宗教と万物献祭シリーズ06


万物献祭の形状的側面(1)

このシリーズでは、宗教における供え物、献金、布施、喜捨などを一括して「万物献祭」と呼び、こうした行為が伝統宗教と新宗教を含む宗教一般において広く行われており、信仰者の義務あるいは美徳として高く評価されてきたことを明らかにしてきました。前回までは、こうした「万物献祭」が宗教を信じる者たちによってどのように意義付けられ、信じられているかという内面的な問題、すなわち性相的側面を扱ってきました。

今回から、宗教団体におけるこうした活動を一つの「ビジネスモデル」として位置付け、信徒たちに対してどのように働きかけて「万物献祭」を行わせるかという方法の問題、すなわち形状的側面を二回にわたって扱いたいと思います。

島田裕巳著『新宗教ビジネス』

島田裕巳著『新宗教ビジネス』

この側面を論じる上で私が参考にした著作が、島田裕巳著『新宗教ビジネス』(講談社:2008年)です。ちなみに、島田氏が2013年に文庫本として出した『新宗教儲けのカラクリ』 (宝島SUGOI文庫)は、「まえがき」が違うだけで、『新宗教ビジネス』と同じ内容の本です。この本は、タイトルが連想させるほど「宗教の悪を暴く」といった内容の本ではなく、いろいろと考えさせられる点が多い本でした。同じようなタイトルの本でも、山田直樹『宗教とカネ』(鉄人社:2012年)は、島田氏の著作に比べると、宗教を内面から理解する姿勢がまったく見られず、週刊誌レベルの世俗のライターが書いたものに過ぎないというのが私の感想でした。

島田氏は同書を書いた目的を以下のように解説しています。

「新宗教の教団は、それぞれに金を集めるためのシステムを生み出している。教団が維持できるのも、そうしたシステムがあるからだ。そして、そのシステムは教団ごとに異なっている。つまり、それぞれの新宗教教団は、自前の『ビジネス・モデル』を持っていると言えるのである。それぞれの新宗教教団が、固有のビジネス・モデルを展開するなかで、具体的にどうやって金を集めているのかを見ていきたい。新宗教でも、既成教団でも同じだが、宗教は、物を売るわけではない。物を売らずに、どうやって金を集めるのか。そこには、宗教ならではの方法がある。宗教教団が、いくら効率的なビジネス・モデルを構築したとしても、信者たちが、それに応えて、金を出さなければ、システムは円滑に動かせない。なぜ人は宗教に金を出すのか。しかも、かなりの高額だ。それは一つの謎である。最終的には、その謎を解明することが、この本の目的になる。」(島田裕巳『新宗教ビジネス』 p.31-32)

島田氏はこの本の中で、新宗教をいくつかのビジネスモデルに分類し、その特徴を解説しています。その分類モデルを基本的には踏襲しつつも、私なりに事例を加えたりして構成した内容をこれから紹介します。

1.「ブック・クラブ型」ビジネスモデル

①創価学会
創価学会の信者数は公称827万世帯とされていますが、これは授与されたご本尊の数の累計であり、現在会員としてしっかり活動している実数は250万人程度ではないかと言われています。

もともと創価学会は「貧乏人の宗教」と言われ、「お金がなくても信じられる宗教」ということを売りにしていたため、一定額の会費がありませんでした。その代りに、『聖教新聞』をはじめとするさまざまな出版物を購入するのです。『聖教新聞』の購読料は月極め1880円です。発行部数は公称550万部で、これは読売、朝日に次ぐ規模になります。『聖教新聞』はテレビ欄まで備えた日刊紙で、日本の一流企業の広告も掲載される、唯一無二の宗教新聞と言えます。これが学会員である配達員によって宅配されるのです。このように、信者が出版物を購入することによって教団経済が支えられているモデルを、「ブック・クラブ型」ビジネスモデルと島田氏は呼びます。

聖教新聞の売り上げは、年額1241億円であり、印刷代、販売経費、本部職員の給与を差し引くと、年額約160億円の収益があると見積もられています。『聖教新聞』のほかにも、創価学会には『創価新報』という青年部の機関誌があり、これは月二回発行されています。月刊誌には『大白蓮華』『グラフSGI』『潮』『pumpkin』があり、書籍には『人間革命』『新・人間革命』『池田大作全集』などがあり、こうした出版物の売り上げが莫大な収益を生んでいます。出版は創価学会の収益事業とされているので課税対象となり、以前は収益が公開されていました。2002年の収益は143億2000万円、2003年は181億1000万円、2004年は163億5000万円となっています。現在は非公開です。
グラフSGI 新・人間革命 聖教新聞
創価学会のその他の財源には墓苑事業と、財務と呼ばれる献金があり、これらは非課税です。財務の額は時代によって大きく変わり、1970年代には200億から300億くらい、バブルのころは1000億で、現在は250億くらいと推定されています。出版を中心とする収益事業と、財務を中心とする献金を合わせると、創価学会の年間所得は合計で400億円程度であると推察されます。

②生長の家
生長の家は、「ブック・クラブ型」ビジネスモデルのはしりと位置付けられています。信者数は公称71万人です。創始者の谷口雅春は、もともとは大本教の信者でしたが、1930年に雑誌『生長の家』の出版を開始しました。『生長の家』は信者向けの平易な仏教解説書で、「読めば病気が治る」と宣伝されました。雑誌『生長の家』を合本にして聖典としたものが『生命の實相』で、これまでに1300万部以上を売り上げたロングセラーとなりました。これは、出版を布教の核に位置づけて成功した新宗教の、最初の例と言ってよいでしょう。

生長の家創刊号 生命の実相

 

 

③幸福の科学

幸福の科学も大量の出版物を出しているという点では、「ブック・クラブ型」ビジネスモデルに分類できます。創始者は大川隆法で、信者数は公称1100万人と言われていますが、これが実数から程遠いことはほぼ間違いありません。実際の幸福の科学の信者数は、国政選挙における比例代表での「幸福実現党」の得票数から類推することができます。その数は、2009年8月衆院選で45万9,387票、2010年7月の参院選で22万9,026票、2012年12月の衆院選で21万6,150票、2013年7月の参院選で19万1,644票、2014年12月の衆院選で26万0,111票と推移しています。2013年までは下降線をたどっていますが、2014年には票数が伸びています。2009年の最初の選挙の時には相当力を入れて、コアの信者が票の獲得のために非信者に呼びかけるという活動を積極的に行ったために46万に迫る票を獲得できたと推察され、それ以降は選挙に対する熱意によって票の数に差が出たのかもしれません。いずれにしても、幸福の科学の成人信者の実数は多く見積もっても20万人程度ではないでしょうか。

大川隆法の著作 太陽の法
幸福の科学が「ブック・クラブ型」ビジネスモデルたるゆえんは、何といっても教祖・大川隆法による膨大な著作の出版と販売にあります。『太陽の法』は累計400万部を売り上げ、これまでにすでに200点以上の「大川本」が出版されています。幸福の科学の会員になるには、こうした「大川本」を読んで試験を受けなければなりません。また、幸福の科学の講師になるにも試験を受けなければなりません。その際にも「大川本」を読んで勉強しなければならないので、どんどん本が売れる仕組みになっているのです。このへんは東大卒の教祖を持つ教団らしいというべきでしょうか? 統一教会にも「原理試験」というものがありますが、さすがに「原理試験」で一定の得点を取らなければ信者になれないとか、祝福を受けられないということはありません。

統一教会には出版部門で光言社があり、み言葉や雑誌の販売、インターネットによる情報提供などを行っていますが、それが収入の中心になっているわけではなく、また光言社は宗教法人とは別組織の会社法人として独立運営されているため、その収入が統一教会に入るわけではありません。その意味で統一教会は「ブック・クラブ型」ビジネスモデルには当てはまらず、出版事業の規模は比較的小さなものであると言えるでしょう。文鮮明先生の自叙伝を大々的にプロモートした時期もありましたが、それも一過性の現象であり、継続的なビジネスモデルとはなりませんでした。

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