憲法改正について10


2.憲法学者の中で護憲派が主流である理由

 日本の憲法学者の中に自衛隊が違憲であると言ってみたり、護憲を唱える人が多いのは、憲法学者の中に左翼的な人物が多いからです。これは戦後処理の問題と関わっています。

 GHQは1946年に戦前の日本の政策に貢献した人々の公職追放を行いました。これにより20万人以上の人々が職を追われたわけですが、それでも政界や実業界では有力な人々が復帰しました。その中に松下幸之助や岸信介などが入っていました。

 しかし、さまざまな業界で公職復帰がなされる中で、公職追放された人々がまったく復帰しない二つの重要な分野がありました。それが大学とジャーナリズムです。主要大学の主な教授のうち、戦前、政府に利用価値があったような学者はみな追放され、その空席を埋めたのは主として戦前の日本をひっくり返したいと思っていた人、コミンテルンと直接・間接的に関係があった人たちでした。

 たとえば京都大学の瀧川幸辰や一橋大学の都留重人などは、明らかに左翼的思想の持主であったのですが、彼らは教授、法学部長、総長、学長になっていきました。ですから戦後、大学とジャーナリズムというこの二つの分野は左翼的な人々によって牛耳られてきたと言っても過言でないのです。

 こうした左翼的な学者たちの言うことを聞く弟子たちが、雨後の筍のごとく誕生したばかりの新制大学に送り込まれました。大学教授の多くは終身雇用です。大学教授は学問に殉じた職業なので、他は何もできなくてもよく、学説が自分の人格になってしまいます。学説イコール人格なので、教授が後継者を選ぶ際には、自分と同じ学説の人を選ぶようになります。教授は准教授や助教を選出できます。だから大学の人事は、急激に変わらない上に、同じ学説で統一されてしまうのです。

 国立なら東京大学と京都大学、私立なら早稲田大学などが学閥を作って思想集団になっています。主流の学説を支配しているのが東大学説です。こうした中では、護憲派の学者でなければ法学部で生き残れないという事情があるのです。すると憲法学者は軒並み護憲派というような状況になってしまうのです。

3.日本国憲法は世界で唯一の平和憲法か?

憲法改正について図⑮

 よく「日本国憲法は世界で唯一の平和憲法なのでこれをなんとしても守らなければならない」とか「憲法9条を世界遺産に登録しよう」などという話を聞きますが、憲法第9条は世界的に見ても極めて珍しい平和憲法なのでしょうか? 世界の憲法を比較研究してみれば、こうした主張は「井の中の蛙」的な発言であることが分かります。

 西修氏の調査によれば、189カ国中、161カ国の憲法に何らかの形で平和条項があることが分かりました。そもそも、日本国憲法が放棄することを宣言している「紛争を解決するための手段としての戦争」とは侵略戦争を意味し、その放棄は1928年の「パリ不戦条約」に明記されていたのです。パリ不戦条約は、当事国が国際紛争解決のために戦争に訴えることを非とし、国家の政策の手段としての戦争を放棄することを宣言するとともに、国際紛争を平和的に解決すべきことを定めています。これは第一次大戦後、世界から戦争をなくすことを意図して作られたものです。

 日本国憲法の9条1項は、1928年のパリ不戦条約と1945年の国連憲章などの国際法規を前提にしてつくられたものです。これらの文言を読み比べてみると、ほぼそっくりそのまま書き写していることが分かります。日本国憲法はこれらの国際法規範を遵守すると言っているにすぎないのであり、9条1項は日本独自のものでも、世界で唯一のものでもありません。

 西修氏の調査によると、成典化憲法をもつ189カ国中、161カ国(85.2%)が何らかの形での平和条項を持っています。例えば、平和政策の推進、国際協和、非同盟、中立、軍縮、国際紛争の平和的解決などの表現がなされています。その意味で「平和を希求する」という意味の文言は世界のほとんどの国の憲法にあることが分かります。

 日本国憲法9条1項と同じ「国際紛争を解決する手段としての戦争放棄」を謳っているのは、アゼルバイジャン、エクアドル、イタリア、ボリビアの憲法です。しかし、これらの国々の憲法には兵役の義務規定があるのです。ですから、平和条項と戦力の不保持は必ずしも同義ではないのです。

4.各政党の憲法改正に対する主張はどうなっているか?

 それでは現在の国政政党はそれぞれ、憲法改正に対してどのような主張をしているのでしょうか?

憲法改正について図⑯

 自由民主党にとって、憲法改正は結党以来の党是となっています。現在自民党は、①自衛隊の明記、②緊急事態対処条項、③参議院の合区の解消、④教育環境の整備、という4つの柱で憲法改正をやろうとしています。

憲法改正について図⑰

 しかし、同じ政権与党であっても公明党は憲法改正に対してそれほど積極的ではありません。公明党の立場は、制定時に想定されなかった理念や課題を踏まえてそれを憲法に書き加えるという意味の「加憲」を検討するというものです。そして現行憲法は戦後民主主義の基盤を築いたと評価しており、9条は堅持すべきだと考えています。ですから同じ政権与党でも、憲法改正に関しては自民党と温度差があるのです。

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