である中島さん本人も、復帰に向けてのコーチングを担当した苫米地氏も、共に「洗脳」や「マインド・コントロール」はなかったと否定した。
事案の真相がまったく分からない2012年2月から6月の時点で、しかも本人に会って確認したわけでもないのに、伝聞や間接的な情報に頼り、テレビのワイドショーに出演し、著作まで出版して一方的に「マインド・コントロールされている」と決めつけた紀藤弁護士こそ、「事案の真相を見きわめる真摯な姿勢」が欠けていたと言えるのではないだろうか。この時点で、紀藤氏の著作の信ぴょう性は地に落ちたと言っていいだろう。
次回は、中島知子さん本人と苫米地英人氏による、事件の真相説明を紹介する。

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