日韓関係の課題解決におけるソフトパワーの有効性09


6.日韓を和解させるソフト・パワーとしての統一運動の可能性

 鄭榮蘭は、国益を確保するために文化の力を利用するようなソフト・パワー外交に対して否定的な見解を示しており、文化の力は相互理解や多様性の促進を目的として用いられるべきであると主張している。(注72)筆者自身も、特定の政権の特定の政策を推進するためにソフト・パワーを利用することは難しいと考える。それを意図したときには、ソフト・パワーではなくプロパガンダになってしまう。国益や経済的利益の追求を離れて、純粋な動機で日韓両国の友好親善を促進することができるのは民間のNGOやNPOであるが、ここでは特に文鮮明総裁・韓鶴子総裁の主導する統一運動が日韓を和解させるソフト・パワーとしてどのように機能できるかを示唆することによって、未来に対する希望を表現してみたい。

 統一運動の創始者である文鮮明総裁は、「怨讐国家」である韓国と日本を和解させる目的で、韓国人と日本人の国際結婚を推進してきた。「日韓交叉祝福」と呼ばれるこのようなマッチングは1988年の6500双合同結婚式から本格的に始まったが、現在、韓国在住の韓日・日韓家庭が約7000、日本在住の韓日・日韓家庭が約2600存在している。韓国人と日本人が夫婦愛によって一つとなり、そこから生まれた子女は韓日が融合した実体となるのであるから、これ以上に韓日を和合させる強力な力はないと思われる。こうした韓日家庭が韓国社会に及ぼす影響について、全南大学グローバルディアスポラ研究所研究教授・池忠楠は以下のように述べている。
「2015年現在、在韓日本人13,000人余の中で約7,000人余に達する53.8%が国際祝福結婚を通じて韓国に定着した。統計庁によれば2014年基準で、韓国人の国際結婚は23,300件であり、国際離婚は約9,800件で8.4%の離婚率だった。しかし国際祝福結婚によって韓国で生活している日本女性たちの離婚率は概略3-5%で知られている。韓国・日本の国際祝福結婚に参加した日本女性たちは韓国と日本間の尖鋭な政治的・歴史的葛藤があるにも関わらず、個人的な学歴と経済的格差を飛び越えて真の愛を中心にした理想家庭形成に積極的に参加した。特に韓国と日本の間の過去の歴史に対する葛藤と文化的差を克服し、生活の基盤である農漁村で生活している女性たちは多文化家庭の新しい生き方のモデルを提示した。」(注73)

 実際に、韓日祝福を受けて渡韓した統一教会の女性信者は、言葉や文化の違いから当初は苦労の多い生活を送ったとしても、「為に生きる」精神で生活して困難を克服している。その結果、良妻賢母となり、夫や舅姑に気に入られ、周囲も感心する嫁になり、地域から「孝婦賞」などで表彰される者たちも多数いるのである。また、多文化講師や日本語講師として活発に活動している日本人女性も多数いる。

 『産経新聞』の国際面コラム「ソウルからヨボセヨ」で有名な在韓30年以上のジャーナリスト黒田勝弘は、こうした日本人女性について以下のように評価している。
「統一教会の場合、きわめて多くの日本人女性が結婚というかたちで韓国社会に入り込み定着している。その宗教に対する評価は別にして、その存在は数が多いだけに日韓関係では無視できないように思う。そして“日本文化”としての彼女らが韓国社会にもたらす影響は気になる。…

 ところで、韓国社会では日常的に彼女らを垣間見ることができる。たとえば取材で地方に出かけると、自治体の広報関係で日本語通訳としてよく見かける。日本系の居酒屋などのパートもそうだ。大卒がほとんどで、宗教に入れ込むほどの真面目派だから仕事はできる。韓国では近年、国際結婚や外国人居住者が急速に増えている。それを『多文化時代』として行政や支援組織などを通じた“共生プロジェクト”が盛んだが、日本人妻たちも多くそれに参加している。

 一方、韓国のNHKにあたるKBSテレビの長寿番組に、毎週日曜の正午から放送される『全国歌自慢』というのがある。NHKの『のど自慢』をモデルにしたもので、視聴者出演だから人気が高い。…このKBS『全国歌自慢』に統一教会の日本人女性がよく登場するのだ。…番組は地方での録画が多い。事前に予選をパスした人が本番に出るため、出場者は事前審査される。したがって、本番の出演者に彼女たちをよく見かけるということは、彼女らがその地域でそれなりの評価を受けているということを意味する。地方都市や田舎だけに、地元で排斥されたり疎んじられたりしていたのでは、“晴れの舞台”への出場は難しい。

 宗教はともかくとして、彼女らは日本生まれの日本育ちで日本の文化を体現している。その彼女らが子育てや『共生プロジェクト』などを通じて韓国社会にもたらす『日本』が今後、韓国社会にどんな影響を与えるのか興味深いものがある。 」

 このように、祝福を受けて韓国に在住する日本人女性たちは、韓国社会に定着することを通して日韓の和合を促進しているのである。

 統一運動が主導する日韓友好を促進する運動の中で、筆者が毎年関わっているものにPeace Roadがある。2013年の夏、日本最北端の稚内から日本と韓国の友好を願って、両国の数名の若者が「Peace Bike」の名の下に、自転車で走り始めた。日本縦走を目指したこの試みは、和解と平和の心を人から人へと繋いで行く活動として多くの反響を呼んだ。その様子はSNSを通して全国から支援をうけ、リレー形式で日本の縦走を成功させ、さらに玄界灘を越えて韓国の釜山から臨津閣まで連結された。この運動は日韓友好、朝鮮半島の緊張緩和と平和統一のみならず、多文化社会における相互理解と共存を希求するものに発展した。

 このプロジェクトが成功した後、文鮮明総裁聖和一周年記念大会において韓鶴子総裁が「日韓が一つになって臨津閣までの22日間自転車縦走は、祖国統一、南北統一を念願する実践でした。私たちの誠意は臨津閣で終わるのではなく、白頭山を過ぎアジアを経て、全世界に天が望まれる自由・平和・統一の幸せな地上天国を成すまで前進、前進していきます」と語られ、この運動にさらに多くの国が参加するようになった。

 Peace Bike2014には日本側で延べ1200名が参加、北海道納沙布岬から九州まで縦走すると共に、韓国でも大統領官邸前広場から釜山まで、両国で計6000キロを超える距離を縦走した。日本では通過した各都市で、自治体首長や地域社会リーダーに「平和メッセージ」を届け、駐日韓国大使館や各地の領事館から暖かい支援を受けた。縦走の様子はYouTubeにアップされ、それを見て共感した世界14カ国の若者も現地で縦走を実施、Peace Bike運動は世界的な広がりを持つに至った。

 2015年にはその名称を「Peace Road」と発展的に改称し、世界120カ国を巻き込んでの運動となった。この年は日韓国交正常化50周年の節目の年でもあったので、両国の親善友好のための行事が日本各地で開催された。2019年のPeace Roadは7月11日に日本最北端の地である北海道稚内市の宗谷岬で出発した。北海道のピースロードは全長720キロに及ぶ長距離コースだが、その全行程を韓国から派遣された青年ライダーたちが共に走った。同年8月7日から15日にかけて行われた韓国縦走にも、日本からライダーが派遣された。

 こうして日韓がお互いにライダーを送りあい、共に走ることで両国の友好親善を推進しようというピースロードは、「21世紀の朝鮮通信使」の役割を果たそうとしている。事実、これまでのピースロードの記録をひも解けば、各地で朝鮮通信使ゆかりの地をルートに入れて、その歴史を学ぶプログラムが組まれている。例えば、2015年のPeace Roadでは、当時実行副委員長を務めていた遠藤哲也大使が、ライダーたちと共に滋賀県長浜市にある雨森芳洲庵を訪問し、日韓の架け橋となった雨森芳洲の心を学んだという記録が残っている。2018年には三重県津市で「唐人踊りと朝鮮通信使」という題目で講演会を行ったり、徳川家康と朝鮮通信使とのゆかりがある日光東照宮で、東北から関東への引継ぎを行う式典を行うなど、随所にそうしたテーマ設定が見られる。

 Peace Roadに参加した若者たちは、「平和のために自分に何ができるか分からなかったが、とにかく参加して汗を流すことで、平和を自分の問題として感じることができるようになった」と感想を述べている。この運動は、新しい日韓関係を切り拓いていく平和の担い手としての若者たちを育成していくうえでも重要な役割果たしているのである。

 このPeace Road運動には、「日韓交叉祝福」で誕生した日韓家庭の子女たちが多数参加し、父の国と母の国を和解させるために汗を流している。この二つの現象は、日韓を和解させるためのソフトパワーとして連動しているのである。

(注72)鄭榮蘭、前掲論文、p.88
(注73)池南楠「多文化平和運動に関する研究:国際祝福結婚を中心に」p.51
(注74)黒田勝弘、前掲書、p.256-9

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