アイリーン・バーカー『ムーニーの成り立ち』日本語訳76


第9章 感受性(8)

 

アンの場合も、世界の状況に苛立っていたが、自分が何らかの影響を与え得ると感じられる道を見いだせなかった。彼女は次のように言っている。

 私は自分のやっていることに全力を尽くさなければ幸福を感じないタイプの人間だったので、何らかの方向性か、何らかの目的だけでも持たなければならないと自覚していた。私は妥協を許さないタイプの人間だった。

私は普通課程を取っていた。学校には我慢できなかった。・・・看護師の道に専念しようと考えた。自分の行く道は専門家のコースであり、そのことに夢中になって、そしてもしそれをやれば、おそらく私は何かを成し遂げたことに対して本当に幸せを感じるだろう。――そこで私は「集中治療」をやることにした。常にプレッシャーの下で働くことが好きだったからだ。・・・それは災害の現場や劇場にいるような感じだ・・・。プレッシャーの下で働いているときは、常に気持ちが良かった。

私はいつも世界のこと、世の中で起きていることを考えていた。・・・そしていつもそのことを心配していた。私は「これをするのは大変良いことだ」と感じていたし、看護師は立派な仕事であり、人々の役に立っていることは知っていたが、どういうわけか幸福を感じることはなかったし、これで十分だと感じたこともなかった。・・・私は自分のしていることに満足を感じることはなかった。

・・・世界で起こっていることに対する私の感情全体が、非常に強烈になり始めた。四六時中、それを考えていた。エチオピアの番組を見て、現地の人々の顔を見ていたのを覚えている。テレビの前に座って、ただ涙が止まらなかったのを覚えている。・・・私は思った。「自分は何をしているのだろう。四方を壁に囲まれた病院の中に留まって、自分が何かをしていると思ってはいけない。何もしていないのだから」・・・それをどうにかできる人は誰もいなかった。政治家もいなかった。その状況はいつまでも続くように思えた。飢餓は次々と起こり、災害も次々と起こっていた。・・・私は強い絶望と恐れを感じ始めた。――それは自分自身に対してではなく、全般的状況に対してである。いったいどこに向かっていくのか、考えることさえできなかった。

 

彼女は、世界がどのように動いているかを理解しようとして、さまざまな哲学書を読み始め、東洋の宗教を探求し始めた。しかし、彼女にとってそれらはすべて理論上のものに過ぎなかった。「つまり、まったく実践的ではなかった。それ自体は良いものだが、実際には機能しなかった。」

もちろん、世界の状況に苛立っているのはムーニーだけではない。私の研究で最も悩まされた側面の一つは、対照群の非常に多くの人々が全くの絶望感や無力感を表明していることを発見したことだった。西暦2000年に世界はどうなっていると思うかと尋ねたところ、多くの人がそこまで世界は存続できないだろうと考えていた。われわれがそのときまで生き延びるだろうと考えていた者たちも、しばしば極めて悲惨な未来を想像していた。典型的な対照群の回答の一つは次のようなものだった。

 

私は、2000年までに世界は人間の住める場所ではなくなっていると思う。バックグラウンド放射線(訳注:放射線測定の際の、測定対象以外からの放射線。宇宙線や天然の放射性物質などに起因する)や公害が増加するだろ。恐らく(核や石油タンカーなどによる)事故によって中断されるものの、最終的には核兵器が再び戦争で使用されるだろう。それは自動的に、核による報復を引き起こすだろう。事態は徐々に混乱を増していくだろう。

 

対照群の別の者は、新世紀を迎えるときについて次のような予測を述べている。

 

恐ろしい流血が起こり、失業が大量に増え、社会の不平等は一段と広がり、機械化ははるかに進み、富める国と貧しい国の格差はさらに広がるだろう。少子高齢化が進む。未来に希望はない。万能の国家または万能の企業――同じことだが――には個性がなく、自発性がなく、愛がないだろう。人生の焦点は、仕事と結婚とテレビだけになるだろう。富、人種、階層によって国家は分裂する。

 

もちろん対照群の中には未来に対して楽観的な者もいたが、大部分はそうではなかった。逆境を乗り越える決意をしている者たちもいた。かなり悲惨な人生になると諦めている者もいた。多くの者は「退屈だ」と感じ、退屈さがいつまでも続くと予測している。「食らえ、飲め、楽しめ、明日は死ぬのだから」(訳注:イザヤ書22:13から来ている)という態度をとっている者もいた。政治を信頼する者はほとんどいなかった。政治家は役に立たないバカか、利己的な偽善者だとみなされていた。以下に見るように、過半数の者が世界をコントロールできていないと感じているだけではなく、自分自身の人生もほとんどコントロールできていないと感じていた。そしてムーニーは極めて同じような感情を持っていたと報告している。――統一教会に出会うまでであるが。

 

西暦2000年に対する希望を約束するパンフレット。標章は、世界の主要宗教を象徴的に表している。(9章224ページ)

西暦2000年に対する希望を約束するパンフレット。標章は、世界の主要宗教を象徴的に表している。(9章224ページ)

パンフレットの内容の日本語訳は以下の通り

西暦2000年にどんな希望があるか?

―暴力と戦争!

―人種差別と物質主義!

―不道徳と非行!

―これが私たちの現実です。これらの中で一瞬のうちに完全に、あるいは部分的にさえ解決できるものは一つもありません。根本的で永遠な解決法が必要とされています。

これらの問題を真に解決あるいは除去する鍵は、その原因を知り理解することです。

知ることは知的で霊的な刷新です。

無知は死であり破壊です。

神が文鮮明師に与えた啓示は東洋で静かに与えられましたが、それは世界中の人々に新しい幸福と新しい希望を与えています。

9章225ページ

招待状

今度の日曜日に、統一教会のメンバーたちは、ロンドンにある私たちのセンターに来て、統一教会の教えである原理の紹介に耳を傾ける意思のある方を、誰でも歓迎いたします。私たちはこの原理に、人間の知性と精神を深く感動させ、私たち自身を再創造させる力があると信じています。

今夜、私たちはあなたを夕食会とエンターテインメントに招待し、原理の一部を紹介します。

参加費・・・1ポンド

プログラム

・夕食・・・・・・・・・・・・・・・・・・6:00 p.m.

・講話・・・・・・・・・・・・・・・・・・7:00 p.m.

・ゴーワールド・バンドの音楽・・・・・・・8:00 p.m.

 

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