アイリーン・バーカー『ムーニーの成り立ち』日本語訳41


第5章 選択か洗脳か?(4)

これらのことが純然たる学問的考察であると思われないように、いま論じられているような議論が実際に及ぼした影響のいくつかを簡単に示してみたい。私がとくに考えているのは、「成年後見命令」の導入についてである。これによって裁判所はある成人の責任を別の成人に移譲することができる。アメリカでは、両親がこれによって成人している子供に対する一定期間の法的監護権を獲得し、その間に子供たちがディプログラミングやカウンセリングを受けるケースがいくつかあった(注15)。こうした特定の法律の最前線で行われている闘争の複雑さをここで論じる余裕はないが、ニューヨーク州の精神衛生法に対する「ラッシャー修整条項」として知られるようになったものを引用すれば、この議論が妥当であることが十分に示されるであろう。

最高裁とニューヨーク市郊外の郡裁判所は、15歳以上の者の人物および財産に対して、一人あるいはそれ以上の暫定的な後見人を任命する権限を有する。その際、暫定的な後見人の任命を必要としている人が、詐欺を用いて家族から剥奪または隔離し、異常な長時間労働のスケジュールを実践するグループと密接かつ定期的に関係していることが示され、さらにその暫定的な後見人の任命を必要としている人物が「行動様式、ライフスタイル、習慣、態度において突然で急激な変化を経験し」、自己の幸福に注意を払うことができなくなり、さらに「そのような注意の必要性を理解できなくなるほどまでに彼の判断力が損なわれている」ことが示されなければならない。(「」強調は付加)(注16)

 

元ムーニーの報告

現在、おもに心理学者や精神科医によって書かれた、統一教会の洗脳テクニック、どんな人々がムーニーになったか、および洗脳が彼らに及ぼした効果の記述であると称する文献が増えている。これらの記述において提示された証拠は、ほとんどと言っていいほど元ムーニーの証言からとられており、そして通常はディプログラムされたか、カウンセリングや治療のためにその著者のもとに連れてこられた元ムーニーたちによる証言である(注17)。さらにそのような元ムーニーたち自身によって書かれた文献も増えている(注18)。こうした「被害者」こそが、クラークによれば、「傾聴すべき真の専門家」なのだという(注19)。

無論、元ムーニーは非常に多くの価値ある情報を提供することができる。だが、そのような証拠に大きく(しばしばそれだけに)頼る医師、心理学者、カウンセラーは、いくつかの非常に基本的な研究の原則を無視している。第一に、ある運動を離れた人はおそらくそれに幻滅を感じており、運動に参加したことを悔やむ可能性があるということである。自分が会員になったことを他人に、またもっと重要なことだが、自分自身に説明する一つの方法は、自分の責任を認めることではなく、その運動の説得力を非難することである。これは、自分自身よりもむしろ他人の力によって運動を離れた人々が取りがちな選択肢なのである。とくに両親が何千ドル、ときには何万ドルも払って彼らをディプログラムさせた場合はそうである。事実、元カルト信者に対して、あなたは洗脳されたのだと告げるのは、カウンセリングにおける学習計画の一部になっている。それは、「彼らは自分たちに何が起こったのか分からないし、それを説明される必要がある」からだというのである(注20)。マーガレット・シンガーは、デイリー・メール紙裁判での証言の中で、次のように述べている。

「ディプログラマーや元ムーニーたちは、この種の情報を得るために抜け出そうとしている現在のメンバーたちに対して、マインドコントロールや洗脳や強制的なアイデンィティの変化のプロセスがどのようにしてもたらされたかについて語ります。そしてディプログラマーは彼らに、街頭で初めて出会った瞬間から新しい会員に仕上げられるまで、全てがいかに計画に従って仕組まれていたかを描いてみせるのです。」(注21)

トルーディ・ソロモンによる元統一教会員100人へのアンケート結果の分析を見ると、反カルト運動との接触が、元会員たちが洗脳やマインドコントロールの説明にどの程度依存するかに影響を与えていることがわかる。

「教会内で洗脳やマインドコントロールが行われているという証言の大部分は、ディプログラミングまたはリハビリテーションを受けた元信者か、あるいは反カルト運動に携わっている個人によってもたらされているので、これらのデータは、元会員がどのようにしてそうした考えを抱くようになったか、そしてさらにそれがどのように存続されてきたかについての説明を提供し始めている。」(注22)

ソロモンの回答者の大多数はディプログラムされていた。そして7人を除く全員が、統一運動から脱会するとき、あるいはその後に、何らかの組織的な支援(リハビリテーションまたはセラピー)を受けていた。疑いなく、これは彼女のサンプルがおもにアメリカの反カルト・ネットワークを通じて集められたという事実が主因となっていた(注23)。別の研究でスチュアート・ライトは、統一教会、ハリクリシュナ運動、神の子供たち(または愛の家族)からの「自発的な」脱会者45名にインタビューをした。彼がインタビューした者の中で、洗脳されていたと主張したのは4人(9%)だけだった。彼のサンプルの残りの91%は、自分の入会は全く自発的なものだったと述べた(注24)。そしてまた別の研究でマーク・ギャランターは、ディプログラミングを経験しなかった47人の元ムーニーと経験した10人を比較した。彼はその中で、ディプログラミングを経験した者たちのほうが、運動にとどまるよう説得しようとしたムーニーからプレッシャーを受けたと報告する傾向があることを見いだした。「事実、ディプログラムされた回答者(10人のうち8人)だけが、脱会した後、依然として統一教会で活動している人々の行動の自由をあからさまに制限して、彼らを脱会させようとしていた。」(注25)

(注15)そのような事件の詳細に関しては、I・L・ホロウィッツ「科学と罪と学者:文師と統一教会の政治」ケンブリッジ、マサチューセッツ/ロンドン、MITプレス、1978年、第12章、およびB・アンダーウッドとB・アンダーウッド「天国の人質」ニューヨーク、クラークソン・N・ポッター、1979年、151ページ以降を見よ。
(注16)「ラッシャー修整条項」は可決に必用な最終段階まで通過していったが、最後にニューヨーク州のカリー知事が拒否した。知事はその反対理由を次のように述べた。「それは憲法で保証された権利を危険にさらすものであり、容認可能な手続きの制定に訴えることにより、誤った望みを持たせるものである。・・・わたしは顧問弁護士に対して、この困難な分野において憲法上認め得る法律を制定できるかどうかを判断するため、この法案の提案者たちと共に働くよう求めた」。H・リチャードソン(編)「新宗教と精神衛生:問題を理解する」ニューヨーク、ローズ・オブ・シャロン出版、1980年、p.ix, xを参照。
(注17)こうした心理学者や精神科医による最も出回っている文献としては、前述の注5のクラーク、ガルパーおよびシンガーの著作、およびL・J・ウエストとR・デルガド「カルトを心理分析する」ロサンゼルスタイムズ、1978年11月26日付を見よ。
(注18)例えば、C・エドワード「神に夢中」エングルウッド・クリフス、ニュージャージー、プレンティスホール、1979年;C・エルキンズ「天的欺瞞」ウィートン、イリノイ、ティンデイル・ハウス、1980年;E・ヘフトマン「ムーニーたちの暗部」ハーモンズワース、ペンギン、1983年;スーザン・スワトランドとアン・スワットランド「ムーニーたちからの逃亡」ニュー・イングリッシュ・ライブラリ、1982年;アンダーウッドとアンダーウッド「天国の人質」。
(注19)J・G・クラーク・Jr「われわれはみな根本的にはカルト信者である」。またM・R・ルディン「宗教カルトにおける女性、老人および子供たち」、1982年10月23日にバージニア州アーリントンで開かれた市民自由財団の年次会議に提出された論文を参照せよ。「アウエアネス」1983年、第4、5号に出版された。第4号のp.5を参照せよ。
(注20)カリフォルニア州バークレーの連合神学大学院が1981年に主催した会議での、著名なカウンセラーによるコメント。
(注21)デイリーメール訴訟の公式裁判調書、1981年3月9日、p.14(詳細は注2を見よ)
(注22)T・ソロモン「ムーニー体験の統合:統一教会の元会員の調査」、T・ロビンズとディック・アンソニー(編)「われわれは神を信じる:アメリカにおける新しい宗教多元主義のパターン」ニュー・ブランスウイック、トランサクション・ブック、1981年に掲載、p.289。
(注23)同書、p.279。
(注24)S・A・ライト「論争の的になっている新宗教運動の自発的な脱退者たちの関与以後の態度」1983年にノックスビルで行われた宗教科学研究学会の年次会議で提出された論文、p.10。
(注25)M・ギャランター「統一教会(ムーニー)のドロップアウト:カリスマ的な宗教団体を離脱した後の心理的な再調整」アメリカン・ジャーナル・オブ・サイキアトリー、第140巻、第8号、1983年、p.986。

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