櫻井義秀、大畑昇編著の「大学のカルト対策」の書評の15回目です。この本の第一部の5番目の記事は、「5.青春を返せ訴訟25年:統一協会との闘い」というタイトルで、郷路征記弁護士が担当しています。
この記事は54ページもあり、全体の21%を占めています。「大学のカルト対策」において、統一教会対策がどれだけ重要な部分を占めているかを、この数字が物語っています。郷路征記氏は、第1次・第2次札幌青春を返せ裁判において、統一教会を訴えた元信者らの代理人を務めた弁護士であり、この記事は要するに裁判における原告側の主張を要約したものです。その意味で「一方当事者の言い分」に過ぎず、公的な効力はありません。以下に目次を示しますが、内容は偏見に満ちていて書評に値しないので詳細は省略させていただきます。
一. 闘いの内容と意義
二. 統一協会の布教・教化課程
三. 受講させ、受講を継続させる方法
四. 神の存在を信じさせる意味と方法
五. 文鮮明をメシヤとして受け入れさせる方法
六. 物売りや自己犠牲の生活を受け入れさせる方法
七. 行動によって堅固な信仰に変える方法
八. 統一協会的自己の形成・強化
一方、第1次・第2次札幌青春を返せ裁判の判決は、裁判所の判決であるため公的な効力があります。郷路弁護士はこれら判決について、個々の献金行為における威迫困惑ではなく、統一協会の布教・教化課程そのものの違法性を認定した点が画期的である、と主張しています。ところが、宗教団体の布教・教化課程そのものを違法性の根拠とすることは、国家が宗教的事柄の是非に過度に介入することになり、政教分離の原則から見て、大変に問題の多い判決であると言えるでしょう。特に、第2次札幌青春を返せ裁判の判決が如何に不当なものであるかについては、このブログの次のシリーズで扱うことにしますので、ご期待下さい。
青春を返せ裁判に関しては、このブログでも過去に説明しているので詳細は省き、今回は第2次札幌青春を返せ裁判の判決が大学の「カルト対策」と関わる部分に絞ってコメントしてみたいと思います。その一つが、CARP(原理研究会)と統一教会との関係についてです。この裁判では、被告(統一教会)と原理研究会との間に指揮命令関係があるかどうかも争われました。それに対する札幌地裁の判断は以下のようなものです。
「被告(統一教会)は、全大原理研と被告との間にも指揮命令関係がないと主張する。しかし、前期のとおり、連絡協議会は被告の一部であると認められるところ、第1章及び第2章において認定したとおり、原理研究会の伝道活動や実践活動の態様は、ビデオセンターを設置運営していること、合宿形式の修練会を設けて再臨の救世主を明かすこと、勧誘当初は統一協会の伝道活動であることを隠すこと、家族に話さないよう口止めすること、実践活動としてマイクロ活動を行うことなどさまざまな点において、連絡協議会の活動とされるものと類似しており、活動目的も共通していたものと認められる。そうすると、全体原理研や原理研究会が、宗教団体である被告の組織の一部を構成しているという事実関係までは認めるに足りる証拠がないものの、一連の伝道活動や実践活動が被告の指揮命令なしに独立して行われていたと考えることは困難である。よって、被告と全大原理研の間に指揮命令関係が存在すること自体は否定することができないところである。」(判決文p.272)
この判決に対しては、以下のような疑問が残ります。
① 指揮命令関係が存在したという根拠は、活動が類似しており、活動目的が共通していたことだけです。これではある団体が同じ目的で他団体を真似して組織を作ったら、その間に指揮命令関係があることになってしまい、根拠としては非常に薄弱です。
② 宗教法人統一教会がCARPに指揮命令をしたという具体的な証拠は何もありません。
結局、この判決は「被害者救済」の論理を最優先させた苦肉の判断というしかありません。CARPは被告になっていないが、「あらためて裁判を起こせ」というのは原告が可哀想だから、無理やり認定したものと言えるでしょう。したがって、この判決をもって統一教会とCARPの間に指揮命令関係が存在すると断定するのは、状況と文脈を無視した不当な主張であり、「それでも事実として指揮命令関係はない」とはっきり主張すべきです。
次に、「最近の判決でも違法性が認定されている。だから統一教会の本質は何も変わっていない」という大学側の主張に対しても、きちんと事実に基づいて反論する必要があります。まず、札幌地裁判決の原告らの大半は1980年代から1990年代に勧誘され、入信した信者です。つまり、いまから20年~30年前の出来事に対する判決が最近出たに過ぎません。
これに対して、統一教会は2009年3月25日付で徳野会長による、教会員に対する法令遵守(コンプライアンス)の指導をなしており、一部の問題に関しても、2009年7月13日に徳野会長辞任記者会見をすることによってけじめをつけています。第2次札幌青春を返せ裁判の判決は、こうした変化の前の事案に関することなのです。
徳野会長のコンプライアンスの指導の中には、「伝道に関して」の項目の中で、「勧誘目的の開示」を指導しており、「勧誘の当初から目的を明示し、宗教との関連性や統一教会との関連性を聞かれた際には的確に説明をする」ように指導しています。
CARPも独自にコンプライアンスの指導を行い、学生が学内で勧誘する場合には初めからCARPというサークル名を名乗るように指導していると聞いています。「過去の亡霊」のような札幌地裁判決に基づいて、現在のCARPの勧誘活動を判断するのは不当であり、大学は現在の事実をしっかりと把握して判断すべきでしょう。