世界の諸問題と統一運動シリーズ06


北朝鮮の核ミサイル問題と世界平和議員連合

 北朝鮮による核・ミサイル開発の脅威は、日本と世界がいま最も関心を寄せている問題の一つです。この問題を解決するためには日米韓の一致と協力が不可欠ですが、それを促進するための世界平和議員連合の活動を紹介します。

<甚大な犠牲を伴うハードランディング>

 北朝鮮の核・ミサイル開発による脅威を取り除く方法は、ハードランディングとソフトランディングの二つに大別することができます。ハードランディングとは軍事攻撃を意味しますが、米国と北朝鮮が戦争状態になれば米国が勝利し、金正恩政権が崩壊することは確実です。しかし、1994年の第一次核危機のとき、板門店で南北会談に臨んだ北朝鮮代表が「戦争になったらソウルは火の海になる」と発言したように、周辺国が受ける被害を避けることはできません。最も大きな被害を受けるのは韓国ですが、国土のほぼ全域がノドンミサイルの射程に入っている日本も攻撃を受ける可能性があります。

<ソフトランディングの道を開いた米朝首脳会談>

 一方、ソフトランディングとは話し合いにより北朝鮮から非核化の合意を取り付けるという意味ですが、その実現に向けて行われた画期的な出来事が、2018年6月12日にシンガポールで行われたトランプ大統領と金正恩委員長の米朝首脳会談でした。この会談の成果に関しては、共同声明にCVID(完全で検証可能で不可逆的な廃棄)という文言が入っていないことを理由に、「中身のない壮大な政治ショーに過ぎず、評価できない」とする立場と、「米朝首脳が会談したことに歴史的な意味がある。米国の意図は、米朝のパイプを築くことにより、いまほど中国に頼らずに北朝鮮問題に対処できるようにすることだ。」と、一定の評価をする立場があります。ハードランディングのもたらす被害の大きさを思えば、平和裏に北朝鮮の非核化を促すソフトランディングの可能性に道を開いたという意味で、昨年の米朝首脳会談は評価すべきであると思われます。

<事実上決裂した第2回米朝首脳会談>

 ところが今年の2月27-28日にベトナムのハノイで行われた2回目の米朝首脳会談は、共同声明を発表することもできずに、事実上決裂してしまいました。この結果に対しては、「完全な非核化」の定義を明確にせず、先送りにしてきた弊害が露呈したのであり、事前の準備が整っていないトップ外交は稚拙であるという批判的な評価と、米国が安易な妥協や合意を避けた点は評価できるという肯定的な評価があります。

 交渉の事実上の決裂によって最も大きな打撃を受けたのは北朝鮮でしょう。金正恩委員長は今回の首脳会談に体制の命運をかけていたので、結果に苦悩していると思われます。派手な前宣伝をしてハノイ入りしたにもかかわらず、成果なしに帰国するのは深刻な打撃であり、金正恩委員長の最高指導者としての威信に傷が付く可能性もあります。さらに、このまま経済制裁が続けば外貨収入が先細り、経済再建は進みません。北朝鮮は交渉戦略の練り直しを迫られています。

<北朝鮮の非核化に対する懸念材料>

 そもそも現在の国際情勢に対する北朝鮮の理解は、「米国主導の国際社会が金正恩体制を圧迫している。自衛のための強力な国防力がなければ、我が国は帝国主義者たちの侵略の犠牲になってしまう。核兵器は抑止力を高めるのに不可欠だ」というものでした。北朝鮮には米国に対する歴史的な不信感があるため、生き残りの「カード」である核を簡単に放棄するとは考えられません。したがって、第2回米朝会談の事実上の決裂は、本当の意味での非核化の意思が北朝鮮にはないことを明らかにしたとも言えます。

 今後、米国は北朝鮮に非核化を促す最大のテコである経済制裁を維持しながら、北朝鮮の譲歩を待つ戦略を継続するでしょう。しかし、トップ会談は不調に終わったのですから、今後の実務協議が進展する可能性も低いと言えます。一方、窮地に陥った北朝鮮が中国に助けを求める可能性は大と言えます。中国にとって北朝鮮は資本主義社会との緩衝地帯という価値があります。中国は南シナ海で権益を拡大する一方で、北朝鮮の問題は米国とその同盟国の関心を中国からそらすうえで有益なのです。さらに、北朝鮮問題を外交カードの一つとして使うことで米国との交渉を有利に進めたいという思惑もあります。

 このように中国にとって北朝鮮は厄介であると同時に必要な存在なのですが、少なくとも中国は米朝が接近することを喜びません。北朝鮮はそのことも承知です。北朝鮮が中国にもすり寄って米中を対立させ、その狭間で「漁夫の利」を得ようとしている可能性は否定できません。

<問題解決のカギは日米韓の結束>

 今後、北朝鮮が韓国の文在寅大統領に助けを求める可能性も大と言えます。第2回米朝会談の事実上の決裂は、南北関係の進展に前のめりで取り組む文在寅大統領にとっては打撃となりました。米朝関係の改善を前提に南北経済協力を本格化させようとしていた目算が狂ったと言えます。

 韓国の文在寅大統領は、金正恩委員長との南北首脳会談を行うことによって、米朝首脳会談を実現させる上での「仲介」の役割を果たしたという意味では、一定の評価をすることができます。しかし、北朝鮮との対話に体重をかけすぎてしまえば、対話と圧力の両方を用いて北朝鮮との交渉を進めようとする日米との間に亀裂が生じてしまいます。特に、最近は日韓関係が非常に厳しくなっている点が大きな懸念材料です。

 日本、米国、韓国が分裂してしまえば、それこそ北朝鮮の思うつぼになってしまいます。北朝鮮に核を放棄させるためには、この三カ国が一体となって圧力をかける必要があります。逆にこの三カ国に隙間や亀裂が生じるときには、北朝鮮による「かけひき」が功を奏するようになるのです。

<日米韓の結束に尽力する統一運動>

 統一運動はこれまで一貫して日本、米国、韓国の一致と協力のために尽力してきましたが、北朝鮮による核・ミサイル危機に対応する上で重要な働きをしているのが、世界平和議員連合です。2016年2月に韓国ソウルで天宙平和連合主催の国際指導者会議が開催された際に、世界60カ国から現職国会議員150名を含む350名の指導者たちが参加するなか、韓国国会議員会館で世界平和議員連合の創設が提案されました。その後、2016年の間に世界の8カ所で国際指導者会議が行われ、リージョンごとの議員連合が創設されました。そして2017年2月に韓国ソウルで世界平和議員連合の第1回総会が行われ、世界の13地域の代表が、世界平和議員連合のリージョン共同議長に任命され、韓鶴子総裁から任命牌を受け取りました。

日米有識者懇談会

2017年5月、都内のホテルで行われた日米議員有識者懇談会

 日本、米国、韓国の三カ国は、世界平和議員連合の模範的活動の一つとして、国会議員同士の交流を促進しています。2017年5月には米国より現職・元職の国会議員ならびに安全保障問題の専門家が来日し、日本の国会議員ならびに有識者と、北朝鮮の核問題について討議するシンポジウムを開催しました。2017年7月には韓国と日本の現職国会議員が米国ワシントンDCを訪問し、アメリカの国会議員とこの問題について討議しました。同年11月には韓国ソウルの国会議事堂において同様の会合が行われました。2018年にも、2月と8月に日韓議員懇談会を韓国ソウルで開催するなど、定期的に議員交流の場を設定してきました。

 日本、米国、韓国の三カ国が、政府間外交だけでなく、国会議員のレベルでも頻繁に会合を重ね、北朝鮮問題に対するお互いの考え方を確認し合うことは、この三カ国の関係に隙間や亀裂が生じることを防ぎ、北朝鮮に対する抑止力を維持する上で非常に有効であると言えます。世界平和議員連合は、こうした「議員外交」を促進する世界的ネットワークとして今後ますます発展していくことでしょう。

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