憲法改正について09


 これまで憲法改正が必要な理由を七つのポイントにまとめて説明してきましたが、このシリーズの残りの回は、憲法改正をめぐる代表的な議論を紹介します。以下の4つの項目を扱いたいと思います。

①左翼が憲法改正に反対する理由
②憲法学者の中で護憲派が主流である理由
③日本国憲法は世界で唯一の平和憲法か?
④各政党の憲法改正に対する主張はどうなっているか?

1.左翼が憲法改正に反対する理由

 いまの政治情勢では、保守的な人々が憲法改正を叫び、共産党をはじめとする左翼勢力は護憲を叫んでいます。しかし、もともとはそうではありませんでした。共産党も社会党も、もともとは改憲派だったのです。

憲法改正について図⑭

①共産党も社会党も、もともとは改憲派だった

 日本共産党は第90回帝国議会(1946年)に政府が提出した『帝国憲法改正案』に対して終始、絶対反対を唱えました。当時、野坂参三は以下のように言っていました。
「当憲法は、我が国民と世界の人民の要望するような徹底した完全な民主主義の憲法ではなく、羊頭狗肉の憲法である」

 共産党は同年6月29日、『日本人民共和国憲法(草案)』を発表しています。この憲法草案は天皇制を徹底的に批判し、「日本国は人民共和国である」ことを第1条に明記していました。これが共産党の本音だったのです。

 社会党は1946年2月24日、「民主主義政治の確立と社会主義経済の断行を明示」することを「方針」とした『憲法改正要綱』を公表し、社会主義の理念を憲法に謳うことを主張しました。左翼の人々の本音はこのようなものだったのです。

②55年体制の確立により、護憲と改憲が逆転

 しかし、この改憲と護憲の立場の逆転が、55年体制の確立によって起きたのです。もともと日本の保守政党は当分は憲法を改正するつもりはありませんでした。彼らは新憲法制定に直接携わった者たちだったので、その困難さを身をもって感じていました。そこでこんなに大変なことであれば、当面の間は憲法の改正などやりたくないと思っていたのです。

 ところが、1955年10月に左派社会党と右派社会党が統一し、「護憲と反日米安保」を旗印にして日本社会党が発足しました。そして翌11月に日本民主党と自由党が合同し、「憲法改正と自主憲法の制定」を党是に掲げる自由民主党が結成されました。このときから、憲法改正をめぐり自民党と社会党の対決姿勢が鮮明になったのです。このように、55年体制の確立をもって護憲と改憲が逆転するようになります。

③なぜ左翼勢力は憲法改正に反対するのか?

 ではなぜ、左翼勢力は憲法改正に反対しているのでしょうか? その第一の理由は、弱い日本であることが「革命」に好都合だからです。憲法を改正したら、強い日本になってしまいます。それは困るので、弱い日本に留めておくためには現行憲法の方が都合がよいのです。そして民主主義の徹底によって、「上部構造」を解体できるからいまの憲法は都合がよいということになります。つまり、左翼勢力は現行憲法を真に尊重し、護ろうとしているわけではなく、革命の前段階では都合がよいので「護憲」を叫ぶというのが、左翼の立場なのです。

④東京大学の小林直樹教授(憲法学)が指摘する矛盾

 左翼の護憲論議の矛盾については、東大で憲法学の教授をつとめた小林直樹氏が以下のように指摘しております。
「日本国憲法は、資本主義の私的自由を確認した点で、社会主義憲法ではない。(筆者注:憲法第29条に「財産権は、これを侵してはならない」とあるので、現行憲法は私有財産を保障しています。)(中略)それは社会主義への道にとって出発点として利用できても、この憲法のもとで、社会主義への移行を完了することができないのは当然であるといわなければならない。つまり、平和的変革の最後の局面では、ひとつの『飛躍』なしに社会主義体制に移行することはできない。別な言い方をすれば、この『移行』と同時に、現行憲法の制度的内容は大幅な『改正』を要することにならざるを得ないであろう」(『現代の眼』1962年6月号)

 日本共産党の本音は「二段階革命論」であると言われています。第一段階は民主主義革命であり、選挙における野党共闘で自民党政権を打倒することを目指します。それまでは「護憲」の立場をとるのです。そして、政権を取った後に第二段階として社会主義的変革を行い、日本を社会主義国家にしようとしているのです。このときには絶対に憲法改正が必要となります。

 したがって、左翼の本音は「改憲」であるわけですが、いまは表向きの「護憲」を唱えているのです。

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