中国の「挑戦」と日本の対応06


自由主義陣営の結束のために

 2021年は中国共産党が創党して100年目を迎える節目の年であり、7月1日には創党100年を記念する行事が大々的に行われた。天安門で習近平国家主席が演説し、その最後に「中国共産党の歴史的使命は台湾の独立阻止と奪還である」と明言した。

 台湾に対する中国の脅威に対抗するためには、日本、台湾、韓国が今までの歴史をさておいて自由主義陣営として結束しなければならないと呂秀蓮・元台湾副総統が述べたことを先回紹介した。それでは日本と韓国にはそのような準備があるのかについて、最終回の今回は分析したい。

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 昨年日本で起きた大きな政治的出来事といえば、なんと言っても衆議院議員総選挙である。結果は既にご存知の通り、自民党単独で絶対安定多数を獲得し、自公連立政権は継続することとなった。選挙前には立憲民主党と共産党の共闘は自民党にとって脅威であり、自民党は相当票を減らすのではないかという予想があったが、両党の共闘は完全に不発に終わった。これは共産党に対する国民のアレルギーの強さを物語っており、あらためて日本国民の良識が示された結果となった。自公政権の勝利により、これまで安倍政権、菅政権によって構築されてきた日本の安全保障政策は、岸田政権によって継続されることとなった。これによって日米関係は安定するだろうし、日台関係も良好に展開するだろう。しかし、日韓関係は多くの課題を抱えている。

 ここで、「台湾有事」と朝鮮半島情勢の関係について述べてみたい。台湾と韓国の間には二つの共通点がある。一つは共に日本の植民地支配を経験していることであり、二つ目は同民族の共産主義国家からの脅威に直面しているということだ。韓国人はこのような歴史的背景から台湾に対して親近感を感じており、蒋介石を尊敬している韓国人は多い。

 また地政学的には、台湾有事と朝鮮半島有事が連動する可能性も指摘されている。両方が同時に起きれば米国は有効な対応ができないであろう。もし台湾が中国に奪回されたら、朝鮮半島に対する中国の圧力は何倍にも強化されることが予想される。この中国の圧力は韓国にとって非常に厄介なものである。韓国のことわざに「クジラが喧嘩するとエビの背中が裂ける」という言葉がある。中国と米国という二匹の巨大なクジラが喧嘩すれば、それに巻き込まれた韓国が被害を受ける。中国が巨大化すればするほど、韓国がアメリカと連携している限り、巨大な暴風が押し寄せるのである。かつてTHAAD配備の時に韓流文化が中国から排除されたことがあった。韓国はそれを恐れている。一方でアフガンの事例から、米軍撤退のリスクも深刻である。米国が昨年末に開催した民主主義サミットでも、韓国は中国を名指しで批判することは避け、北京オリンピックの外交ボイコットも選択しなかった。韓国は米国に同調しつつも、中国に対して忖度せざるをえないのである。

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 一方で、日韓米の関係を微妙にしかねないのが、昨年の国連総会演説における文在寅大統領の朝鮮戦争終結宣言の提案である。文大統領は米中に支持を求めたが、バイデン大統領は賛否を明確にしなかった。一方で日本の岸田首相は「時期尚早」として難色を示した。日本としては、核兵器開発と拉致問題で解決への道筋が見えない中、南北の融和ムードだけが拡大することを警戒しているのである。日本の中には、米韓同盟や日韓関係以上に北朝鮮との融和にのめりこむ文在寅政権に対する不満がある。この点からも、今年3月に行われる韓国大統領選には注目が集まっている。

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 目前に迫った韓国大統領選は、与党「共に民主党」の李在明候補と、野党「国民の力」の尹錫悦候補の一騎打ちとなっている。日本とは政治構造が逆になっており、韓国では与党が進歩派で野党が保守派となっている。ここで韓国における保守派と進歩派の考え方の違いについて簡単に説明したい。

 韓国では60代以上の年代層は保守的な傾向が強く、北朝鮮の危険性を認識しており、中国に対しても言うべきことを言わなければならないと思っている。彼らは日韓米の同盟の重要性を理解しており、QUADに関しても、中国に配慮して入らないのは韓国の国益を損なうと思っている。彼らは韓国が米中のバランサーになるべきだとは思っていない。

 一方、韓国では50代以下の年代層が進歩派の支持勢力になっている。進歩派の方はアメリカ追従が良いのかどうかを疑い、韓国は世界のミドルパワーとして役割を果たさなければならないと言っている。中国に圧力をかけるためのQUADなら入ることはできず、中国よりもアメリカの方が危ないと思っている。また進歩派は、南北の平和を重要視する。

 今回の韓国大統領選の争点は、左派の進歩政権が続くかどうかである。野党は政権交代を目指して、文在寅大統領を批判している。これまでの「業績評価」として、①外交戦略がうまくいっていない、②経済の悪化、③不動産価格の高騰などを批判している。保守派は、文政権は平和にこだわって北朝鮮の言いなりになっていると考えている。そして、いまや保守派は高齢者だけに留まらない。20代、30代の既存政治に対する反発が今年4月のソウル・プサン市長選で現れた。2017年の選挙では文在寅候補を支持した彼らは、必ずしも進歩勢力ではない。むしろ、これまでの「政権審判」から、与党に対してノーを突き付けたと言える。20代が反文在寅なのは、「ネロナンブル」(私がすればロマンス、他人がすれば不倫)という言葉に代表されるような、公平・公正さの欠如に理由がある。30代も文在寅政権から心が離れてきている。

 韓国人の国際情勢認識には、地政学的条件と歴史的経緯が大きく影響している。かつては小国だったので周辺の大国の犠牲になってきた。いまは韓国も力をつけてきたので犠牲になるような国ではないが、米中のように独自の力で国際秩序を作れるほどの国ではない。韓国のいまの国力に見合った自立的な外交を展開したい。そこで、「ミドルパワー外交を発動する」するがキーワードとなるのである。

 日本からは、韓国は北朝鮮に対して甘く、中国を過大評価しているように見える。しかし、韓国は中国べったりではない。THAAD配備で中国から嫌がらせを受けたので、韓国人の対中感情は非常に厳しい。南北関係に対しても中国の役割は大きいので重要だと思っているが、対中感情が良いわけでない。

 韓国における進歩と保守の岩盤支持層はそれぞれ30%ずつあり、残りの40%が中間層である。したがって、どちらが中間層を取り込むかで勝負が決まる。第三の選択肢が現れない限り、保守と進歩の二大対決になる。51対49というような僅差の勝負になることが予想される。そうすると候補者はどうしてもポピュリスト的にならざるを得ない。

 野党候補は尹錫悦氏であり、検察官としての行政経験はあるが政治経験がない。韓国では政治経験のない人が大統領になったことがない。対日姿勢としては、尹錫悦氏が「大統領になったら、就任後直ちに韓日関係改善に乗り出す」と積極的なのに対して、李在明氏は「日本はいつでも信用できる友邦国家なのか」と疑念を表明し、日本への警戒心をあらわにした。韓国の国民がどちらを選ぶかを、日本は見守らなければならないであろう。

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 いずれにしても重要なのは、日韓米の自由主義陣営が結束することである。そのためUPFは昨年3回にわたって「Think Tank 2022 Forum」という日韓米のオンライン・イベントを開催した。9月18日に行われた第1回フォーラムではマイク・ポンペオ前米国務長官が、10月16日に行われた第2回フォーラムではマイク・ペンス前米副大統領が、11月20日に行われた第3回フォーラムでは投資家のジム・ロジャーズ氏がそれぞれ基調講演を行い、日韓米を三元中継で結んで知識人によるオンラインのディスカッションが行われた。この様子はTV朝鮮を初めとする韓国のテレビ番組として放映された。このようにUPFはその世界的な基盤を動員して、日韓米の自由主義陣営が結束することの重要性を訴え続けているのである。<了>

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