書評:大学のカルト対策(18)<第二部 1.外来宗教とカルト問題③>


櫻井義秀氏による第二部の最初の記事「1.外来宗教とカルト問題」の三回目です。「六.カルトはなぜ問題か」という節の中で、彼は統一教会に対する自らの思いを炸裂させ、本音を露わにしています。

「私は統一教会に関しては研究をしていますが、布教の最初の時点から自分たちの名前と活動内容を明かした布教をするのであれば、それは認められるべきだと考えています。つまり、『統一教会でいう教えに従えば、日本はエデンの園において蛇の唆しによって先に堕落したエバの立場に立ち、アダムの立場に立つ韓国に絶対的に尽くすしか日本が霊的に解放される道はない。具体的には、姓名判断、家系図診断、各種物品販売等々に従事して、原価の数十倍の価格で韓国の大理石壺を販売したり、都市近郊の資産家をVIP待遇の信者として時に数億円相当の献金を依頼したりするような宗教活動に従事することになる。その上で合同結婚式に参加することが認められ、日本人のみ多額の祝福献金なるものを出した上で教団が勧めてくれた配偶者と結婚することができ、その場合、国際結婚になる可能性(日本人女性の場合は韓国人男性の確率が大)が高い。合同結婚後も、統一教会が主催する修練会やイベントに参加して献金要請に応えていくのである』ということをあらかじめ学生に対して周知して、それでなお、活動しようとするのであれば、私は認めざるを得ないのではないかと思います。」(p.160-161)

よくもここまで本音を言ったものだと思いますが、これは櫻井氏の統一教会に対する偏見を表示したものであると同時に、反カルト勢力の主張する「宗教的なインフォームドコンセント」なるものがいかにナンセンスであるかをよく表している発言であると思います。そこで今回は、この部分の分析と批判に一回を費やすことにします。

私は、宗教団体や宗教的なサークルが勧誘を行う際には、自分たちの名前と基本的な活動を相手に伝えるべきであるという櫻井氏の主張には賛成です。しかし、それに付け加えて彼が主張している、統一教会が伝えるべき情報の内容というのは、まったくのナンセンスとしか言いようがありません。

まず、櫻井氏の描く「統一教会の活動内容」は、普遍的で一般的な統一教会員の姿ではなく、訴訟の陳述書からネガティブで特殊な要素を寄せ集めた、歪曲された描写に過ぎません。この内容のほとんどはCARPの学生の生活には当てはまらないので、大学でのCARPの勧誘とはまったく関係がないばかりか、彼らからすれば知りもしない内容なのです。知らないことを情報開示せよと言っているようなものです。現場のCARPの学生たちは、CARPの目指す内容と基本的な活動を最初に紹介し、自分たちが実生活を通して知っている内容を必要に応じて情報開示すれば良いのであって、自分たちの知らないような内容を説明する必要はまったくありません。

そもそも、宗教団体の信者が伝道や布教を行う際に、基本的な教えを述べる前に、自らの教団の戒律やネガティブな内容を積極的に開示することが期待されており、そうしなければ「不実表示」とみなされるのでしょうか? 例えば、イスラム教徒は、「私たちの宗教では、メッカの方角に向かって1日5回の礼拝をし、ラマダンには1ヶ月間の断食(夜)をし、生涯に一度はメッカに巡礼に行かねばならず、酒は飲めず、豚肉も食べられず、女性には男性と平等な権利はなく、姦淫の罪を犯したら死刑で、他宗教に改宗しても死刑で、場合によってはジハード(聖戦)に参加して殉教していただきます」と最初の段階で言わなければ、人をモスクに誘うことはできないのでしょうか?

イスラム教徒は、9.11の同時多発テロやパレスチナで爆弾テロを行ったのは私たちの仲間だが、それでも話を聞いて欲しいと最初の段階で言わなければ「不実表示」になるのでしょうか?

キリスト教徒は、毎週日曜日の礼拝参加や十分の一の献金、洗礼や聖餐式などの情報、および信徒としての義務をすべて最初の段階で開示しなければ、聖書の話をしてはいけないのでしょうか? カトリック教徒は、十字軍や異端審問などの過去の暗い歴史についてすべての情報を開示し、一部の司祭や修道者による児童への性的虐待問題について最初に説明しないと伝道できないのでしょうか?

こうした主張がナンセンスであることは、米国版の「青春を返せ裁判」とも言える「モルコ・リール対統一教会」の民事訴訟において、米国キリスト教協議会(NCC)がカリフォルニア州最高裁判所に提出した法廷助言書で、以下のように皮肉たっぷりに示されています。

「結婚しようとする男女は結婚許可証を受け取る前に、お互いの最悪な欠点を述べ合うことを要求されているだろうか。弁護士事務所の雇用担当者は法学部卒業生に対して面接時、雇用契約の前に弁護士事務所の欠陥や問題点を述べるよう義務づけられているだろうか。海兵隊の志願者募集で、担当官は訓練キャンプの最悪の悲惨さと、軍隊生活の危険性のすべてを分類して入隊前の志願者に話すよう求められているだろうか。」

数多くある社会の団体の中で、宗教団体だけが自らに対するネガティブな情報を積極的に開示されることが求められているとしたら、それは深刻な差別であると言わざるを得ません。櫻井氏が統一教会に要求していることを一般企業に例えてみれば、「会社説明会」の場において、テレビ朝日は1985年に『アフタヌーンショー』という番組で「やらせ報道」をしてプロデューサーが逮捕されたことを、リクルートは1988年の贈収賄事件を、味の素は1997年に起きた総会屋への利益供与事件を、三菱自動車は2000年に起こしたリコール隠し事件を、雪印と日本ハムと伊藤ハムは2001年に起こした牛肉偽装事件を、石屋製菓は2007年に起こした「白い恋人」の賞味期限改ざん事件を、三菱東京UFJ銀行は2012年に起こした112万人もの顧客情報紛失事件を、シャープは2012年に起こした誇大広告事件を、すべての入社志願者に積極的に情報開示することが求められ、それを十分にしないと「不実表示」に当たると言われなければなりません。

そういう大学も、「学校説明会」の場で、自らのネガティブな情報を積極的に開示しているでしょうか? 北海道大学の不祥事をネットでちょっと検索しただけで、以下のような記事を見つけられます。

「北海道大は2009年8月27日、2007、2008年度に大学院生の論文を審査した5人の教授が現金や商品券、衣料品などの謝礼を受け取っていたことが新たに発覚したとして、5人を訓告処分にした。」

「札幌・中央署は2012年4月13日、児童買春・ポルノ禁止法違反(買春)の疑いで、北海道大学職員の福井将大容疑者(27)を逮捕した。逮捕容疑は1月25日夜、札幌市北区のホテルで、携帯サイトで知り合った無職の少女(16)に現金1万5千円を渡す約束をしていかがわしい行為をしたとしている。 」

こうした内容を、学校説明会の時に積極的に開示しなければ、「不実表示」になるのでしょうか? そんなことは、社会のどの団体もやっていないのです。それを「カルト」視される新宗教にだけ要求するということは、明らかな差別にほかなりません。要するに自分たちがやってもいないことを一方的に要求しているに過ぎないのです。

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