おわりに


「統一原理」という思想が、キリスト教的な伝統の上に立って現代に出現した意義とは一体何だろうか? これが私が本書を書くに当たって一貫してもっていた主要な問いかけである。本書は「統一原理」というものを説明するにあたって、組織神学、聖書学、心理学、社会学、さらには雑学に至るまで、ありとあらゆるアプローチを動員しており、一見すると体系や一貫性に欠けているように見えるかもしれない。しかし現代においては、宗教とはさまざまな学問領域からアプローチすることが可能な「多面体」であるというのが、すでに常識的な見解となっている。したがって私も思いつく限りさまざまな「切り口」から「統一原理」の本質に迫ろうと試みたのである。

悩めるキリスト教
本書を通読してみれば、現代のキリスト教が抱えている二つの大きな問題に焦点を絞って論じられていることが分かるであろう。それはいうまでもなく「現代という時代への適応」と「西洋文明以外の諸文化への適応」という二つの課題である。

キリスト教の教義の多くは過去の時代を背景として確立されたものであり、現代社会においてはもはや説得力を失っているものが多い。しかし、だからといって神学がむやみに現代社会に迎合しようとすれば、信仰の本質そのものを失ってしまいかねないという危険がある。したがってキリスト教における「伝統」と「現代性」は厳しい分裂状態にあるのが現状である。ドイツからアメリカに亡命した有名な現代神学者パウル・ティリッヒ(1886~1965年)は、これをキリスト教信仰と現代的精神の「精神分裂症(schizophrenia)」と呼んだほどである。(注1)それを癒すための「統一原理」というイメージが、まず第一に私の中にはある。

さらに我々は現在、世界的なエキュメニズム(諸宗教の一致を志向する思想)の時代に生きている。交通と通信の技術が高度に発達することによって、かつては遠く離れていた異文化圏の人々と、以前に比べればはるかに密接な接触をするような時代になった。しかしハード面のでの通信技術が進歩する一方で、人々の異文化に対する理解は遅れがちであり、「宗教的寛容」を人々に教育する必要性がしきりに叫ばれている。そして多くの宗教者や学者たちが過去の偏見を克服し、他の宗教伝統の中に積極的な価値を見いだそうとしているのである。

このような中でキリスト教は「絶対性」という看板を掲げたまま、ほかの宗教とどのように対話していくのか、その道を暗中模索しているというのが現状だ。キリスト教は最大規模の世界宗教ではあるが、「西洋」という限られた文化圏の中で確立されたために、いまだにほかの文化圏に真の意味で適応しているとは言い難い面がある。特に東洋の宗教との対話はまだ始まったばかりであり、豊かな実を結んでいるとは言い難い。そこで第二には、西洋と東洋の架け橋としての「統一原理」というイメージが私の中にあるのである。

現代のアポロジストとして
私は本書において、キリスト教が現在抱えている問題点や限界を解決する道としての「統一原理」を紹介しようと試みた。本書を執筆中に著者の頭の中にあったイメージは、初期キリスト教のアポロジスト(Apologist)と呼ばれた人々の著作である。アポロジストというのは普通日本語では「弁証家」とか「護教家」とか訳されている人々のことで、キリスト教が迫害されていた時代に、その信仰の正当性を当時の学問的知識を最大限に生かして論証しようとした人々であった。彼らは教会の外に向かって語ったのみならず、教会の内部に対しても自分たちの信仰がもっている価値を訴え、後の神学の発展に貢献した人々であった。

私も同様に、「統一原理」を全く知らずにそれを怪しげな新興宗教の異常な教説であると決めついている人が、本書によって少なくともそれが耳を傾けるに値するものであるというように、評価を変えるようになってくれればいいと思う。また同時に、「統一原理」しか知らないという人が、それがほかの思想(特にキリスト教思想)との関連においてどのような位置にあるのかを把握し、自己の信仰をより広い視野において見つめることができるようになればいいと思う。

なお、本書の中で私が述べたことはすべて私個人が勉強したことに基づいて論じた「私見」であり、教会の正式な見解ではないことを断っておく。本書によって「統一原理」に対する誤解が生じたとすれば、それは全面的に私の責任である。また本書は読みやすくするために脚注などをすべて省略してあるが、本書で扱われている各テーマについてもっと深く知りたいという人は、巻末に参考文献を載せておいたので、それをもって更なる探求をしていただきたい。

最後に本書ができ上がるまでの間に、さまざまな形で御助力いただいたアート・ヴィレッジならびに光言社書籍編集部の方々に心より感謝したい。

1997年7月 著者

<以下の注は原著にはなく、2015年の時点で解説のために加筆したものである>
(注1)かつて「精神分裂症」と呼ばれた精神疾患は、現在では「統合失調症」と呼ばれている。ここでは原著の表現をそのまま残した。

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