アイリーン・バーカー『ムーニーの成り立ち』日本語訳59


第7章 環境支配、欺瞞、「愛の爆撃」(2)

接触の激しさと回心者が入会するスピードは、一般的にいって、西に行くほど大きい。スカンジナビアの人々はしばらく自分で熟考する時間を持つことが多いが、カリフォルニアの人々は運動に出会ってから入会するまでの間に非ムーニーと接触することが最も少ない。入会を決意するまでに数年かけて個人的に勉強する人もいることは事実だが、大多数のムーニーが驚くほど短時間、強烈に統一教会にさらされた後に入会することは明らかである。大部分の会員は運動に出会って、2・3週間以内に入会しており(注5)、約3分の1(アメリカで多く見られるが、ヨーロッパではより少ない)は、別の社会的状況の中で事態を考えたり、他の人と話し合ったりする時間がほとんどまたは全くない状態で入会している。(注6)それにもかかわらず、ヨーロッパとアメリカのムーニーの約半数と、イギリスのムーニーの5分の3は、入会の決定について運動の外の誰かと話し合っている。それは大部分が親とであるが、友人と話し合ったという会員もしばしばいるし、ときには数名と話したという者もいる。話し合わなかった理由として挙げられる中で最も多いのは、それは個人が自分で決定すべきことであり、自分で決定しなければならなかったから、というものである。かなり典型的な説明は、「それは自分自身で考えるべきことだと感じた。実際、私は教会に入会すべき大きな責任を感じた。われわれ[今日の若者]はこの世界を少しでも変えるために動かなければならない」というものであった。誰も理解してくれないだろうからという者もおり、他人に話すことなど考えてもみなかったという者も相当数いた。また、約9%が家族と接触するにはあまりにも遠く離れ過ぎていたといった。しかし、相当数のゲストがムーニーたちから、友人や親とは接触しないように活発に説得されていた可能性がある。特に、カリフォルニアで運動に出会った者たちは、他の人々は「理解しないだろう」と言われたかもしれないし、電話でコンタクトした場合には、電話の近くに「スタッフ」がいて、心配している親に対して、「私が出会ったこの素晴らしい人たち」ともう少し長く滞在するつもりだと説明するのを「助けた」かも知れない。

他人に話した者たちは、恐怖、驚き、不信から穏やかな心配に至るまで、概して否定的な反応に遭った。10人に1人が、話をした人は喜んでいたと主張した。また10人に1人をやや下回る者が、彼らの親(またはその他の連絡した人)は懸念を表明したが、君のことは信頼しているとも言った、と答えた。しかし、そのことを話し合った者の大部分は運動に入らないように忠告された。もし入会したら報復を受けるだろうという脅しを受けたと報告する者もわずかにいた。そして、少数の者(5人のイギリスのムーニー)が、入会するのを防ぐために身体的強制を受けたと言った。親が子供に対してやめるよう説得しようとしたケースが最も多かったことは驚くに値しないが、友人や親戚や聖職者などもそのような試みをしたし、配偶者やガールフレンド・ボーイフレンドが説得したというケースも6%あった。回心者が家族と間で経験することについて極めて典型的な説明をしたのは、26歳の誕生日のために数日間の休暇を取っている間に運動に入ったというフランスの会員であった。

「入会して約三週間後に、私はパリの近くの兄のアパートで、二人の兄と、義理の姉と、一人の友人に会いました。・・・兄の一人は神父で、私に会いに特別に南部から出てきました。彼らは私の決断を断念させようとしました。私は三日くらい彼らと過ごしました。・・・もちろん彼らは私に教会生活や洗脳に関する否定的な多くの記事をみせましたが、どの記事も私には全く受け入れられませんでした。私は彼らにどのようにして教会に出会ったのか、どうして入会したのかを説明しました。・・・」

それは統一教会への回心に対してというよりは、むしろ運動内部における生活に影響を与える特徴なので、統一教会のイデオロギーの「全体主義」について私は本書で詳細に論じるつもりはない。にもかかわらず、会員になる可能性のある人が、自分の見聞きしてきたことに対して別の視点を提供するような人々と共に「よく調べる」ことができないように(あるいは少なくともそれが困難であると感じるように)、ムーニーによって環境をコントロールされているように感じるという限りにおいて、彼は疑いもなく物事を統一教会の見方から見るように圧力を受けている、ということを認めなければならないであろう。しかし、すでに見てきたように、これは大部分の人にとって抗しがたい圧力ではない。実際、ほとんどの人はそれに抵抗しているのである。次の章では、ムーニーになる人とならない人を分けていると思われるのは、どのような種類の感受性であるかについて検討することにするが、ここでは先ず、「天的詐欺」とか「愛の爆撃」として知られるようになった統一教会の環境が持つ側面について、より詳細に見てみることにしよう。(注7)

「天的詐欺」という概念は、ほとんどのムーニーにとってかなり当惑の原因となっている概念である。それはこの運動の公式の神学の一部ではないが、勧誘を含む数多くの分野において、目的が手段を正当化すると確信している会員もいることは確かである。それを正当化するために最も頻繁に引用されるのは、ヤコブがエサウから長子権を奪ったときに欺きを用いたという聖書の記事である(注8)。勧誘の実践に関しては、私は、(1)勧誘者が文師の統一教会の会員であることを隠すか否定するという欺き、(2)この運動の信条や実践に関する欺き、(3)「愛の爆撃」に関する欺き、を区別したいと思う。

(注5)私のデータが示すところでは、運動と最初に接触してから二週間以内に入会したのはイギリスとヨーロッパのムーニーの5人に1人以下(しかし、アメリカの神学生では3分の1だった)である。他方、最初の出会いから入会までに三ヶ月以上かかった者は、イギリスのメンバーでは5人に1人をわずかに上回っている(そして、ヨーロッパのメンバーとアメリカの神学生の3分の1)。私がその未発表のデータを使用するのを親切にも許可してくれたスティルソン・ジュダーによると、サンフランシスコでの調査では、メンバーの60%が最初の出会いから三週間以内に入会した。D・G・ブロムリーとA・D・シュウプJr「アメリカにおけるムーニー:カルト、教会および十字軍」ビバリーヒルズ/ロンドン、セージ出版、1977年、p. 174も参照。
(注6)ムーニーの約4分の3は、出会ってから運動に入会するまでの間に、一週間以上接触を断つことはなかった。(3分の1は毎日接触していた。)4分の3をはるかに超える者が、入会したいと思っていた(18%)か、最初に出会ったときから入会することにいくらかの関心があった(63%)と答えた。そして13%の者が、特に関心を持っていなかったと言った。5%が、絶対に入会したくなかったと主張した。1%の者は、なんとか接触を断った後で、ムーニーが再び接触してきたと答えた。他に、接触を断った者の中に、接触を再開することは構わないと思っていたとか、自分の責任で運動に戻った、と答えた者もいた。
(注7)ムーニーたちはしはしば私に、「愛の爆撃」という言葉を最初に紹介したのはマスコミであると言った。この言葉は、イギリスやヨーロッパのメンバーが通常使用するものではない。私は彼らが使うのを聞いたことはあるけれども。アメリカの東海岸のメンバーたちは、それを実践したのはオークランド・ファミリーだと非難している。本章の冒頭の引用に見られるように、オークランド・ファミリーは承認の上でこの言葉を用いてきた。D・テイラー「新しい人々になる」p. 188以降を参照。
(注8)創世記第27章1~36節。郭錠煥『概説統一原理:レベル4』ニューヨーク、世界基督教統一神霊協会、1980年、pp. 135-9を参照。最初の120日修練会では、ヤコブの欺きは以下のように説明されている。「ヤコブが欺いたのはサタンであって神ではない。サタンが神を欺いたので、この失敗を蕩減するためにはサタンが神側から欺かれなければならない。これがヤコブがその兄エサウと、父イサク、および叔父ラバンを欺いた理由である。」(周藤「120日修練会マニュアル」p.265。しかし、周藤は以下のような訓戒をもってこの講義を終えている。「ヤコブは他人を欺きましたが、われわれは他人を欺いてはなりません。いいですか。 この摂理は異なっています。...私の言うことを誤解しないように。われわれは買わなければならないのであって、盗んではいけません。他人を欺いてはなりません。」(p.268)p.272も参照。

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