シリーズ「霊感商法とは何だったのか?」05


霊感商法(1)

1.「霊感商法」に関する公式見解
いわゆる霊感商法とは、「人に死後あるいは将来のことについて、あることないことを申し向けてその人に不安をあおりたて、その不安につけ込み、普通の人だったら買わないようなものを不当に高価な値段で売りつける商法…人の不安をかき立ててその弱みにつけ込むという意味で大変悪質なもの」(1987年5月21日、衆議院物価問題等に関する特別委員会での警視庁刑事局保安部の上野治夫生活経済課長発言)であると言われている。(注1)この「霊感商法」という名称は、共産党の機関誌『赤旗』がつけたものであり、壷や多宝塔などの販売に携わっていた人々は自らの事業をそのように呼んでいなかったのではあるが、マスコミを通じてこの呼称が定着し一般化した感があるので、本論文においてもあえてこの呼称を用いることにする。
「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(略称「全国弁連」)は、これまで霊感商法を「統一教会の行っている悪徳商法」であると主張し、そのような認識がマスコミを通じて世間に広められることとなった。これらの報道によって日本統一教会が受けた社会的ダメージは計り知れないほどに大きいと言える。
「霊感商法」を批判する新聞・雑誌の記事、あるいは書籍が多数出版される一方で、統一教会側の主張を述べた書籍は、1996年に世界日報社から出版された『「霊感商法」の真相』(霊感商法問題取材班著)のみである。この書籍は宗教法人としての統一教会が出版したものではなく、あくまで第三者的報道機関である世界日報の取材班が書いたことになっている。しかし、ハッピーワールド元社長の古田元男氏、統一教会総務部長(当時)の岡村信男氏、「全国しあわせサークル連絡協議会」のナンバーツーであったとされる小柳定夫氏などが登場して、それぞれの立場から「霊感商法」について語っているため、この問題に関する統一運動の事実上の公式見解を表明した著作であると理解できる。

霊感商法の真相
霊感商法の真相

『「霊感商法」の真相』では、問題となった壷・多宝塔などの販売当事者の代表である古田元男氏がインタビューに応じる形で登場し、同氏が販売のための組織を作り指揮していたと宣言し、それらの販売行為に対して統一教会は一切関与していなかったと述べている。また、岡村信男氏も統一教会が大理石の壷、多宝塔などの販売を指示して行った事実はないと、きっぱりと否定している。(注2)

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古田元男氏

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小柳定夫氏

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岡村信男氏

この本によれば、大理石の壷・多宝塔などの開運商品の販売を組織的に行ったのは、「全国しあわせサークル連絡協議会」(略称・連絡協議会)であり、同協議会が顧客(ゲスト)教育の場として、全国各地にビデオセンターを設置し、ゲストを対象にセミナーを開催していたとのことである。そして、これらの開運商品の販売やゲストの教育は、連絡協議会が独自に行っていたものであり、統一教会とは直接的な指揮命令関係のない別組織の活動であった、ということになっている。(注3)
『「霊感商法」の真相』は、統一教会の信者たちが行った経済活動の責任が宗教法人に及ばないようにするという、裁判闘争上の事情に基づき、法廷の場で主張している内容を補強し、なおかつ広く社会に対してそれを主張するという目的で書かれたことは明らかである。この問題に対する教会のスタンスはいまも変わらないし、今後も変わることはないであろう。すなわち、法的には統一教会と「霊感商法」は「一切関係がない」のである。
とはいえ、実際に壷や多宝塔などの開運商品を販売していたのは統一教会の信者だったのであり、その販売活動には何らかの宗教的動機づけが行われていたという事実がある以上、法的責任の問題はさておき、「霊感商法」と呼ばれる現象が持っていた宗教的意味に関しては検討の余地がある。
宗教法人の使命は何よりも宗教伝統の本質を守り、信者を教化育成することにある。宗教法人は基本的に個々の信者の経済活動に対しては干渉しないとはいえ、もしこれらの販売活動と信仰が結び付けられることによって統一教会の信仰伝統を歪めるようなことがあったとすれば、教会はこれに干渉せざるを得ない。そしてそこになにか誤りがあったとすれば、それを総括し、今後そのようなことがないように信徒を指導しなければならない。しかし、現時点でそのような総括は存在しないので、このブログにおいては筆者の個人的見解として、「霊感商法とはなんだったのか」という問題に対して、宗教的な見地から総括を試みることにする。

(注1)ウェブ上の国会議事録より。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/108/0650/10805210650003c.html
(注2)「霊感商法」問題取材班『「霊感商法」の真相』世界日報社、1996年、p.14-41
(注3)同上、p.17-21

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